ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ガヴィ、僕、また背が伸びたみたいだよ!」
 部屋に駆け込んで来るなり、リガが嬉しげに声を弾ませる。
 ガウェインを見上げる蒼い双眸は純粋な輝きを放っていた。頬がほんのりと上気しているのは、風呂上がりの上に胸が歓喜に満たされているからだろう。
「おっ、少し――伸びたかもな! 顔の位置が前より近い」
 ガウェインは冗談めかして告げ、リガの髪を指で梳いた。途端、水の感触が肌に纏わりつく。
「後でラグネルに微調整してもらわないとな。――ってか、髪くらいちゃんと拭いてこいよ、リガ」
 ガウェインは改めてリガを眺め、僅かに顔をしかめた。
 着衣し、首からバスタオルをぶら下げているものの、長めのハニーブロンドは濡れたままなのだ。自分の成長を早くガウェインに伝えたくて、急いでバスルームを飛び出してきたに違いない。ガウェインからしてみれば、リガが風邪をひいて体調を崩したりすることの方が心配でならないのだが……。
 ガウェインはリガの首にかかるバスタオルを両手に取り、ガシガシと濡れた髪を拭き始めた。
「おまえがはしゃぐから、ガラがさっきから画面の向こうでニヤニヤしてる」
 ガウェインは手を動かしながら、チラと巨大モニターに視線を馳せた。
 紫煙が立ち込める画面の中で、ガラハッドが声を殺して笑っている。リガがモニター通話に全く気づかず、まっしぐらにガウェインに駆け寄ったことが可笑しかったのだろう。
「――えっ? ガラが見てるのっ!? ソレを先に言ってよ、ガヴィ!」
 リガが驚いたように声のトーンを上げ、慌ててガウェインの手を止める。
 バスタオルの中からヒョイと顔を出すと、リガはモニターの方へと首をねじ曲げた。
 画面の中に煙草を咥えたガラハッドの姿を発見し、蒼い瞳が喜びに煌めく。
「ガラ、久し振りだね! 元気だった?」
『ああ。リガは……ちょっと見ない間に大人になったな』
 新しい煙草に火を点けながら、ガラハッドが黄金色の双眸を眩しそうに細める。リガに向けられた眼差しには、我が子の成長を見守るような慈しみに溢れていた。
「うん。お姉さんがマメにメンテしてくれるから、身体にもそんなに負担はかかってないみたい」
『そうか。ラグネルに感謝しないとな。――他に何か困ったこととかないか?』
「ないよ。あ、ガヴィがたまにお姉さんをいじめることくらいかな?」
「リガ!」
 無邪気に報告するリガの頭にバスタオルを投げ、ガウェインは不服げに唇を歪めた。
 間にリガを挟んで、ラグネルとはそれなりにコミュニケーションを取っているはずだ。時々、嫌味合戦になるのは元々性格が微妙に合わないからだろう……。苦手でも嫌いでもないが、喋っているうちに何故だか齟齬を来す。お互いそれを熟知しているので、自然とリガを交えての会話が多くなっていた。
「本当はお姉さんのこと好きなのに意地悪するなんて――子供だよね、ガヴィって」
「――――!? オレがいつあの女を好きだなんて言った!?」
 ガウェインはリガの指摘に愕然とし、思わずムキになって問い質してしまった。
 博士たちの夢の結晶であるラグネルは、ある意味特別な存在ではある。
 しかし、異性として意識しているか――と訊かれれば疑問が生じる。ラグネルがヒューマノイドであろうとなかろうと、彼女と恋愛をしている自分の姿が想像できない。
 ラグネルと相対していると嫌でもランスロットを思い出す。だから、彼女の存在自体は認めつつも恋愛対象としては無意識に回避しているのかもしれない……。
「え、違うの?」
 リガが悪戯っぽい眼差しでガウェインを見つめ、小首を傾げる。まだ水気を孕んでいる金髪が揺れ、蛍光灯の光に反射して眩く輝いた。
「ガヴィとお姉さんって、とってもよく似合うんだけどなぁ。このグレートブリテンに残るアーサー王の伝説ではね、ラグネルって円卓の騎士ガウェインの妻なんだよ。お姉さんとガヴィもそうなってくれたら、僕も嬉しいんだけどな」
 リガが柔らかな笑みを浮かべる。整った顔に広がる微笑みは『天使のような』という形容がぴったり合うほど、純粋で美しい。
 その他意のない笑顔を見て、ガウェインの胸は小さ痛みを発した。
 リガは本心からガウェインとラグネルの幸せを願っているのだろう。
 だが、万が一ラグネルと自分が恋仲に発展した場合のリガの心情や行動を推察すると、ガウェインはどうしてもやるせない想いを抱いてしまう。心優しいリガのことだから、ガウェインたちに遠慮して距離をおくかもしれないし、最悪また姿を眩ましてしまう可能性だってある。
 リガを決して独りにはさせたくない。
 そう強く思う自分は、やはり過保護で親馬鹿なのだろうか?
 リガがガウェインの幸せを願うように、ガウェインもリガの幸せを何よりも願っているのだ。
 自分が幸福になることで、リガが寂しい想いをしたり疎外感を覚えたりするのは、本末転倒以外の何ものでもない……。

