ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 おめかしした南海の手には、あたしと同じような細長い箱が抱えられていた。
 ルイさんへのクリスマスプレゼントなのだろう。
「わたしと沙羅と山梨くん――完璧なドリーミー・トライアングル編成で乗り込めば、誰も文句は言わないはずよ」
 可憐な見た目とは裏腹に、南海の唇から飛び出す言葉は力強く、奇妙な自信に満ち溢れている。
「な、何から処理すればいいのかしら……? とにかく、何処が完璧なのかちっとも理解出来ないし、文句を言われない根拠だって微塵もないし――端から乗り込むつもりなんてないわよ! 穏便に……そう、お客様として和やかな感じで行くだけでいいのよっ!」
 あたしは頬を引きつらせながら南海を見遣り、苦言を呈した。
「――アラ、そうなの? てっきり、山梨くんが《WALTZ》に乗り込んでルイさんに破廉恥なプロポーズをした後、ルイさんをお姫様抱っこして掻っ攫う計画なのかと思ってたわ」
 南海が目をしばたたかせながら山梨くんとあたしを交互に眺める。
 ……容姿はとっても可愛いのに、どうしてこの子の頭の中はよく解らない妄想で埋め尽くされているのかしら?
 残念だ。
 ……何だか、とっても残念すぎるわ。
「ソレ、どんなBLドラマよ? 何よ、破廉恥なプロポーズって?」
「や、流石のオレもそんなコトこれっぽっちも考えてないからなっ! ってか、仕事中にそんなん実行したら、ルイにマジギレされて跳び蹴りとか喰らいそうなんだけど……! 《WALTZ》出禁になって、ルイが実家に帰って、ワイドショーで捏造破局報道ガンガン流されて、年末のクソ忙しい時にスキャンダルなんてフザけんじゃねーぞ、って社長に激怒されて――散々な目に遭うの、間違いなくオレなんだけど?」
 あたしのツッコミと並列して、山梨くんが呆れ混じりに言葉を放つ。
 ――凄い。南海が出てきた途端、急に山梨くんがまともに見え始めるから不思議だわ。
 南海の妄想腐女子パワーは山梨くんの勘違い暴走パワーを上回る――ってコトよね?
 けれど、南海と山梨くんに会話をさせておいたら必然的に『ルイさんの美しさと魅力について語り尽くす会(R18下ネタ有)』に発展することは目に見えているので、あたしはさっさと軌道修正をしておくことに決めた。
 もうすぐ十時になってしまう。
 そうしたら、ルイさんが店内に姿を現すし、きっと入場制限をかけられるに決まってるわ。
 何としてでもあたしは、十時前には入店したいのよっっ!
 久し振りに六楼さんの顔をまともに見られるのに、南海と山梨くんに邪魔されてたまるもんですかっっ!!

