ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「なあ、園生沙羅、大事そうに抱えてるソレ――冬敷センセへのプレゼントなのかよ? ワイン? シャンパン?」
 六楼さんの顔を脳裏に思い浮かべていると、奇しくも山梨くんが彼のペンネームを口にした。
 山梨くんの視線は、あたしが両手に抱えている縦長のプレゼントボックスに注がれている。その形状とクリスマスという季節柄、酒類を連想したらしい。
「違うわよ。――あっ、店内に入ったら六楼さんのことペンネームで呼ぶのは禁止だからね! 気をつけてよ!」
「りょーかい。――で、何だよ、ソレ? センセじゃないなら誰宛なんだよ?」
「コレはルイさんへのプレゼントです。我が《蝦夷舞鮨》の大将が愛情を込めて作ったスペシャル太巻き――《ブッシュ・ド・ノリマキ》よっ!!」
 あたしはプレゼントボックスを恭しく掲げ、誇らしげに宣言した。
 あたしのバイト先である《蝦夷舞鮨》は、地域の皆々様に愛されて二十年以上が経つお寿司屋さんだ。
 中でも大将が色取り取りのネタを鮮やかに巻きこなす太巻きは、誰が口にしても絶品だと評判なのよ。
 大将の閃き次第で、季節限定の特別な極太巻きが気紛れに発表されるのよね……。
 クリスマスは、海鮮二十四種類がぎっしりと詰まったゴージャスな極太巻き《ブッシュ・ド・ノリマキ》ってワケです。
 ルイさんが太巻きフリークなのを知っている大将は、茶目っ気を出して『真ん中あたりに山梨サンタが出てくるように細工しといたぜ』と意気揚々に語っていた。
 海鮮で山梨サンタを描く大将の技は凄いけれど――ルイさんがソレを目にする確率はゼロに等しいと思う。だって、ルイさん、あんなに綺麗な顔をしているのに、極太巻きでも平気で丸かぶりしちゃうんだもん……。
 ああ、でも全長五十センチくらいあるから、流石のルイさんも大将の目論見通り真ん中あたりで一度息継ぎをするかしら?
 山梨サンタを見てルイさんが何を感じるかは想像するのも困難だけれど、大将の心意気に免じて一瞬だけでも目にして欲しい気はするわ。
「ソレ――中は一本の太巻きなのかよっ!? 半端ねェな、大将の太さに対するこだわり! つーか、《ブッシュ・ド・ノリマキ》って……オレがネーミングについてとやかく言うのも変だけどさ、大将って本気なのか冗談なのかイマイチ把握できないよな」
 山梨くんが純粋な驚嘆に目を丸め、プレゼントボックスを凝視する。
 高さ十五センチ長さ五十センチの箱の中に納められている《ブッシュ・ド・ノリマキ》を想像して、呆気にとられたのね……。
「フフッ、ルイさんが喜ぶモノと言えば太巻きよね! 当然わたしも《蝦夷舞鮨》に寄って来たわ。わたしのは《ブッシュ・ド・ノリマキ》ジョウネツーナバージョンよっ!!」
 山梨くんの隣で南海が高々とプレゼントボックスを掲げる。
「マグロの赤身から大トロまで、柵を丸々詰め込んで貰った特別製なのっ!」
「いや、ソレ――ただの巨大な鉄火巻きよねっ!? 何、ウチの大将に余計な仕事させてるのよっ!!」
 あたしは頬を引きつらせて、南海に鋭い声を投げつけた。
 一体、何本マグロの柵を使用したのよっ!?
 何で、そんなにルイさんにマグロを食べさせたいのよっ!?
 フツーの鉄火巻きじゃダメだったワケ!?
「フフフッ、この世でルイルイほど太巻きが似合う美男子はいないものね。私ももちろん《蝦夷舞鮨》でゲットしてきたわ」
 今度は、あたしの左隣でビッショウ様がここぞとばかりにプレゼントボックスを目の高さに翳す。
「私のは凄いわよ! 《ブッシュ・ド・ノリマキ》金のたま――――」
「ギャアァァァァッッッッ!! 歩行者天国で爆弾発言は止めて下さいっ! ってか、幼なじみに何を食べさせる気ですか、ビッショウ様ッッ!?」
 あたしは物凄い勢いで悲鳴混じりの言葉を発し、ビッショウ様の声を掻き消した。
 き、聞き間違いじゃないわよねっ!?
 今、確かに……耳にしちゃイケナイ破廉恥な単語を聞いたわよねっ!?
「アラ、そんなに狼狽えるコトないわよ、沙羅ちゃん。ただの金の玉子バージョンだから。すっごく大きな玉子焼きを巻いて貰ったの」
 ビッショウ様が悪びれもせずにニッコリと微笑む。
 ……玉子焼きなら玉子焼きで――ますます理解不能だわ。
 巨大玉子焼きだけを酢飯に巻いてもらったってコト!?
 ソレって、敢えて極太巻きにしてもらう必要がありますか?
