FC2ブログ

ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
15.魔法使いと魔術師


 銀色に輝く鋭利な刃が、藤川琉の白い喉を捕らえている。
 琉の足が踏み潰す寸前だったレインの《生命玉》から離れた。
 当面の危機が去ったことを確認して、真央は改めて胸を撫で下ろした。
 安堵する真央とは対照的に、琉の美貌には肩透かしを食らったような苦い笑みが広がった。
「僕と《魔法の国》へ帰る気になったのかい?」
 己を威嚇する短剣を醒めた目で見下ろし、琉がからかうような口調で告げる。どうやら背後のシルクに向けた揶揄であるらしい。
「先日はシルクがお世話になったかと思ったら、今度は真央とレインですか? とても王子とは思えない所業ですね。レインが急に姿を消したので慌てて追ってきてみれば、案の上――間に合って良かった」
 森理が妹を庇うように真央と琉の間に立つ。琉に向けられた眼差しには、多少の棘と毒が含まれていた。
「マスター、足下――」
 シルクに指摘され、森理は琉の足許に転がるレインの《生命玉》を丁寧に指で拾い上げた。
 森理がそっとそれを両の掌に包み込む。
 すると、そこから燃え上がるような赤光が立ち上った。
 光が消えると、森理は倒れ込んでいるレインに向かって片手を差し出した。ゆっくりとレインの身体を引き起こし、彼の掌に《生命玉》を返す。
 レインの手に載せられた玉は、傷一つ無く艶々とした輝きを放っていた。
 先ほどまでは確かにひびが入っていたはずなのに、今は完璧に修復されている。森理が何か術を施したのだろう。
「マジシャン――なのか?」
 琉の唇から驚愕と畏怖の相俟った声が滑り落ちる。
 魔法使いである彼は、森理が特殊な力を秘めた人間であることを即座に察したらしい。
「人間界には僕たちと同じような能力を持つ者が、稀に存在するらしいね……。なるほど。複数の魔法使いに慕われている君は、どうやら女王にも認められた特例の魔術師らしいね」
 琉の唇が皮肉げにつり上がる。
「そんな大層な者ではありませんよ、王子。まあ、他人より《不思議なもの》を視たり、仲良くなったりする能力に長けてはいるとは思いますけど……」
 森理がにこやかに受け答えする。
 琉を《魔法の国》の王子だ知っている上で、物怖じせずに相対できるあたり、琉の見解は的を射ているのだろう。
 真央は微かな驚きと共に、琉と対峙する兄を見つめた。
 兄がオカルトヲタクの変人であることは重々承知していたつもりだが、まさか魔法使いに匹敵する凄腕魔術師だったとは……。
 ――お兄ちゃん、一生結婚できないかもね……。
 思わず場違いな感想を抱いてしまう。森理の趣味思考を理解してくれる女性など数少ないだろうに、当人も妖しげな能力を秘めていては更に数が激減するに決まっている。本人が恋愛に無頓着なのも尚悪い……。
 お節介にも兄の未来を嘆き、真央は小さく溜息を洩らしていた。

「とにかく――妹とレインは返してもらいます。王族のあなたでも、流石にマジシャンと三つ紋二人を同時に相手にするのは分が悪いでしょう?」
 森理が笑顔のまま告げる。口調は穏やかだが、内容は明らかに琉に対する『勝利宣言』だった。
 琉がハッとしたように、己に刃を突きつけているシルクを見上げる。
 シルクの額にも三つの◆が鮮やかに浮かび上がっていた。
 如何に琉が素晴らしい能力を秘めた王子でも、レインとシルクと森理を一手に引き受けるのはどう考えても無理がある……。
「――チッ……!」
 琉が忌々しげに舌打ちを鳴らす。
 矢庭に琉はシルクを乱暴に振り切ると、真央に向かって疾駆し始めた。
「あと一人――たった一人、ウィザード・マスターの生命を奪えば、《魔法の国》へと繋がる扉が開くのに……!!」
 琉の心に呼応するように彼の額から剣が生まれる。オパールのような輝きを纏った幻想的な刀剣だ。
 琉の手が素早く柄を握り締める。
「王子! それは、あなたの母上が誰も実行しないことを前提に定めた掟です! ですから、やり遂げたとしても決して――――」
 琉を思い留まらせたい一心なのだろう。彼に殺されたかけたというのに、レインの口からは真摯な叫びが飛び出した。
「黙れっ! 誰も実行したことがないなら――完遂するまで真偽は判らないだろ! 僕は……どうしても復讐を果たさなければならないんだっ!」
 レインの想いを叩き落とすような勢いで、琉が声を荒げる。
 驚愕と恐怖に立ち尽くす真央に向けて、琉の剣が躊躇なく振り下ろされた。
 華々しく血飛沫が舞う。
 だが、真央の身体には衝撃や痛みは全くなかった。
 刀身が真央に触れるより速く、何者かが真央に前に立ったのだ。
「――つッ……!」
「楠葉くんっ!?」
 真央は悲鳴をあげた。
 自分を庇ってくれたのは、琉の魔法使いである楠葉尊だ。
 楠葉の右肩がザックリと裂かれ、そこから大量の血が溢れ出していた。
「くそっ……オレ、今日、斬られてばっかじゃん……。スッゲー損した気分…………けど、琉を止められるなら――悪くない……かな……」
 楠葉の唇から苦悶の呻きが洩れる。
 喋るのも辛いだろうに、彼は依然として真央を護るようにして立ち、正面から己の主を見つめていた。
「もう……止めよう、琉――」
 トパーズのような双眸に哀切な翳りが射した。



     「16.砕けた心」へ続く


あと3回ほどで終わる予定です。もう少しだけおつき合い下さいませ~。
 
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ
スポンサーサイト
2010.10.30 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。