「とにかくね、あたしは六楼さん、山梨くんはルイさんに逢いに行くだけなの。南海だって、ルイさんに逢いに行くんでしょ?」
「もちろんよ。ああ、ルイさ~ん! わたしの腐れた妄想の最大の原動力っ!」
 あたしの言葉に素早く反応を示し、南海が夢見る乙女のようにキラキラと目を輝かせる。
「山梨くんとの半同棲生活で、どれだけ妖しく艶めかしい色香を身に付けたのか――た・の・し・み♪ はぁ……生のルイさんに逢えるの、何ヶ月ぶりかしら? ここしばらく《men's nyan-nyan》で麗しい姿を眺めるだけの毎日だったから――緊張アンド興奮するわっ!」
 南海が片手に持つプレゼントの箱を愛しげに片手で撫でながら、うっとりとした眼差しで《WALTZ》のある方角を見つめる。
 そのプレゼント……一体、何が入ってるの?
 何だか嫌な予感しかしないから触れずにおこう……。
「あー、やっぱ弟子も《メンニャン》愛読者なのか!」
「えっ、山梨くんも《メンニャン》派なのっ!? 《メン通》でも《電ビ》でも《セクボ》でもなく? フフ、流石は山梨くん! 色っぽいルイさんを堪能したいなら、どの雑誌よりも断然《メンニャン》よねっっ!!」
「《メンニャン》のルイ見てると、他誌が物足りなく感じるからなぁ。アレに載るルイの写真って、ちょーセクシーなカットばかりだよな! オレ、一度でいいから撮影現場に行ってみたい――つーか、ルイ専属のカメラマンになりてー!」
 南海の発言に食い付いた山梨くんがとてもアイドルとは思えぬ言葉を発して、嬉しそうに口元を緩める。
 ちなみに二人が言っている《men's nyan-nyan》こと通称《メンニャン》は、男性向けの人気ファッション雑誌で、ルイさんもよく表紙を飾ったりしている。ファッション雑誌のくせに時々美形モデルたちのセミヌード特集があったりなんかして、一部女子にも根強い人気を誇っていた。
 他の三つの略語《メン通》《電ビ》《セクボ》については知らないし、知りたくもないわ……。
 それにしても――山梨くん……買ってるのか、《メンニャン》……。
 どっちかっていうと、読者じゃなくて被写体として載る方でしょ?
 あっ、やっぱりさっきのナシ。
 山梨くんがまともに見えるなんて、クリスマス・イルミネーションが見せたひとときの幻想――ただの錯覚だったわ。
 半同棲している相手が載ってる雑誌を購入して、セクシーショットを眺めながらニヤニヤしているアイドルなんて――最早アイドルじゃないわよっ!
 間違っても純粋な山梨ファンには見せるんじゃないわよっっ!!
「ちょっと、《メンニャン》なんて今はどうでもいいでしょ! いい加減《WALTZ》に行きたいんですけどっ!」
「ああ、そうね。わたしも入れて三人なら、沙羅も六楼さん以外の男とデートしてるなんて勘違いされないで済むし、サクッと入りましょう。入った後のことは、きっと六楼さんが何とかカバーしてくれるわ」
 南海は楽観的な見解を述べ、改めて山梨くんに視線を向ける。
 そりゃあ、六楼さんは決死の覚悟で何とかあたしたちをフォローしてくれるわよ。
 六楼さんが人気BLファンタジー『紅蓮の鏡月』の作者・冬敷和魔であることは、《WALTZ》の面々も知らない秘密なんだから……。正体を知っている南海と山梨くんにソレを楯に取られれば、六楼さんは是が非でも彼らに従うざるを得ないのよ。

