ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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77777HIT ありがとうございます♪
この記事を上げている時点で、80000HIT超えていますけれど――こちらは77777HIT記念の「アヴィリオン」小咄になります(;´▽`A``
「幸せなその後」的なリクエストをいただきましたが、ちっともほのぼのしてません←
本編ネタバレが満載ですので(汗)未読の方はコチラからどうぞ→「アヴィリオン」



Terrestrial Paradise


 冷たい霧雨の降る夜だった。

「ラグネル・パンドラ――」
 いつものように夜の散歩に出かけている最中、突如として背後から呼び止められた。
 グレートブリテンの要であるシティ・オブ・ロンドン――人気のない裏通りで思いがけず本名を呼ばれ、ラグネルは足を止めた。
 浮き浮きと回していた傘を止め、胸に警戒心と緊張を抱く。
 太平洋上に浮かぶ巨大人工島ブロスリアンドを出てからおよそ半年――表向きにはモリガンが用意してくれた偽IDを使用し、偽名で暮らし続けてきた。
 なので、このグレートブリテンで自分が『ラグネル・パンドラ』であることに知る人間は、生活を共にしているガウェインとリガだけだ。
 グレートブリテン以外の人間では、霊長類研究機関《アヴィリオン》の特殊エージェントであったガラハッドとモリガン、ブロスリアンドの議長であるアキラ・ウサミ氏――
 それ以外に考えられるのは、どこか大国の諜報員か巨大研究機関の手の者くらいだ。

「ラグネル・パンドラ――忌々しい人間の出来損ない」
 憎悪と侮蔑の籠もった低い声を聴き、ラグネルは眉をひそめた。
 どうやら歓迎できぬ来訪者は、明確な敵愾心と怨恨を持ってラグネルを捜し当てたらしい。
 ラグネルを人工生命体だと知った上で追跡してきたのだ。
 ラグネルは《アヴィリオン》で創られたバイオ・ヒューマノイドだ。
 遺伝子工学と生命工学の天才――ミユキ・クルミザワを筆頭とした五人の博士たちのよって生み出されたのである。ラグネルの身体には、高度な人工知能と人工臓器、そして博士たちの優秀な頭脳と溢れんばかりの知識が搭載されていた。
 外見はどこからどう見ても人間そのものだし、思考回路も独自のものだとラグネルは自負している。
 自分が博士たちの夢を結晶させたアンドロイドだということは重々承知しているが、無関係の他人からそれを指摘されるのは不愉快だった。侮辱されているのならば尚更だ。
「出来損ないじゃないわ。わたしはラグネル・パンドラ――人間よ」
 ラグネルはゆっくりと身を反転させ、真っ直ぐに相手を見つめた。
 そして、相手を確認して――目を眇めた。
 霧雨の中、こちらに銃口を向けているのはプラチナブロンドの美しい女性だったのだ。
 低い声から勝手に男性を想像していたので、相手が若い女性である事実に小さな驚きを覚えた。
「ミユキ――――!?」
 街灯に照らされたラグネルの顔を目の当たりにして、女の方もハッと息を呑んだ。
 青紫の双眸が驚愕に瞠られ、次いで哀しみと怒りに揺らいだ。
「本当にミユキ・ウサミにそっくりなのね……」
 女の唇に冷笑が刻まれる。
 ラグネルの脳内では『ミユキ・ウサミ』という言葉が即座に『宇佐美深雪』という和名に変換された。
 宇佐美深雪――ウサミ議長の愛娘であり、ラグネルのモデルとなった人物だ。
 そもそもラグネルがこの世に生まれることになったきっかけは、亡き姉を慕う弟のフレイの妄執だ。フレイが最愛の姉を甦らせようと企てたことに端を発するのである……。
「そっくりなだけで、中身は別人よ。ところで――あなたは誰なの?」
「私は、ベリッド。フレイ・ウサミの大学時代の同期で元同僚。もちろん、本物のドクター・ミユキとも同級生よ」
 女――ベリッドは挑戦的にラグネルを見据え、冷ややかに告げた。
 彼女は、アヴィリオンにいたドクター・ミユキの正体がヒューマノイドであることを知っている。
 フレイとミユキ・クルミザワの同期で同僚だったというのは、真実なのだろう。それは即ち――彼女もアンドロイドの創生が可能な科学者であることを意味していた。
「あなたは、フレイとクルミザワが生み出した最高傑作。だから、私が譲り受けるわ」
「残念だけれど、わたしを生んでくれたのはアヴィリオンの博士たちよ。クルミザワ博士はともかく――フレイ・ウサミは関係ないわ」
 ラグネルは、姉への盲愛に取り憑かれたフレイの姿を思い出し、きつく眉根を寄せた。
 彼の異様な愛情と狂気は、五人の博士たちの人生を狂わせ、アヴィリオンに住んでいた特殊エージェントたちの生命を奪い、ガウェインたちを奈落の底へ突き落としたのだ。