「オレは……アーサー王の伝説なんて知らないし、円卓の騎士でもない」
 ガウェインはフッとリガから視線を逸らし、渋面で呟いた。
「ガヴィ……?」
 リガが小声でガウェインの名を呼ぶ。
 そこに不安げな響きが織り交ぜられているのを感じて、ガウェインは我に返った。
 リガに心痛を与えたいわけではない。
 ただ、自分のこの複雑な心境をどう整理し、どう説明して良いのか――全く見当もつかなかったのだ。
「オレは、リガの喜ぶことだったら何でもしてやりたいし、おまえが笑ってくれるなら――どんなことでも耐えられる。オレの幸せがリガの幸せに繋がるっていうなら、これだけは覚えておいてくれ」
 ガウェインはゆっくりと視線をリガへ戻し、正面から彼を見つめた。
「リガの存在そのものがオレには一番大事だし――リガの笑顔なしには、オレの至福は有り得ない」
 真摯に言葉を紡ぐ。
 リガは意表を衝かれたようにハッと息を呑んだ。
 蒼い瞳の中で、驚きと戸惑いと喜びが忙しなく揺れ動いていた。

『何だ、それは愛の告白なのか、ガウェイン? 見ている俺の方が妙に照れ臭いんだが――』
 不意に、コホンッとわざとらしい咳払いが聞こえる。
 ガウェインとリガは同時に目を見開き、弾かれたように壁の巨大モニターへと顔を向けた。
 モニターの中では、煙草を咥えたガラハッドが苦々しい笑みを浮かべている。
『まあ、頭を悩ませなくていいことにまで神経使ってるみたいだけど――無駄に悩むのは青少年の特権だからな』
「ソレ、モリガンの台詞だろっ!」
 ガラハッドの存在をすっかり失念していた己に羞恥と怒りを感じ、ガウェインは半ば八つ当たりのように声を荒げた。
『お姉様の代理で言ってやったんだよ。小難しいことなんて考えなくても、三人で暮らす今が満ち足りてるなら――おまえたちはきっと幸せなんだろ。俺としては、誰も欠けることなく、その安寧の時間が長く続けばいいと思うけどな』
「わざわざ言われなくても――――」
 照れ隠しに尚も悪態をつこうとしたガウェインだが、突如として全ての動きを止めた。
 ――ガウェイン……!
 脳に直接響くような声が聴こえる。
 よく知った女の声――ラグネルだ。
「どうしたの、ガヴィ?」
「今……あのバカ女の声が聴こえた。雨の音でよく聴き取れないけど――呼んでるみたいだ。それと、ラグネルの周囲から複数の呼吸音と足音――金属音も微かに聴こえるな」
 ガウェインは若葉色の双眸に鋭利な輝きを閃かせ、声のした方角へ首を巡らせた。
 ガウェインの特殊能力は、発火だけではない。アヴィリオンで訓練を受けるうちに、常人を遙かに凌駕する身体能力も備わったのだ。神経を研ぎ澄ませれば、半径三キロ程度の物音を拾うことも可能だった。
「大変だ! きっと誰かに襲われてるんだよ!」
 リガが焦燥に顔を青ざめさせ、部屋の奥へと駆ける。
 クローゼットを豪快に開き、その中から銃器を幾つか手にすると、彼は慌ててガウェインの元へ戻って来た。
「ガヴィ、お姉さんを助けに行こう!」
「解ってる。――けど、あの女……何でもっと必死に呼ばないんだ? 雨音がうるさい上に声が小さすぎて、位置が上手く把握できないんだよ……!」
 ガウェインが苛立たしげに舌打ちを鳴らすと、
『心配するな。二人まとめて、今すぐラグネルの所へ跳ばしてやる』
 すかさずモニターの中からガラハッドが有り難い提案をしてくれた。
「触れてないのに、跳ばすことなんて出来るのかよ?」
 ガウェインが驚愕混じりに問いかけると、ガラハッドは紫煙を燻らせながら不敵な微笑を口の端に刻んだ。
『俺を誰だと思ってるんだ? マジシャン・ガラハッドに不可能はないんだよ。――手でも繋いでろ』
 モニターの中でガラハッドの片手が持ち上がるのを見て、ガウェインは大急ぎでリガの細い身体を抱き寄せた。
 パチン、とガラハッドが小気味よく指を鳴らす。
 刹那、室内の景色が急速に歪み、視界が暗転した――


     *


あと2、3話で完結すると思います(^▽^;)
 
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2010.12.02 / Top↑
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