「その前に――山梨くんは帽子とサングラス、没収ね」
 南海が恐ろしく素早い動作で山梨くんの顔から帽子とサングラスを強奪する。
 栗色の髪がサラサラと揺れ、山梨くんの整った顔が露わになる。
 南海に向けられている山梨くんの横顔は、驚きの表情を湛えているにも拘わらずハッとするほど端整でカッコ良かった。
 腐っても――アイドルなのよね。
 どんなに変わった性格の持ち主でも、カッコイイものはカッコイイ。
 あたしだって正直山梨くんの顔は好きだし、パンツモロ見え事件がなければフツーに『アイドルって言えば、山梨くんよね!』ってな感じで応援していたと思う。
 こんなに男前なのに、何処で何を間違ったのか同性であるルイさんに惚れ込んで、テレビでカミングアウトする事態にまで陥ったのか…………謎だわ。
 いや、まあ、今となっては《山梨ショック》に纏わるアレコレもいい想い出よね。
 ルイさんだってもう山梨くんのことを毛嫌いしていないし、山梨くんと半同棲生活に突入してからは楽しそうに見える。
 山梨くんに至っては、幸せの絶頂期としか思えないほど激烈な溺愛ぶりだ。
「ちょっ……帽子とグラサンなかったら、オレ、ソッコー顔バレなんだけど、弟子ッッ!?」
「しょうがないでしょう。《WALTZ》の店内は帽子もサングラスもマスクも禁止なんだから。――ハイ、こんなこともあろうかと思って伊達眼鏡持ってきたから、とりあえずコレにチェンジしてね」
 南海がバッグの中から眼鏡を取り出し、手早く山梨くんの顔にかける。
 こんなこともあろうかと思って――って、常日頃から山梨くんがM市に降臨することを夢想してるの、日本中で南海しかいないと思うわよ……。
 面倒臭いから指摘しないけど。
「何も無いよりマシだけど――絶対バレるだろ? 何で、グラサンとか禁止なんだよ?」
 不服げな声を洩らし、山梨くんが説明を求めてあしたに視線を流してくる。
 ――うっ……! み、み、認めたくないし、向こうは無意識なんだろうけど、何気ない目線の移動でさえやけに洗練されていてセクシーだわっ!
 顔晒して眼鏡かけただけで、急にイロオトコ度が増すなんて卑怯すぎるわよ!
 で、でも、眼鏡色気率なら山梨くんよりも六楼さんの方が俄然高いに決まってる!
 そうよ、六楼さんの方が眼鏡とのシンクロ率、物凄くいいんだからねっ!
 ……あっ、いけない。最近、南海とかビッショウ様とか山梨くんに引き摺られて、あたしまで物の捉え方や考え方がおかしくなってきた気がするわ。
 気をつけなきゃ!
 あたしは、わざわざ嵐の大海原を乗り越えて未知なる腐島に辿り着くような愚かな真似は絶対にしないわ!
 あたしは密やかに拳を握り締めて決意し直し、山梨くんを見つめ返した。
「元々《WALTZ》はケータイや撮影機器の持ち込みは禁止だったんだけど、ルイさんが入店したばかりの頃に、その姿を隠し撮りしようと目論んでサングラスや帽子類にマイクロカメラ仕込む男が頻発したんだって。以来、禁止になりました」
「ああ、美しすぎるって罪ね。あの神々しいかんばせを保存して、毎日眺め回したい気持ちも解らないでもないけど――」
 あたしの説明の後に、南海が悩ましげな溜息を落とす。
 要らないわよ、そんな相槌!
「へえ、スゲー人気なんだな、ルイ。ってか、ルイが入店したのって、三年くらい前だろ? その頃、ルイは高校生で――せ、制服ッッ……! 聖華学園のお洒落な制服を纏っていたワケで…………ル、ルイの制服姿……見たいな。制服……今度、ダメ元でお願いしてみようかな? ちょー脱がせた――――」
「ギャッ、やめてっっっ! それ以上、腐れた妄想を垂れ流さないでよっ!!」
 何を想像したのか山梨くんが虚空を眺め始めたので、あたしは慌てて制止の声をあげた。
 ルイさんの制服姿はそれはもう恐ろしく素敵なんだろうけど、そこから発展して悶々とした妄想にまで膨らませるなんて信じられない。サイテーのエロアイドルだ!
「わたし的には全部脱がせるより、意味深に着崩れた感じで、はだけた胸元と鎖骨に山梨くんの――――」
「ちょっ……南海ィィッッ! あんたも何、他人の妄想に乗っかってるのよっ!!」
 南海まで夜空を見上げだしたので、あたしは再度戒めの言葉を放った。
 このままだと南海と山梨くんという最悪の相乗効果で果てしなく妄想が翼を広げていくわ!
《WALTZ》に辿り着くまでに南海が鼻血を噴き出したり、山梨くんが『ジョウネツーナ』とか踊り出したら――危険だわ。
 あたしは、ごくごく普通に――そう、スマートに《WALTZ》に遊びに行って、兜塚さんのケーキを堪能したいのよ!
「ねえ、いい加減にしてくれませんか、二人も! さっきからちっとも話も進んでなければ、《WALTZ》への道のりも進んでないのよ! ――ホラ、もう行くわよ!」
 あたしは南海と山梨くんを鋭い眼差しで睨めつけると、身を翻した。
 荒々しい足取りで歩行者天国を進む。
「あっ、待ってよ、沙羅!」
 すぐに南海と山梨くんが追いかけてきた。
「ってか、山梨くん――この帽子とサングラス、わたしが記念に貰い受けてもいいかしら?」
「えっ!? ソレ、グラサン、ルイとオソロなんだけどっっ!」
 南海の図々しい申し出に対して、山梨くんがすかさず抗議の声をあげる。
「ル、ルイさんとオソロなのっっっ!? 俄然欲しいわ! お願い、山梨くん! わたしに譲って! ルイさんっ! ……ルイさんがこのサングラスで山梨くんに激しくジョナられ――」
「オイッ、ヘンタイ妄想すんなよ、弟子っ! グラサンでジョナる――とか有り得ないし! いいよ、クリスマスも近いし、弟子にプレゼントするから持って帰れよ!」
「ああぁぁぁっ、ありがとう、山梨くん! コレかけたら、山梨くんがいつも目にしてるルイさんのセクシーな姿が視える気がするわ! 嬉しい! お礼に今度、今までにないくらい激しい山梨×ルイ本描くからっっっっ!!」
 南海が歓喜の雄叫びをあげる。
「要らないし――描くなよっ!」
 引きつった顔で南海を窘める山梨くんを、あたしもまた強張った表情で横目に眺めた。
 ……南海、凄すぎるわ! 
 天下の山梨和久からちゃっかり帽子とサングラスをゲットした挙げ句、本人とルイさんをモデルにしたBLマンガでそのお礼をしようだなんて虫が良すぎる――ってか、狂気の沙汰としか思えないわねっ!
 大体、その帽子とサングラス――総額でいくらすると思ってるのよ!?
 多分ね……推測だけど、二桁万円はするわよっ!
 強請る南海も南海だけど、意外とアッサリ譲った山梨くんも山梨くんよね。
 もう……あたしのような小市民には理解出来ない感覚だわ!
 ――ん? それ以前に、南海……大声で『山梨、山梨』って連発しすぎじゃない!?
 き、気のせいか歩行者天国を行き交う人々が、チラチラとコッチを見始めてるんですけどっ!!
 い、いやよっ! 《WALTZ》の店内ならまだしも、こんな公道で山梨くんの正体がバレるなんて――凄惨な結末にしかならないものっっっ!!
 こうなったら《WALTZ》に駆け込むのが最優先事項ね。
 変人二人を引き連れて《WALTZ》までの道のりを直進するのは正直しんどいけど――六楼さんに逢うために頑張るのよ、沙羅っっ!