 アヴィリオン――アーサー王が最期の刻を過ごしたとされるアヴァロンの別名。
 一説によると、そこは『楽園』の島だったと言われている……。
 だが、ガウェインたちが博士たちと蜜月を過ごした『楽園』は、もうこの世の何処にも存在していない。
 蚕の繭のような奇怪な研究所は完全に取り壊され、美術館に生まれ変わったと先日テレビで報道されていた。

「ミユキ・ウサミと同じ顔をしてフレイとは無縁だなんて、よくも言えるわね」
 ベリットの唇が弧を描き、酷薄な笑みを象る。
「フレイの生命を奪ったあなたはのことは憎いけれど、その肉体とプログラムに詰め込まれた奇才五人分の頭脳に免じて――殺すのは止めてあげる。ああ、殺すなんて言い方も相応しくないわね。機能を停止させて、これまでのメモリを全消去して――再起動させてあげる。次に目醒めた時、あなたの裡にはフレイの子供が宿っていることになるわね」
 ベリットが銃を構え直し、青紫色の双眸をスッと細める。
 彼女の言葉は、悪意の塊としか思えなかった。一言一言が鋭利な刃物のようにラグネルの胸を突き刺す。
 おそらくベリットは、研究仲間としてでも同期としてでもなく一人の異性としてフレイに好意を寄せ、愛情を抱いていたのだろう。
 ラグネルを射る剣呑な眼差しが、それを如実に物語っていた。
「何よ、それ? フレイの子供って、どういうこと? あの人は、確かにわたしが銃弾を撃ち込んだし、ガウェインの炎に焼かれて肉体も消滅したはずよ」
 ラグネルは負けじとベリットを睨み返した。
 フレイの名前を口にするだけでもおぞましい。
 半年前のあの日――フレイ本人にも告げられたことだが、彼の子供を宿すなんて想像しただけでもおぞけがする。
「私たちは科学者であり探求者よ。フレイの目的は、生殖機能を有するヒューマノイドを完成させること。開発に乗り出した時から、精子も卵子も冷凍保存してあるに決まってるでしょう。民間人に提供してもらうより研究者のものを使用した方が面倒もないから――当然あるわよ、フレイのものも」
「研究のために、わたしの身体を使う――ってことね?」
 ラグネルはますます顔をしかめた。
 自分が創られた第一目的はミユキ・ウサミを甦らせることであり、フレイは姉の姿をしたラグネルと自分の子供がミユキ・ウサミの生まれ変わりになる――と信じて疑わなかったのだ。
 妄想を飛び越えて、彼は狂乱の渦の中に身も心も沈めてしまった……。
「当然でしょう。この地上で完成体はあなたは一人だけだし、あなたはそのために創られたのだもの。フレイの遺志を継ぎ、私が研究を続行してあげるのよ。有り難く思いなさい。あなた――この世にフレイを再生させる大役を担うことになるのよ」
 ベリットが凄惨な笑みを湛える。
 血走った青紫の双眸は、いつの日か目にしたフレイの瞳と同じ――狂気に侵されていた。
「結局は……あなたもそこに行き着いたってわけね……。可哀想な人。けれど、わたしはあなたには従わないし、フレイの子供なんて宿さない。再起動なんて――冗談じゃないわ! 今のわたしの記憶はわたしのものだし、ガウェインとリガを失うなんて、とても考えられない」
 ラグネルは毅然と言い放った。
 ――わたしは今、きっと幸せなんだ。
 この非常時に、場違いにもそんなことを実感した。

