ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 窓に当たる雨がガラスを伝い落ちる。
 先程まで霧雨だった雨は、少しばかり強さを増したようだ。
ガラス窓に生じる水の筋が太くなったのを確認して、ガウェインは僅かに眉根を寄せた。
 ラグネルが夜の散歩に出ていることを思い出したからだ。
 ランスロットと一緒に暮らしていた時からの習慣らしく、ラグネルはグレートブリテンに移住してからも独りで夜の街を徘徊することを日課としていた。
「――ったく、あのバカ女、いつまでほっつき歩いてるつもりだ?」
 ポツポツと窓にぶつかる雨粒を眺めながら、ガウェインは無意識に文句を垂れていた。
『ああ、ラグネルは散歩中なのか』
 苦笑混じりの声が耳に届き、ガウェインは視線を窓から巨大モニターへと移動させた。
 壁に設えられたモニターには、長い黒髪を一つに束ねた青年の姿が映し出されている。
 世界的に有名なマジシャン――ガラハッドだ。
 ガウェインたちと同じくアヴィリオンの住人だった彼は、バラバラに暮らすようになってからも時折こうして連絡を入れてくる。
 年長者であるガラハッドにとっては、ガウェインもリガもまだまだ子供で、危なっかしい弟にしか見えないのだろう。
「あいつ、自分が研究機関や国家組織に狙われる対象だって自覚がなさすぎるんだよ」
 ガウェインが不満を吐き出すと、モニターの中のガラハッドは煙草を口に咥えたまま再び苦笑を湛えた。
『天才博士五人分の頭脳を搭載し、尚かつ生殖機能を有するスーパーバイオヒューマノイドだもんな……。正体がバレたら各国の研究機関がほっとかないだろうな。博士たちとウサミ議長の秘密主義が幸いして、今のところ情報は漏洩していないようだが……』
 ガラハッドの唇から大量の紫煙が吐き出される。彼のヘビースモーカー振りも以前と何ら変化はないらしい……。
『――リガは?』
「ん? 今、フロに入ってる。最近、フロに入るとしばらく出て来ないんだよ」
 ガラハッドの質問に対して、今度はガウェインが苦笑いを零す番だった。
「ラグネルがさ、マメにサイボーグ部分を調整してくれるから、今は――成長抑止剤を使ってないんだ。だから、日々変化してゆく左半身を眺めるのが楽しいし、嬉しいらしい。この半年で二センチも身長が伸びたんだ、リガのヤツ」
『成長期に強引に発育を止めてたから――その反動で急成長してるのかもな。まあ、元気ならそれでいいけどな』
「ビックリするくらい元気だよ。だから、あのバカ女には……感謝してる」
 ガウェインは低い声音で呟き、口元に微笑を閃かせた。
 照れ臭いし、素直じゃない性格が災いして面と向かって礼を告げることは中々出来ずにいるが、ラグネルに対しては言葉では表せないほどの深謝の念を抱いている。

 ウサミ邸が炎上したあの日――復讐を終えたリガは、ガウェインの前から消えた。
 狼狽え、悲嘆に暮れるガウェインの頬を引っぱたいて正気に戻してくれたのは、ラグネルだ。
 彼女の『わたしがリガを死なせたりしない』という言葉に勇気づけられ、ガウェインはリガの生家があるグレートブリテンにやって来たのだ。
 廃墟と化したイゾルデ家で、衰弱している金髪の少年を発見した。
 ラグネルと二人で手厚く看護し、もう成長を止める必要もないし、マーリンの処方やサイボーグパーツの件もラグネルがいるから心配ないのだと切々と説くと――リガは泣きじゃくりながら『ありがとう』と告げ、ガウェインとラグネルに抱き着いた。

 以来、リガは涙を流していない。
 代わりによく笑うようになった。
 今はロンドンに小さな家を借り、三人でひっそりと穏やかな暮らしを営んでいる。
 ブロスリアンドで暮らしていた頃に比べれば、神経を尖らせることも少なくなったし、特殊能力を駆使する必要は全くと言っていいほどなくなった。
 リガがいて、ラグネルがいて――笑い合い、喧嘩したり、からかい合ったりしながら食卓を囲み、共に食事する。
 些細なことだが、それは紛れもなく安穏とした日常であり、今まで知り得るはずのなかった幸せだった。
 奇妙な縁で繋がった絆だが、今ではすっかり三人でいることが当たり前になっている。
 ガラハッドがこうして連絡を寄越してくれることも、素直に嬉しかった。
 未だマジシャン・ガラハッドとしてたまにテレビなどに出演している姿を観るが、やはり素の彼と言葉を交わすと郷愁めいた温かさを感じる。
「――アレ? いういや……モリガンは?」
 ふと、もう一人の年長者のことを思い出し、ガウェインは疑問をそのまま唇に乗せていた。
 ブロスリアンドで別れた後、一度も顔を見ていないのはモリガンだけだ。
『あー、まあ……遅い青春を謳歌してる――っていうか派手に恋愛ごっこしてるっていうか……とにかく愉しんでるみたいだな』
 ガラハッドは歯切れ悪く応じ、またしても苦々しい笑みを浮かべる。
『おっ、ちょうどテレビに映ってるんじゃないか?』
「――は? テレビ?」
『チャンネル889に合わせてみろ』
 状況を理解できないままガウェインはリモコンを手に取り、言われるままにチャンネルを操作した。
 直ぐさま画面が二分割され、左側にガラハッド、右側にワイドショーと思しき映像が出現する。
 テロップには『カリブのリゾートプリンス、謎の美女と豪遊!』と打たれていた。
 世界的に有名なホテル王の息子が、妖艶美女との熱愛を報道されているらしい。
 そのセレブの相手というのが――モリガンだった。
 画面に映る派手な巻き毛と見事すぎる肢体は、モリガン以外の何者でもなかった。
「あいつも……人目を忍ぶとか慎み深く生きる、とか――そういうのとは相変わらず無縁みたいだな……」
 ガウェインは神経質に頬を引きつらせ、冷ややかな眼差しでワイドショーを眺めた。
 育ちの良さそうなブロンド美青年に腕を絡め、モリガンが非常に愉しげに顔を綻ばせている。
 彼女は、新しい人生を着実に歩み始めているのだ。
 艶やかな笑顔には、何処か吹っ切れたような清々しさがあった。
『自由奔放に生きるのが、モリガンにはお似合いだからな』
「まっ、確かに――」
 ガラハッドの言葉に大きく頷き、ガウェインはリモコンを操ってワイドショーを消した。
 モリガンが外の世界で自由に羽根を伸ばしているのを確認できただけでも嬉しい。
 気紛れな彼女のことだから、きっとそのうち何の前触れもなくここにも遊びに来てくれるだろう。
 モニターいっぱいにガラハッドの姿が広がった瞬間、
「ガヴィ!」
 バタンッと勢いよくドアが開き、眩い金色の輝きが室内に飛び込んで来た。



モ、モリガンはもう出ません(((゜д゜;)))
 
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2010.11.29 / Top↑
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