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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 突如として、空間が大きく歪んだ。
 静寂が世界を支配する。
 ラグネルをはじめベリットも武装した男たちも動きを止め、固唾を呑んで捻れた箇所を見つめていた。
 そこだけ時が止まったかのように、雨がスローモーションのように流れ落ちる。
 呼吸を一つする間に、夜の闇を裂くようにして金と銀の輝きが吐き出された。
 空間のひずみが消え、水の飛沫を跳ね上げながら二つの人影が着地する。
 同時に、再び世界が動き始めた――

「ガヴェイン! リガ!」
 ラグネルは黒曜石の双眸に明るい輝きを灯し、忽然と出現した青年と少年を見遣った。
 今、ラグネルが最も信頼し、大切にしている同居人たちだ。
 ガウェインの素晴らしすぎる聴力がラグネルの声をキャッチし、危地に駆けつけてきてくれたのだろう。空間が歪曲したことから察するに、詳細は謎だが彼らはガラハッドの特殊能力で空間移動してきたらしい。
 銃を手にしたガウェインが、ラグネルにチラと視線を流す。
 彼は、ラグネルが無傷であることを素早く確認すると、ベリットの方へ身体を向けた。
「白い……悪魔――」
 ベリットの朱唇から畏れを孕んだ呟きが洩れる。
 ガウェインの銀髪と抜けるように白い肌は、夜の闇によく映える。
 ベリットの青紫の目はガウェインの稀有な姿に釘付けになっていた。資料で識っているのと実物を目の当たりにするのとでは、衝撃の度合いが違うのだろう。
 本人にはあまり自覚はないようだが、ガウェインは女性が思わず目を奪われてしまうような端整な顔立ちをしているのだ。その上、華々しい銀髪の持ち主だ。ベリットが見惚れたとしても無理はない。
「何て綺麗なの……! 美しいペリドットの瞳――とても義眼だとは思えないわ! 素敵。これがアヴィリオンの研究成果――ドクター・ランスロットの最高傑作……!」
 感嘆に身も心も震わせているのか、ベリットの声が上擦り、手にした銃身が小刻みに揺れる。
 ガウェインの顔が鬱陶しげにしかめられる。『研究成果』と『ランスロットの最高傑作』という言葉が、彼の不快感を煽ったのだろう。
「白い悪魔が天使を連れているなんて、魅惑的な光景だわ。でも、こんな天使のデータは資料にはなかったはず――何者なの? 《X》《Y》《Z》――どのナンバーなのかしら? その華奢な身体にどんな能力が秘められているのか、研究所でじっくりと実験したいわね」
 ベリットの視線がリガに注がれる。眼差しには倒錯した恍惚の輝きが宿っていた。
「気持ち悪い女だな」
 ガウェインがリガを庇うように一歩前に出て、嫌悪感たっぷりに吐き捨てる。
「ラグネルは渡さないし、リガにも指一本触れさせはしない。今なら無傷で見逃してやるから、さっさと消えろよ」
 冷徹な声音で宣言し、ガウェインが銃口をベリットへと向ける。彼の声にはあからさまな侮蔑と怒りが込められていた。
 ラグネルは渡さない――そう断言された瞬間、ラグネルの胸に熱いものが込み上げてきた。
 ガウェインが自分の存在を認めてくれている。
 ラグネルの裡には自然と喜びと安堵が芽生えた。嬉しさのあまり思わず駆け寄りそうになったが、ガウェインとリガに不用意に近づくことは彼らの行動の妨げになる。ブロスリアンドで経験済みだ。彼らに呼ばれるまでは、適度な距離を保っている方が賢明に違いない。
 ラグネルが緊張した面持ちで見守る中、武装集団のリーダーらしき男がベリットに視線を投げた。
「ドクター・ベリット、奴らは特殊な訓練を受けたエージェントです。見た目に惑わされてはいけません。――ご指示を!」
 リーダーに声をかけられ、ベリットはようやく忘我状態から脱したようだ。
 双眸に怜悧な輝きが戻り、銃身の震えが止まる。
「もちろん生け捕りよ。ラグネル・パンドラにはフレイの子を生んでもらわなければ困るし――他の二人は、私の研究者としての欲求を満たすために実験体になってもらうわ」
「うわっ……ますます気色悪いな! フレイの亡霊に取り憑かれた女なんて、ロクでもない上に最悪だ。まだ――あのバカ女の方がマシだな」
 口の端に弧を描かせ、ガウェインが嫌味を放つ。
 嘲弄されたと察した途端、ベリットの顔が醜く歪んだ。
 だが、彼女が反撃するよりも早くラグネルの方が口を開いていた。
「ちょっとガウェイン、バカ女――って、わたしのことっ!? 聞き捨てならないわね!」
「ガヴィ、酷いよ! お姉さんを助けに来たのに、そのお姉さんにを労るどころかけなすなんて……!」
 ラグネルに追随してリガが非難の眼差しを向けると、ガウェインは微笑を苦笑へと変じ、ベリットは怒りに頬を紅潮させた。
「随分と余裕があるのね? まさか、これだけの人数に包囲されて――無事に逃げられるとでも思っているの?」
 ベリッドの剣呑な視線がガウェインを射る。
「――あ? 余裕だろ? たかが二、三〇人相手に、オレが苦戦するとでも思ってるのかよ?」
 ガウェインが挑発するよう整った顔に薄笑みを広げる。
「でも、あなた――銃を構えてるじゃない? それって、雨のせいでお得意の超能力が使えないってことでしょう?」
 ベリッドが艶笑する。
 不愉快な笑みを張りつかせたまま、彼女は銃口をリガへと移動させ、やにわに銃のトリガーを絞った。
「えっ……!?」
「リガッッッ!!」
 銃声が雨音を裂き、リガの小さな叫びとラグネルと悲鳴が交錯した――



次回、完結です! ……多分(汗)
 
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2010.12.06 / Top↑
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