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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「部下たちは手を引く気満々みたいけど――あんたはどうするんだよ?」
 抑揚のないガウェインの声が耳を打つ。
 ラグネルはハッと現実に立ち返った。同時に脳内のランスロットが霧散する。
 幻でも、己の願望の表れだと承知していても――ランスロットが優しく笑いかけてくれたことがひどく嬉しかった。
「どうする――ですって? こんなハイスペックな実験体を目の前にして、手ぶらで引き下がるなんて、科学者としてのプライドが許さないわ」
 狂気を孕んだベリットの瞳がガウェインを射る。
「……そのプライド自体が、既に科学者してどうかと思うけどな。オレの力が識りたいなら、身をもって体験させてやるよ。博士たちの研究と訓練の賜物で、オレは物体の裡側からでも発火させられるって言っただろ?」
 拳銃を持たない方のガウェインの手が、ゆるりと上がる。
 掌がベリットの方へ向けられた。
「ずぶ濡れの肉体でも裡からなら灼くことができるんだぜ。たとえば、全身の血液を沸騰させる――とか」
 ガウェインの若葉色の双眸がスッと細まり、ベリットに向けた手がゆっくりと握られる。
 刹那、ベリットの顔が引きつり、青紫の双眸が張り裂けんばかりに瞠られた。
「――うっ……!」
 ベリットの顔は見る間に紅く染まり、苦痛に歪んでゆく。
 ガウェインがベリットの血液に熱を加えているのだ。
「ガウェイン、駄目よっっ!!」
「ガヴィッ!」
 ラグネルが制止の声をあげるのと、リガが敏捷にベリットに駆け寄るのが同時だった。
 リガがガウェインとベリットの間に割って入り、躊躇わずにベリットの首筋に手刀を打ち込む。
 容易く気絶し、崩れ落ちるベリットの身体をリガの右腕が軽々と受け止めた。
「やり過ぎだよ、ガヴィ!」
 リガが不服げにガウェインを振り返る。
「……悪かった。そんなに血相変えるなよ。殺すつもりなんて端からないし――っていうか、血液なんて沸騰させたことないし――」
 ガウェインが溜息を洩らし、言い訳めいた呟きを発する。
「え、やったことないのに脅したの!?」
 ラグネルは驚愕と非難の相俟った声をガウェインに投げつけていた。
「あるわけないだろ、そんなエグイことっ……! まあ、できるみたいだけどな――」
 ガウェインが首だけでラグネルを顧み、心外そうに睨みつけてくる。
「そ、そう……。とにかく――ガウェインがこの人を殺さなくてよかったわ」
 ラグネルはホッと安堵の息をついた。
 アヴィリオンもなくなり博士たちもいないのだ。
 そして、ガウェインはもう中央捜査局の特殊エージェントでもない。
 願わくば、これからの人生は手を血で染めずに、穏やかに歩んでほしかった。
「殺さないし――殺させもしない」
 ガウェインが端的に告げ、リガに視線を流す。彼はリガの腕から気を失ったベリットを受け取ると、武装集団の方へ足を向けた。
 畏れをなしたのか、黒ずくめの男たちが一斉に後退る。
 ガウェインは構わずに彼らに接近し、リーダー格の男にベリットを突き出した。
「フレイの関係者なのかどっかの組織の手の者か何だか知らないけど、二度とオレたちの前に姿を現すな――って伝えとけよ」
「あ、ああ……。このまま見逃してくれるのか?」
 呆けたような表情をガウェインに向け、男がベリットの身体を腕に抱く。
「あんたらを殺しても、オレには何のメリットもないからな。けど、また性懲りもなく危害を加えに来るようだったら、その時は容赦なく皆殺しにしてやる」
 声のトーンをグッと低めて凄み、ガウェインは颯爽と身を翻した。
 冴え冴えとした輝きを放つ若葉色の双眸が、ラグネルとリガを見回す。
「――帰るぞ」
 無愛想に告げ、ガウェインが両手を差し出す。
 すかさずリガが彼の右手に腕を絡めた。
「お姉さん、早く!」
 リガの天使のように無邪気な笑顔がラグネルに向けられる。
 ラグネルは『早く』の意味が理解出来ずに、その場に佇んだまま目をしばたたかせた。
「何、突っ立ってるんだ? 帰るって言ってるだろ!」
 ガウェインがもう一度つっけんどんに言葉を放ち、空いている方の手を改めて差し伸べる。
 ――ああ、あれは……わたしのための手なのね。
 ようやく状況を把握する。
 ――わたし……あの手を取ってもいいんだ……!
 温かな喜びがじわじわと胸の奥底から染み出し、全身へと広がってゆくのを感じた。
「うん、帰ろう!」
 ラグネルは満面の笑顔でガウェインに駆け寄ると、彼の手をしっかりと握り締めた。




