ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「よく考えたらオレ、《WALTZ》で働いてるルイの姿って見たコトないんだよな」
 相変わらず恥ずかしそうな笑みを口元に刻み、山梨くんがあたしを見つめている。
 いや、よく考えなくてもいい事柄だし、やっぱりルイさんの制服姿を眺めて妄想に浸りたいだけとしか思えないんですけど……!
「――だから、何? どうして、あたしに声かけるのよ? 街は『どっちの山梨?』と『月華』で彩られてるのに、万が一顔バレして騒ぎに発展したらどうする気よ?」
 あたしが怒りを押し殺した声音で指摘すると、山梨くんは急に真顔になった。
 軽く周囲を見回し、そこそこの人通りがあることを確認すると、
「あ、そっか。じゃ、さり気なく歩きながら話そうぜ」
 あっけらかんとそう告げて、あたしのコートの袖を引っ張って歩き出すのよ。
 山梨くんの足は当たり前のように《WALTZ》のある方角へ向かっている。
 ……ルイさん絡みだと、自分がアイドルだって意識が吹き飛ぶのよね、山梨くん。
 スーパーアイドルと二人で『さり気なく歩く』とかどだい無理な話だし、何であたしが山梨くんの道連れにされなきゃいけないのよ?
 すっかり忘れ去られているようだけれど、あたしはM市に住む平々凡々な女子高生なのよ。
 心穏やかに日々を過ごしたいの!
 あたしの世界には南海たちが愛して止まないBL世界も、時折何の前触れもなく姿を現す恋愛シミュレーションのキャラ的なスーパーアイドルも必要ないのよ!
 なのに、何故だかあたしは山梨和久と面識があり、何故だか知人というか友人というか――同志として彼に認められている……ようなのよね。
 あたしの恋人である六楼さんが『紅蓮の鏡月』の作者・冬敷和魔であると知ってからは、更に勝手で奇妙な親近感を覚えてしまったらしい。
《ラブ・パラダイス》合戦以前よりも明らかに馴れ馴れしくなっている。
 ルイさんと一緒にあたしのバイト先である《蝦夷舞鮨》にまでちゃっかり遊びに来る始末だ。
 あたしにとっては迷惑以外の何ものでもない。

 山梨くんが何であたしに対してフレンドリーに接するのか謎だ。
 多分、あたしが山梨くんと相対しても感極まった悲鳴をあげたり、サインや握手を求めたりもしないから気が楽なんだと思う。
 けれど、山梨くんは気楽に出来ても、あたしは彼と二人で《WALTZ》に行くなんて御免だ。
 仮にも六楼さんとおつき合いさせていただいてるのに、他の男と二人で《WALTZ》に足を踏み入れることなんて到底できっこない。
 店長以下《WALTZ》のイケメン店員たちに何か勘違いされても困るし、他のお客様に白い目を向けられたくもないのよ!
 本当なら、クリスマスイルミネーションで華やいだ歩行者天国を超アイドルと並んで歩く――なんて一生に一度あるかないかのシチュエーションで、ファンなら天にも舞い上がる気持ちになるんだろう。
 でも、あたしにはとっては、それとは異なる意味で緊張の連続だ。
 一歩足を進める度に『《WALTZ》フリークに見つからないか!?』『山梨ファンにバレないか!?』と心臓が縮み上がり、腋の下を嫌な冷や汗が伝い落ちる。

