ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ……アレ、何か店長に助けを求めるのもしっくりこないわね。
 未だ名前すら知らない微妙な関係だからかしら?
《WALTZ》でイチバン頼れる漢には違いないけれど、流石の店長もこのメンツを一手に引き受けるのは厳しいかもしれないわね……。

「あっ、ビッショウ様、こんばんわっ!」
 ビッショウ様の出現で急速に不安に支配されつつあるあたしを尻目に、南海が心底嬉しそうに尊敬する師匠に挨拶する。
「げっ、サイアクだな! フモコまで《WALTZ》に行くのかよっ!」
 山梨くんの方は真剣に嫌そうな眼差しをビッショウ様に向けていた。
 これまで数多の山梨×ルイのR18同人誌を発行されているから、大好きなルイさんの幼なじみとはいえビッショウ様のことは苦手なのだろう……。逢えば、必ずと言っていいほどセミヌードばかりスケッチされるので、それにも辟易しているに違いない。
「行くに決まってるじゃない。私だって、久し振りに思う存分ルイルイの麗姿をスケッチしたいもの」
 平然と告げるビッショウ様の肩からは大きなトートバッグがかけられている。きっとあの中にスケッチブックや筆記用具類が詰め込まれているのね。
「撮影禁止なのに、フモコのスケッチは許されるのかよ?」
 至極当然の疑問を山梨くんが投げつける。
 実はソレ……あたしも物凄く気になっていた。
 だけど、《WALTZ》スタッフは誰も咎めないし、ビッショウ様にも訊く勇気がなくて――ずっと謎のままだったのよね。
「フフフッ、私を誰だと思っているの? こう見えても、名旧家と謳われる有馬家の娘よ。《WALTZ》の株、ガッツリ買ってるに決まってるじゃない!」
「ああ、ビッショウ様が《WALTZ》の支配株主だって噂、やっぱり本当だったんですね」
「うわぁ……自分の欲求を満たすために、実家の権限と資金、使いまくりかよっ! 金持ちの考えるコトって、解んねーな……」
 ビッショウ様の告白に、南海が暢気に頷き、山梨くんが唖然とビッショウ様を見つめる。
 山梨くんだってスーパーアイドルなんだから今やかなりの資産家だろう。その彼を驚かせるなんて、ビッショウ様は何だかよく解らないけど――やっぱり凄い。
 美少年と美青年対する想いが激しすぎて、ついうっかり失念してしまうけれど、生まれながらのセレブ――生粋のお嬢様なのよね。まあ、同時に生まれながらの腐女子でもあるんだけど……。
「私が美形男子をスケッチしなくて、誰がこの尊き使命を全うするのよ? 美しい青少年の色気と刹那の煌めきと素敵な裸体を世に広める――それが美祥寺腐妄子の天命よ」
 ビッショウ様の眼差しが真摯な光を湛え、毅然と前を見据える。その先にあるのは、ブルーグリーンでライトで幻想的に彩られた《WALTZ》だ。
 ……何の迷いもなく断言されると、本当にそれがビッショウ様の存在意義で、正しいことなのだ――と納得しちゃいそうになるから怖いわね……。
 悪びれることも物怖じすることもなくスッパリと言葉に出来ることに対しては、驚きを通り越して畏敬の念すら抱いてしまうわ。
 骨の髄まで腐女子だけれど、一皮剥けているというか――もう完全に突き抜けているせいなのか、ビッショウ様は腐れているのに心にスッと太い芯が通っている気がする。だから、発言と行動に少しのブレもなくて、ある意味とても逞しくて快活だ。
 まあ、長年ルイさんを含めた曽父江兄弟と幼なじみとしてつき合い続けてるんだから、美男子を見極める能力はスバ抜けてるし、ちょっとやそっとのことじゃ動じなくもなるわよね……。
 いや、この場合、凄いのはビッショウ様のスケッチ攻撃と飽くなき探求心に耐え続けてきた曽父江五兄弟の方になるのかな?
 あっ、有馬家の隣――曽父江家には五人の息子がいるのよ。
 上から蘭伽・璃稀・瑠衣・零治・朗太という名前で、五人がそれぞれ異なる魅力を持ち合わせている。M市でも評判の美形兄弟です。
 ――ん? もしかして、有馬家の隣に曽父江家がなくて、五兄弟に出逢うことなく育っていたら、ビッショウ様がこんな素晴らしすぎる腐女子に成長することもなかったんじゃない?
 物心ついた時から美少年に囲まれていたから――必然的に美形以外は眼中に入らなくなり、異様にイケメンに執着するようになったんじゃ……?
 しかも、兄弟の中でもスバ抜けて綺麗で中性的な美貌を持つルイさんが同級生だもの。あんな超絶美形がすぐ間近にいて、性別関係なく自由奔放に恋愛なんてしてたら――妖しい妄想だって自然と発生するようになるのかもね……。
 いや、だからって、あたしがビッショウ様の趣味趣向を理解出来るわけでも、薔薇色の世界に親近感を覚えたわけでもないわよ!
 あたしは、あくまでも平均的な凡人のままでいたいんだからねっ!