 夜風が肌を撫で、髪を靡かせる。
 雨はすっかり上がっていた。
「うわぁ、月が綺麗!」
 夜空には満月に近い月が浮かんでいる。
 高層ビルの上を跳んでいるせいなのか、青みを帯びた月はいつもより大きく――天穹はより近く感じられた。
 常人では考えられないほどの跳躍力を活かし、ガウェインがビルからビルへと駆けているのだ。
 初めて出逢った時にも度肝を抜かれたが、いざ実際に彼と共に空を駆けていると驚愕の度合いはいや増した。改めて、ガウェインの身体能力の凄さを知らされる。同時に、彼が普段どんな景色を見つめているのかが解り、ほんの少しだけ嬉しくなった。
「あー、悪い。ちょっと休憩する」
 突如として、ガウェインが跳躍を中断させ、とあるビルの屋上に着地する。
 景色の流れが止まり、ブルームーンが更に鮮明な輝きを放つ。
「急にどうしたの?」
 怪訝に思ったことを率直に口に出すと、ガウェインはラグネルを見下ろして唇に苦笑を刻んだ。
「どうした、って――重い」
「――あっ、ゴメンね、ガヴィ!」
 リガがハッと目を見開き、慌ててガウェインの腕から身を引き剥がす。釣られてラグネルも握っていたガウェインの手を離した。
「あ、ああ、そうか……そうよね! も、もしかしなくても、わたしたち――物凄く重いのよねっ!」
 ガウェインが何を示唆しているのか察して、ラグネルは羞恥と申し訳なさに顔を赤らめた。
 右腕にリガ、左腕にラグネルを抱えて、ガウェインは物凄い跳躍を続けていたのだ。
 リガは半身がサイボーグだし、ラグネルに至っては更に機械率の高いヒューマノイドだ。
 常人より体重があることは間違いない。ガウェインでなければ二人同時に抱き抱えることすら不可能な重さかもしれない……。
「バカ言うなよ。リガが重いわけないだろ!」
 ガウェインが瞳に意地悪な光を灯し、ラグネルにからかうような笑みを送ってくる。
「うわっ、レディに向かって酷いわね! 最低っ!」
「失礼だよ、ガヴィ! 僕、最近すっごく成長してるし、絶対に僕の方が重いから――大丈夫だよ、お姉さん!」
 リガが真摯な表情でラグネルを擁護する。
「や、どっちでもオレの負担が大きいことには変わりないけどな……。けど――この腕の重みも悪くないな。リガとラグネル二人くらいなら、オレの腕でも支えていけるってコトだな」
 ガウェインが掌を上向け、じっと見つめる。感慨深げな囁きが唇から洩れた。
 それは嘘偽りのない彼の心情――ガウェインがラグネルの存在を改めて受け入れてくれた証のようだった。
「ガウェインもリガも――助けに来てくれて、ありがとう」
 ラグネルは二人に向かって深々と頭を下げた。
 ガウェインとリガがいなければ、自分は今頃ベリットの魔手に落ち、『ラグネル・パンドラ』としての生を奪われていたかもしれないのだ。
「お姉さんは僕たちの家族なんだから、当然だよ。どんなことが起こっても、僕たちが護ってあげる」
 リガがニッコリと微笑む。
「いつだって呼ばれたら助けにいってやる。だから、次からはもっとちゃんと呼べよ。今夜はガラがいたから――――」
 そこまで述べて、ガウェインは何かを思い出しように動きを止めた。
「ああっ、ガラッ! ねえ、ひょっとしてガラ――モニターの向こうで僕たちの帰りをまだ待ってるんじゃないっ!? もう、三箱くらい煙草を喫っちゃってるかもよっ!」
 リガも矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
 どうやら、ガウェインたちを跳ばしたガラハッドが、喫煙しながらラグネルの帰宅を待ってくれているらしい……。
「じゃあ、待たせちゃ悪いわね。帰りましょう」
 そう言うなり、ラグネルは自らガウェインの手を掴んだ。ガウェインからの拒絶はない。
「帰ったら、月を観ながら夜のお茶会ね! スコーンを焼いて、美味しい紅茶を淹れなくちゃ!」
「え、こんな夜中にスコーン焼くのかよっ!?」
「僕は嬉しいな! スコーン大好きだし、夜のお茶会って楽しそう! いつか、ガラとモリガンも一緒に出来たらいいね!」
 無邪気に笑い、リガがガウェインの手を取る。
 ラグネルとガウェインは同時に頷いていた。
 互いにその事実に気づき、照れ隠しのようにパッと視線を逸らす。
「よし、休憩終了――帰るぞ」
 ガウェインの指がそっとラグネルの手を握る。
 上目遣いにガウェインを見つめると、端整な横顔は微かに赤く色づいていた。
 物凄く珍しいことに、ラグネルは今、ガウェインの可愛らしい姿を目の当たりにしているらしい。

 博士たちの楽園だったアヴィリオンは、もうこの地球上に何処にも存在していない。
 
 けれども――
 ガウェインがいて、リガがいる。
 自分を迎え入れてくれる温かな家と優しく差し伸べられる腕がある。
 
 ――ここが、わたしにとっての楽園だ。

 ガウェインの手に指を絡める。
 自然と笑みが零れ落ちた――



             《了》


改めまして、77777HITありがとうございます♪
本当は明るく楽しく、和気藹々としたラグネルたちを書きたかったのですが、
ベリットなんて出したりするから流血沙汰になってしまいました……スミマセンッ(;´▽`A``
でも、久し振りにガウェインやリガを書くことが出来て楽しかったです!
最後までおつき合い下さり、本当にありがとうございました。

 
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2010.12.07 / Top↑
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