「大将に訊いたら、一足先に《WALTZ》に向かった、って言ってたから慌てて追いかけて来たんだ。追いつけてよかった」
 ハラハラしているあたしの胸中など気にも留めずに、山梨くんは心底ホッとしたように息を吐き出した。
「大将――って、最初からあたしを誘う気だったの!?」
 あたしは眉をひそめ、険しい表情で山梨くんに視線を流した。
 大将っていうのは《蝦夷舞鮨》のオーナーのことです。
 若くて美しい奥様が山梨ファンだということもあり、大将は山梨くんに甘い。
 山梨くんと懇意にしているルイさんは一人で十人前以上は食べてくれる有り難い常連だし、山梨くん自身は気前よく大枚を落としてくれる太っ腹客だ。なので、最近は輪をかけて甘くなっている気がする……。
「《WALTZ》に一緒に行ってくれそうな知り合いって、園生沙羅しか思い付かなかったんだよ。冬敷センセは店員だし、腐妄子サマと弟子なんて論外だしさ……」
「スーパーアイドル様がケーキ屋に行くくらいで、何ビビッてるのよ? お願いだから、あたしを巻き込まないで下さい」
「バカッ! 初めて《WALTZ》に行くんだから、スゲー緊張するに決まってるだろっ! つーか、ケーキ屋なんて男一人で入る勇気ないし」
「ルイさんファンの猛者どもは、平然と一人でやって来て、堂々とルイさんをガン見してるわよ」
「うわっ、何だよ、《WALTZ》こえーなッ! マジでケーキ屋なのかよ? オレのルイを穢れた目で見るなよ!」
「正真正銘、街で大人気の高級洋菓子店です。世界のトシノジョー・カブトヅカがパティシエなのよ! まあ……イケメン店員目当てのお客様が大多数を占めているのも事実だけど。あっ、店内で『オレのルイ』とかほざいてると、帰りに闇討ちに遭うから止めといた方がいいわよ。それから――誰よりもルイさんのことを穢れた目で見てるのは、絶対に山梨くんだと思うわ」
 あたしが矢継ぎ早に言葉を並べ立てると、山梨くんは不本意そうに口元を歪めた。
 山梨くんはすっかりルイさんの彼氏気取りだし、実際何度もゴシップ誌に載っちゃってるけれど、《WALTZ》のルイさん親衛隊はその現実を未だに受け入れていないと思う。
 長年愛情を持って接し、応援してきたルイさんを急に湧いて出てきたアイドルに掻っ攫われたなんて――彼らは断固として認めないに決まってる。
 既に店内に陣取っているであろう親衛隊との鉢合わせを考慮すると、やっぱり山梨くんには速やかにご帰宅願うしかない……わよね。
「あっ、酷い言い種だな。言っとくけど、オレのは穢れた目じゃなくて、愛情に充ち満ちた目だからなッ! オレ以上にルイを愛してるヤツなんて、この世にいるワケないし」
「うわぁ……素晴らしすぎる自信っていうか――相変わらず恥ずかしいわね、山梨くん」
 あたしは冷ややかな眼差しを山梨くん送り、掴まれていた腕を強引に引き剥がした。
 このままだと、山梨くんのペースに乗せられてうっかり一緒に《WALTZ》のドアを潜る羽目に陥っちゃうわ。
「山梨くんがルイさんのことを大好きで、《WALTZ》まで逢いに来たのは解るけど――あたしは山梨くんを《WALTZ》に連れて行く気なんてないからねっ……!」
「えっ、何でだよ!? オレたち《ラブ・パラダイス》仲間だろ!?」
「いえ、そんな愉快な仲間に加わった覚えはありませんけどっ! 大体、あたし、六楼さんとつき合ってるのよ! なのに、彼氏のバイト先に他の男と二人で遊びに行くなんて、有り得ないでしょ!? あたし、どれだけ節操無しの女なのよっ!」
 あたしが真剣な顔で訴えると、山梨くんはハッとしたように息を呑み、次いでガックリと肩を落とした。
「――だよな。冬敷センセ本人はともかく、センセやのファンは園生沙羅のことケナしたり、悪く言うよな……。オレ、一月四日までスケジュール詰まってて、今夜を逃したら……もう《WALTZ》で働いてるルイの姿を見られそうにないんだけど――」
 山梨くんがセクシーな唇から無駄に色気のある溜息を零す。
 サングラスに隠されて感情は読み取れないけれど、物凄く――心の底から落ち込んでいるようだ。
「いや、あの、だから、《WALTZ》に行くな、って言ってるワケじゃないし……。うん、殺人的スケジュールの合間を縫って駆けつけてきた山梨くんの気持ちもよく解るし――そ、そうね、一緒に入店しなければいいだけで――」
 あまりにも悄然とした山梨くんの姿が胸に痛くて、あたしは思わずフォローの言葉をかけていた。
 山梨くんは妄想力の逞しすぎるちょっと変なアイドルだけど、根は悪い人じゃないのよね。
 どっちかというと男気はあるし、ルイさんに対する想いは真摯で一途で情熱的だ。
 ……そう、詰まるところ変人だけど決して憎めないイイ奴なのよ。
 だから、《ラブ・パラダイス》合戦の時も大いに同情したし、そこから生まれた腐れ縁で最終的にはあたしも山梨くんのことを無碍にあしらえずにいる。
「一人で、あのドアを開けて、未知の世界に飛び込めっていうのかよ? オレだって解った瞬間に突き刺さる針のような視線に耐えられそうにないんだけど……」
「熱愛報道とかでマスコミに囲まれてる時は、超然かつ平然と『オレ、山梨』的応対してるのに――《WALTZ》だと何で急に意気地が無くなるワケ? そっちの方が謎だわ!」
「や、マスコミ対応とかはオレの――アイドル山梨和久のフィールドだけど、《WALTZ》は違うじゃん? ルイや他の店員にも極力迷惑かけたくないし……。それ以前に、ルイに言ってないから、出来ればこっそりひっそり遠くから働いてる姿を眺めて、静かに去りたいんだけど? だから、カップルの振りして――」
「無理に決まってるでしょ! あたしの顔はモロバレだし、自分では気づいてないかもしれないけど――山梨くんは全身から芸能人オーラが出まくってるのよッ!」
 あたしは山梨くんの言葉を遮って声を荒げていた。
 帽子とサングラスで武装しただけで、山梨和久であることを本気で隠し通せるつもりでいるから怖いわね。
 街にドデカイ看板やポスターが飾られまくってるのに、影ながらルイさんの仕事っぷりを眺めて去る――なんて無理に決まってる。今夜の《WALTZ》は満席だろうし、誰かが目敏く山梨くんの存在に勘づくに違いない……。

