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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 銃を構えたベリットの青紫の瞳が瞠られる。
「なん……で――――!?」
 彼女は畏怖の眼差しで、狙撃したはずのリガを凝視していた。
 リガは無傷で立っている。
 細い右腕が前に突き出されていた。
「あっ……ごめん、お姉さん。咄嗟に右手が出ちゃった」
 リガが己の失態を恥じるようにはにかみ、握り締めていた右手を開く。
 そこから弾丸が零れ落ちた。無論、ベリットの銃から射出されたものだ。
「出ちゃった――って、雨が降ってるんだぞ! ボディが傷ついて放電でもしたら、どうするんだよっ!? 生身の方は感電するんだぞ!」
 ガウェインが慌ててリガの右手を引っ掴む。掌に微かな焦げ跡しか残されていないのを確認すると、彼は安堵の息を洩らした。
 釣られてラグネルもホッと胸を撫で下ろした。
 サイボーグ化している金属部までには弾は届かなかったようだ。
「漏電はしてないみたいね。人工皮膚だけなら、帰ったらすぐに治せるから大丈夫よ。けれど、あんまり無茶はしないでね」
 ラグネルが真摯な声音で注意を促すと、リガは従順に頷いた。
「な……に……? 弾丸を素手で……掴んだの? ボディ……生身――感電……漏電?」
 ベリットの唇から乾いた呟きが洩れる。
 リガを見つめる秀麗な顔は、瞬く間に青ざめた。
「アヴィリオンの――Xナンバー!? サイボーグ・エージェントは……全て廃棄されたと資料には記されてたのに……。まさか、この目で本物を観られるなんて……!」
 ベリットの声と眼差しに驚喜と好奇の色が宿る。恐怖に青ざめていた肌は、歓喜のあまりに一気に生気を取り戻した。
 彼女が『廃棄』と言った瞬間、ガウェインが忌々しげに舌打ちを鳴らした。リガを人間と見なさず『モノ』として判別したベリットに対して、猛烈な嫌悪が込み上げてきたのだろう。
 ガウェインもベリットがフレイ・ウサミと同じ種類の科学者であると察したのだ。
 研究に没頭するあまり倫理観念に狂いが生じてしまった科学者――彼らの脳は、ガウェインたちを『実験体』としてしか認識できない。
 そうと解っていても、やはりモノ扱いされるのはガウェインたちにとっては耐え難い苦痛であり、不愉快極まりない屈辱以外の何ものでもない。
 アヴィリオンの研究成果であろうと博士たちの頭脳の結晶であろうと――彼らは一人の人間に相違ないのだから。
 ガウェインが凍てついた眼差しで、興奮に頬を紅潮させるベリットを睥睨する。
「あんたの持ってる資料は――随分と古いんだな」
 ガウェインの全身からゆらゆらと陽炎のようなものが立ち上がる。
「データ書き換えとけよ」
 冷ややかな口調で告げ、ガウェインが口の端をつり上げて酷薄に微笑む。
 瞬時、ベリットの持つ銃が突如として小さな爆発音を響かせた。
 噴き出した炎に恟然とし、ベリットが慌てて銃を投げ捨てる。
「あなた――この雨の中でも……炎を出せるのっ!? どうしてっ!?」
 恐怖に戦いたベリットが一歩後退る。
「だから、データ更新しとけって言っただろ。別にオレは掌から火の玉を飛ばしたり、火柱を噴き出したりする派手な芸を持ってるわけじゃない。オレの能力の本質は――熱コントロールと着火だ。そこに燃焼物があるなら、オレはどんなモノでも――それこそ裡側からだって灼けるんだよ」
 ガウェインが傲然と言い放つ。どうやら彼は、完全にベリットを敵だと認識し、この場から退けることを決意したようだ。
「どんなに酷い雨でも……あなたの能力には影響はない――ってこと?」
「――らしいね。外から着火できなくても、念じるだけで銃器に装填されてる火薬に着火させることもできる」
 淡々と述べ、ガウェインが黒ずくめの男たちに視線を流す。
 間髪入れずに、手近にいる男の銃が破裂した。
「うわぁぁっっっっ!! ばっ、化け物ッ……化け物だっ!」
 男の手が破砕された銃を放り投げる。火傷と裂傷でボロボロになった手から血が溢れ出し、地面に禍々しい真紅の流れを作った。
「そう……化け物だな。だから、銃はさっさと手放した方がいい」
 ガウェインの口元に自嘲混じりの冷笑が刻まれる。
 男たちはボスであるベリットの意向を伺わずに、慌てふためきながら装備した銃器を取り外し始めた。瞬く間に夥しい数の銃器が雨の路上に放棄される。
 ガウェインに向けられた眼差しには、明らかな怯懦が見て取れた。

「素晴らしいわ! これほど強烈で卓越したパイロキネシスの持ち主だったなんて……!」
 雨の中を歓喜の叫びが突き抜ける。
「ああ、アヴィリオンが――ドクター・ランスロットがあなたを手放したくなかった気持ちが解るわ……!」
 部下たちの戦意喪失など歯牙にもかけず、ベリットは興奮冷めやらぬ甲高い声で的外れな賛美を繰り出している。
「へえ、そいつは凄いな。ランスロットの気持ちが解るのかよ? オレには――全く解らないけどな」
 ガウェインが冷淡に揶揄を放つ。
 ランスロットに拾われたガウェインは、今でも心の何処で彼のことを特別な存在だと想っている。自ら手にかけてもなお、ガウェインはランスロットと過ごした日々を心の奥底に大事に仕舞っているのだ。
 だから、見ず知らずのベリットが軽々しくランスロットの名を口にすることに強い抵抗と苛立ちを感じ始めているだろう……。
 ランスロットの名を耳にして胸が痛むのは、ラグネルもリガも同じだ。
 皆、ランスロット・マロリーという博士に対して、それぞれが異なる複雑な感情を抱いている。

 ランスロットに拾われ、救われ――再び奈落の底へ突き落とされたガウェイン。
 ランスロットに家族と右半身を強奪され、サイボーグと化したリガ。
 ランスロットに再起動させられ、ガウェインに殺される彼を目撃したラグネル――

 ――不思議……わたしたち、今、一緒に暮らしてるのよ、ランスロット。
 こんな緊迫した状況下で考えるようなことではないが、ベリットがランスロットの名を事も無げに音に成すから脳裏に彼の姿を思い描いてしまったのだ。
 ――あんな酷い出逢い方をしたのに、わたしたち意外と楽しく暮らしてるのよ。
 ラグネルは無意識に心の中でランスロットに語りかけていた。
 ――多分、わたしは今、幸せなんだと思う。それで……いいのよね、ランスロット?
 そう問いかけた瞬間、脳裏に浮かぶランスロットが柔らかな微笑を湛えた気がした。



長いので一旦切って、連投します(汗)
 
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2010.12.07 / Top↑
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