「フフッ、そうね。早く《WALTZ》に行ってルイルイをスケッチしまくりましょう」
 突如として、あたしの心の叫びに応えるように左隣から聞き覚えのある声が流れてきた。
 あたしの右隣には山梨くん、その隣には南海がいる。
 だけれど、左隣にはつい先ほどまで確かに誰もいなかった。冷たい空気が存在しているだけだった……。
 なのに今、忽然と人の気配が生じ、あたしの左隣からはしっかりと新たな足音が聞こえている。
 しかも、ルイさんのことを『ルイルイ』と親しげに呼ぶことが出来るのは、この世でただ一人しかいない。
 ルイさんの実家である曽父江家の隣に住む幼なじみ――有馬咲耶。
 あたしは確認したくないけれど、首をねじ曲げて恐る恐る己の左隣を見遣った。
 ――いた!
 至極当然のように、眼鏡をかけた美女があたしや南海と似たようなプレゼントボックスを持って歩いている!
「ビッ、ビッショウ様っっ!?」
 あたしは張り裂けんばかりに目を瞠り、有馬咲耶こと美祥寺腐妄子を凝視した。
 ――うっ……! へ、変な人が三人に……!
 困った人がもう一人増えちゃったじゃない!
 もう、あたしだけじゃ到底捌き切れないわ!

 助けて、ルイさん――



 ……あっ、違う。
 間違った。い、今の……取り消しね!
 ルイさんじゃダメだ。
 ルイさんに助けを求めると、面白がられて余計に事態がややこしく悪化するし、ルイさん自身がどっちかというと『困った人』の部類だ……。
 だから、気を取り直してリテイクね。

 助けて、店長っっっっっ!!



ま、まだ店内に入れてません……(;´▽`A``
 
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2010.12.18 / Top↑
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