 失いたくない大切なものがある。

 ランスロットを喪って一時は悲嘆に暮れていたラグネルだが、アヴィリオンで知り合ったガウェインとリガと共に暮らすうちに――必然的に彼らの占める割合が大きくなっていた。
 失うのは怖いし、彼らと離れ離れになることを想像するだけで畏れを感じる。
 裏を返せば、それは『今』が満たされていることの証だ。
 ――ああ、またちょっとガウェインの気持ちが解っちゃったかも……。
 ふと、また余計な感慨が湧いてくる。
 ガウェインが弟のように愛情を注いでるリガに対して過保護になるのは、リガと共に丁寧かつ大事に育んできた平穏と絆を失いたくないからなのだろう。
「わたしは、あなたとは一緒に行かないわ」
「あなたは死なない人形だけれど、戦闘能力はゼロに等しいのよね。是が非でも研究所に連れて帰るわ」
「諦めた方が賢明よ、ベリット。わたしに手を出した瞬間、白い死神があなたの生命を奪いに来るわよ」
 ラグネルが強気な眼差しでベリットを睨めつけると、彼女はさもおかしげに唇を歪めて笑った。
「ああ、あなたのあの――アルビノの彼ね。ドクター・ランスロットが可愛がっていた白い悪魔。アレが何なのか調査していないとでも思うの? 何のために、わざわざこんな寒い雨の夜を選んだと思ってるのよ? あなたの彼氏――自由に《力》を発揮できないんじゃない?」
 ベリットが銃を持たない手をわざとらしく広げ、掌に天に向ける。
 彼女の悪意に応えるように、夜空から降り注ぐ雨が唐突に強さを増した。

 霧雨が激しい雷雨へと転じる。

 ラグネルは恟然と目を瞠り、唇を噛み締めた。
 ベリットはラグネルの傍にいるのが何者であり、どんな異能力を保持しているのかしっかり調査済みなのだ。
 ガウェインの特殊能力は――発火。
 ベリットの予測通り、この雨ではガウェインの炎は掻き消されてしまうだろう。
「まあ、役に立たない彼氏が来ても問題ないわね。むしろ彼氏も生け捕りにして、アヴィリオンで行われていたように人体実験してみたいわ。それにアルビノって――フフッ、とっても高く売れるそうじゃない? あなたを楯にしたら、研究費用を稼いできてくれるかもしれないわね。私にとっては一石二鳥だわ」
「最低っ……! 科学者としても女性としても低俗で最悪ね、あなた!」
 ラグネルは怒りに燃える瞳でベリットを見据えた。
 人生の半分以上を昏く澱んだ裏世界で生きてきたガウェイン――彼を再び汚泥の中に引き摺り込むことは許せないし、耐えられない。
 絶対に阻止しなければならない。
 最近、ようやくラグネルに対しても普通に接し、笑いかけてくれるようになったのだ。
 彼から笑顔を奪うことも、リガからガウェインを奪うような真似もさせてはならない。
 楽園を追われたガウェインとリガを不幸にさせないこと――それが五人の博士たちの遺言であり、ガラハッドとモリガンから託された願いであるのだろうから……。
「私からフレイを奪ったあなたたちが悪いのよ」
 ベリットが正気の眼差しでラグネルを睨み、冷徹に言葉を紡ぐ。
 彼女が天へ向けていた片手を振ると、それを合図に建物の影から黒ずくめの男たちが姿を現した。
 気づけば、辺り一帯は武装した男たちによって包囲されている。
 不利な状況に立ち竦んでいると、迂闊なラグネルを嘲笑うかのように雨足が激しくなった――


     *


改めまして、77777&80000HIT、ありがとうございます(´∀`)
5話以内には完結する予定です←

 
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2010.11.27 / Top↑
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