 だし巻き玉子や伊達巻きじゃダメだったんですか……?
「フフフッ、ルイルイ――好きなのよ、玉子焼き。基本的に巻いてあるモノに弱いのかもしれないわね」
「えっ、マジで!? ルイって玉子焼き好きなのかよっ!? オレ、初耳だし、作ってあげたことないかも!」
 山梨くんが慌ててビッショウ様に確認する。
 山梨くんは料理番組に出演するほど、自他共に認める料理好きアイドルだ。
 美味しいらしいわよ、山梨くんの料理。
 ルイさんが半同棲生活に踏み切ったのも、山梨くんの料理が決め手になったんじゃないか――って、一時ネットの噂になっていた気がするわ……。
「そうよ。出汁を効かせるより砂糖多めの甘いヤツだと大喜びすると思うわ。まあ、顔には絶対に出さないでしょうけれど。フフフッ」
「よし、作るっ! オレ、ちょー張り切って激しく巻きまくるからな、玉子! ルイの喜ぶ顔、見たいもんな」
 ビッショウ様から思わぬルイさん情報をゲットした山梨くんは、拳を強く握り締め、興奮に目を輝かせている。
 山梨くんの全身からはルイさんへの想いが溢れ出ていた。
 ホントにルイさんのコトが大好きなのよね、山梨くん。
「つーか、みんな太巻きプレゼントするのかよ? オレも《蝦夷舞鮨》に戻って、《ブッシュ・ド・ノリマキ》買ってきた方がいいのかな?」
 脳内で素早く『玉子焼き計画』を立て終えたのか、山梨くんはフッと真顔になって心配そうにあたしたちのプレゼントボックスを見回した。
 半同棲してるんだから、何も今夜クリスマスプレゼントを渡す必要はないのに、そんなことにまで気を回すなんて意外と律儀だわね。
「ああ、山梨くんはイイのよ。だって、ホラ――山梨くんには誰にも真似できない最強の《ブッシュ・ド・ノリマキ》があるじゃない」
 ビッショウ様が妖しく唇に弧を描かせる。
 その熱い目線は、山梨くんの腰の辺りにピタリと据えられていた。
 いや、ちょっ……何、言っちゃってるの、ビッショウ様っっ!?
 あたしは驚愕のあまりに声も出すのも忘れて、口を半開きにした間抜け面でビッショウ様の顔と山梨くんの腰を何往復もしてしまった……。
「や、山梨くんの聖なる《ブッシュ・ド・ノリマキ》が……ル、ルイさんの美しい唇に――――」
 感極まった南海の声。
 間髪入れずにその鼻腔から赤い液体が伝い落ちた。
 ――いやぁあぁぁぁぁぁっっっっ!!
 あたし、もう今の時点でこの人たちと一緒にいるの、激しく嫌なんですけどっっ!!
 何なのよ、山梨くんの聖なる《ブッシュ・ド・ノリマキ》ってっっ!?
 ウチの大将が精魂込めて作った太巻きを腐れた比喩に使わないでほしいわっ!
 あたしは羞恥と怒りにこの場にいることが耐えきれず、無意識のうちに力強く地を蹴っていた。
《WALTZ》目がけて猛ダッシュし、ピカピカに磨かれたガラス戸を引き開ける。
 あたしは背後から迫ってくる南海たちの足音から逃げるように、必死の形相で《WALTZ》に飛び込んだ。

「助けて、六楼さんっ!!」

 刹那、店内の空気が一瞬にして凍りつき、皆の視線が一斉にあたしに突き刺さる。

 ――あっ……うっかり心の声を音に成してしまったわ。

 失敗。
 あたしとしたことが大失態だ。
 もう穏便に山梨くんを《WALTZ》に入店させるなんて――ムリだ。
「沙羅ちゃん、どうし……た――――!?」
 店の奥から慌てて出来た六楼さんが心配そうにあたしに駆け寄り、次いでギョッとしたように動きを止めた。
 眼鏡の奥で瞠られた六楼さんの双眸は、あたしの背後に釘付けになっている。
 凍結されていた時が動き始め、今度は店内が騒然とし始めた。
 振り返らなくも原因は解る。
 スーパーアイドル山梨和久が店内に姿を現したのだろう……。

 ごめんなさい、六楼さん、店長、《WALTZ》の皆々様――

 あたし、今、ちょっとだけ泣いてもいいですか……?

 

薄々お気づきかもしれませんが、《ブッシュ・ド・ノリマキ》を言わせたかっただけです←
クリスマスまでには完結しそうにありませんが、気長におつき合いくださいませ(;´▽`A``

 
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2010.12.21 / Top↑
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