「じゃあ、どうすれば――」
 途方に暮れたような山梨くんの声。
 そこへカツカツカツとヒールの音が鳴り響いた。
「大丈夫、わたしがいるわよ! ここは正々堂々と真っ正面から乗り込みましょう!」
 山梨くんの隣で、ピタリと漆黒の影が立ち止まる。
 踵の高いロングブーツにミニスカート、愛らしいフェイクファーのコートを纏った美少女があたしと山梨くんを見回し、双眸に鋭利な輝きを閃かせる。
「あれっ、南海ッッ!?」
「うおっ、弟子かよッッッ!!」
 あたしと山梨くんの驚愕の叫びが夜の歩行者天国に響く。
「ルイさんと山梨くんの聖なる夜のために、わたしも一肌――いいえ、一鼻血噴かせてもらうわっ!」
 南海が山梨くんを見つめ、鼻息も荒く豪語する。
 ……何よ、一鼻血って?
《WALTZ》のクリスマスイベントに血の華を咲かせる気?
 それって、南海がルイさんと山梨くんを眺めて、イケナイ妄想を膨らませたいだけでしょ?
 鼻血を噴出するほど激しい妄想に身を浸す気満々です――って、宣言してるようにしか聞こえないんですけど?
 つまり、あたしの心痛と苦労が増えるだけよね?
 何か、《WALTZ》に辿り着く前から物凄い疲労が襲ってくるんですけど……。

 助けて、六楼さん――



イサヤどころか《WALTZ》が遠い……orz

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2010.12.14 / Top↑
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