「ビッショウ様の大切な任務のことは、よく解りました。とにかく、いい加減《WALTZ》に入らないと、入場制限かけられそうなので先を急いでもいいですか?」
 あたしは一応ビッショウ様に断りを入れてから歩調を強めた。
 ガラス張りの《WALTZ》は、すぐそこに見えている。
 あたしたちの他にも十時ギリギリに滑り込もうとしているお客様も当然いて、幾度となくドアが開き、人々がその中に吸い込まれてゆく。
《山梨ショック》以降、急激に新たな顧客が増えたこともあり、中二階までしかなかった店内は半年ほど前に改築された。元々倉庫として使用していた二階フロアを開放し、より多くのお客様が利用できるようにしたのよ。
 けれど、昔より収容人数が大幅に増えたからといって、安心は出来ない。
 何せ、今夜はルイさんの復活祭なのだ。
《WALTZ》の賑わい振りは最高潮に達するに違いないのよ!
「アラ、そんなに慌てて歩かなくても大丈夫よ、沙羅ちゃん。こんなこともあろうかと思って、スケッチに最適な四人がけの特等席をリザーブしておいたから」
 長い髪を颯爽と靡かせながら、あたしの隣でビッショウ様がサラリと告げる。
 えっ? こんなこともあろうかと思って――って、ビッショウ様も南海と同じくM市に山梨くんが出現する事態を想定していたってコト!?
 何? どんだけ凄いの腐女子の勘!? 
 イロオトコに対しては恐ろしく嗅覚が鋭くなるのね、きっと……。
「混雑が予測される日なのに、よく四人用テーブルなんて予約できましたね? 店長に鄭重に断られたりしなかったんですか?」
 あたしは単純な疑問を口に出していた。
 混み合いそうな日の《WALTZ》は、基本的に二人用テーブルの予約しか受け付けない。
 スペースの無駄を省くために、普段は四人用として使用されているテーブルは二人用として分離され、予約状況によっては更に二人用テーブルを増やしたりするのよ。
「もちろん最初は物凄く渋られたけど――リッキーのケー番を交換条件に出したら、特別にリザーブさせてくれたのよ。フフフッ」
 ビッショウ様が口の端をニヤリとつり上げ、意味深な笑みを零す。
「えっ、璃稀さん? 全く以て意味不明なんですけど……」
 あたしは状況が把握できずに、思わず小首を傾げていた。
 璃稀さんは曽父江家の次男で、イケメンのカリスマ美容師だ。
 その璃稀さんのケータイナンバーを知ったからといって、店長にメリットがあるとは到底考えられないんだけど……。
「細かいコトは気にしなくていいのよ。オトナの事情だから。フフッ……フフフフッ」
 ましても不可解な言葉を連ね、ビッショウ様は不気味な笑い声を響かせる。
 ……ふ、深追いはしないことにしよう。ビッショウ様がこの妖しい笑い方をする時は、大抵腐れた妄想を脳内に咲かせている時だもの!
 店長と璃稀さんの繋がりも謎だし、ビッショウ様が何を考えているのかは訊くのも恐ろしいので、放っておくに限るわ!
「うわっ、こえー。ルイの兄貴で何か妄想してるよな、絶対」
「ま、まさかっ、店長と璃稀さんの間にも赤い糸が……!?」
 山梨くんが醒めた眼差しでビッショウ様をチラ見し、南海が興奮に頬を赤らめる。
 ……南海、また他人の妄想に乗っかったわね。
 店長と璃稀さんのことはあまりよく知らないけど、どう考えてもルイさんという微妙な接点しか見当たらない。なのに、よくもまあ、色々と妄想出来るわね、南海も……。美形男子を見つけると、すぐに誰かとくっつけたくなる悪癖はどうにかしてほしいわ……。
 まあ、彼女たちの脳内妄想の中で店長と璃稀さんがどんな関係に発展していたとしても、あたしにはどうでもいいコトだけれど。
 そんなことよりも《WALTZ》に辿り着くことが重要なのよ!
《蝦夷舞鮨》を出てから結構時間が経ってる気がするのに、まだ《WALTZ》のドアを開けて何なんて――信じられないわっ!
 あたしは《WALTZ》のブルーグリーンの灯りへと向かって歩みを速めた。
 あたしに釣られたのか、両隣を歩く山梨くんとビッショウ様、そして山梨くんの向こう側にいる南海の歩幅も大きくなる。
 それぞれに異なる熱意を胸に秘め、あたしたちは横一列に並んだ状態で歩行者天国を突き進んだ。
 ――って、ちょっ……コレ、逆方向に歩いている他人たちの目には異様な光景として映ってるんじゃない!?
 な、何だか、擦れ違う人たちがコッチを見ては、何か見てはイケナイものを発見してしまったかのように慌ててパッと目を逸らすものっ!
 いや、それとも山梨くんやビッショウ様や南海の整った容姿に反応してるだけかしら?
 向かい側から見ると、左から『美少女・イケメン・平凡な顔・眼鏡美女』に見えるワケで……何の集いなのか一瞬気になるわよね。
 中身は『超腐女子・スーパーアイドル・フツーの女子高生・最凶腐女子クイーン』なんですけど……。
 ……アレ? おかしくない?
 ココに一般人のあたしが混ざってるの――激しくおかしいわよねっ!?
 ううん、そもそも歩行者天国を横一列で肩で風を切りながら闊歩していること自体が変なのよ! 明らかなマナー違反よね!
 突如として、とんでもないメンバーと歩いていることを実感してしまい、あたしは動揺を覚えた。
 あたしの平々凡々な人生に入り込んでくる予定のない人種の方々が、物凄く当たり前のように隣に並んでいる……。
 恋人の六楼さんがBL作家であることを指摘されると、最早あたし自身『平凡な女子高生』と言い切れるのかどうなのか不安になるけれど……。
 いつの間にあたしの周りは、こんなに奇天烈な人たちでガッツリと塗り固められているんだろう……。
 で、でも、六楼さんは職業としてBでLな小説を書いているだけで、本人は『同性にときめいたことは一度もない』って明言してるから――ギリギリセーフよね!? 
 決して腐れてはいないはずよっ!!



思いの外に長くなったので、連投します←(笑)
 
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2010.12.20 / Top↑
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