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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ところで、イサヤくんが私たちを担当するのかしら?」
 ふと、ビッショウ様が六楼さんに声をかける。
 彼女の手は早くもトートバッグの中からスケッチブックと筆記用具を取り出していた。ケーキを注文するよりも先にスケッチする気満々だわ!
「店長に『このテーブルから目を離すな』ときつく言われましたので」
 六楼さんが苦笑で応じる。
 ビッショウ様と南海だけでも何をしでかすか解らないのに、注目度ナンバーワンで《WALTZ》での行動パターンが未知数の山梨くんがいるんだもん……。彼女たちを相手に比較的柔軟かつ臨機応変に対処できる六楼さんを担当につけるは、当然の采配よね。
 あたしにとっては喜ぶべき事柄だし、店長の指示に感謝したいわ!
「その――片手に掲げているのは何ですか、六楼さん? わたし的にはプラム・プディングとかブッシュ・ド・ノエルとかクリスマスっぽいのを頼みたいんですけど?」
 南海の視線が六楼さんの右手に注がれる。
 いつの間に準備してきたのか、銀色のトレーには巨大な黄金色の物体が載せられていた。
「ああ……こちらは当店のパティシエから山梨様へのクリスマスプレゼントになります」
 六楼さんが店員口調で淡々と告げ、手慣れた仕種で巨大スイーツを山梨くんの前にセットする。
「えっ、世界のトシ・カブトヅカが、何でオレにっ!?」
 プレゼントされる所以が全く解せないらしく、山梨くんが驚愕に目を瞠る。
 あたしたちも目の前に現れた巨大スイーツの意味が掴めなくて、美しく艶めく黄金色のソレを思わず凝視していた。
「いや、その……兜塚さんが『こんなこともあろうかと思って、山梨和久に捧げる《ブッシュ・ド・ノリマキ》金のさ……お――――』」
「ぎゃっ! やめて六楼さんっっっ!! 兜塚さんがもしホントにそう言ったのだとしても、お願いですから六楼さんだけは言わないでッッッッッ!!」
 あたしは、ここが《WALTZ》の店内だという現実も忘我して、六楼さんの声を掻き消していた。
 あたしの六楼さんに何を言わせる気よ、兜塚さんっ!
 こんなこともあろうかと思って――って、まさか兜塚さんまで山梨くんが《WALTZ》に降臨することを予知していたってコトッッ!?
「フフフッ。流石は世界のトシ・カブトヅカ。目の付け所が違うわね」
 ビッショウ様が聳え立つ金色のスイーツを眺め、うっとりと呟く。
「や、コレ――《ブッシュ》でも《ノリマキ》でもないだろッ! 丸太っつーか、何かの塔だし、ただの馬鹿デカイ洋梨タルトにしか見えないんだけどっ!」
 山梨くんが唖然と六楼さんを振り仰ぐ。
 作ったのは兜塚さんだから六楼さんに説明を求めても答えは返ってこないんだけどね……。
 でも、山梨くんの疑問はあたしも気になったところなので、許されるなら兜塚さん本人に問い質してみたいわね。
 山梨くんの前に威風堂々と聳えているのは、高さ五十センチ、直径三十センチ以上はある洋梨タルトなのよ。
 天を目指して螺旋状に積まれた金色のコンポートは、華麗かつ荘厳だ。
 ……って、クリスマス間近の繁忙期に何やってのるよ、兜塚さんはっ!?
 これほど美しく積み上げるのは、相当時間がかかるんじゃないのっ!?
 他のケーキを焼きながら、山梨くんが不意に来店するかもしれないことを予測して、特別に製作してたってコト? 伊緒社長に見つかったら、どやされるわよ、兜塚さん……。
 それにしても、世界を制したことのあるドリーマーの考えることは謎だわ。
「うん……洋梨タルトです。何か今日、ルイのプレゼントに《蝦夷舞鮨》の《ブッシュ・ド・ノリマキ》を持ってくるお客様が多くて――それで、兜塚さんの職人魂に火が点いたみたいなんだ」
 六楼さんが素の喋り方に戻り、理知的な顔にまた苦い笑みを湛える。
「ホントの名前は《mountain of the pear》だよ。ルイ専用の特大タルトなんだけど――山梨さんが来店したことを知った途端、『記念だから、どうしても本人に食べてもらいたい』って有無を問わさずに兜塚さんに持たされました」
「へえ、ルイ専用って言われると、ちょっと納得。つーか、このサイズを一人で食べきれんの、ルイくらいしかいないだろ! けど――何がどうなって洋梨のタルトがオレに変換されるワケ? ――おおっ、このコンポートの綺麗な重ね方、凄すぎるぜ!」
 山梨くんが素直に感嘆したらしく、改めて巨大タルトに視線を注ぐ。
 自分でも料理をする山梨くんは、芸術的な巨大タルトを目の当たりにしてテンションが上がったみたいだ。まあ、タルトとは言っているけど、洋梨のコンポートが九割以上占めてますけど……。
「フフッ、相変わらずお馬鹿ね、山梨くん。《mountain of the pear》――直訳すると《梨の山》――そこから転じての山梨よ! 兜塚さんの脳内では、最早コレは山梨くんそのものッッッ! この天を貫く勢いで聳える山梨くんをルイルイ専用にするなんて、やはり侮れないわね、兜塚さん」
 ビッショウ様の双眸は未だ洋梨タルトを熱く見つめている。きっと、脳内では物凄い勢いで薔薇の花びらが舞っているんだと思うわ……。
 天を貫く――とか、全然そんな風には見えないのに、何をどうしてもビッショウ様の目に腐れたビジョンとして映るのよ。恐ろしすぎるわ。
「ちなみに、以前ルイはコレをジャスト十五分で完食しました」
 六楼さんが情報を提供した途端、南海が一気に水を呑み干し、ガンッと荒々しくテーブルにグラスを戻した。
「ルッ、ルイさんッ……! 十五分で食べきるなんて、素敵すぎるっ!」
 南海が恍惚の眼差しを洋梨タルトへ向ける。
 確かに、これだけ巨大なタルトをたったの十五分で食べ終わっちゃうなんて、凄いわ。流石、鋼鉄の胃袋を持つルイさんだ。
「聳え立つ山梨くんを十五分もかけて、ルイさんがあの美しい顔で頬張るなんて――」
「ちょっ……おかしいでしょ! 一体、何に感激してるのよッッッ!?」
 南海の鼻息が荒くなってきたので、あたしは慌ててポケットからティッシュを取り出した。
 あっ……と、あたしは南海が何を想起したかなんて――ぐ、具体的にはちっとも解ってないわよっ! 
 ただ、南海が鼻血まで十秒のところまできたから、必然的にBでLな妄想をしているに違いない、って思っただけだからねっっ!!
 大体、兜塚さんの芸術的な洋梨の螺旋を観て、イケナイ妄想に辿り着く方が変なのよ!
 まあ、何故にこんなに高く梨を積み上げたのかは理解不能だけれど……。きっと、ルイさんのお腹を満足させようして巨大になっただけよね。うん。
「ああッ……ルイさん、お願いしたら、コレ、天辺から丸かぶりしてくれるかしら?」
「するワケないでしょ! そんなお願いした瞬間に、店長自らの手によって《WALTZ》から排除されてるわよ、南海!」
「ええ~、折角目の前に立派な山梨タワーがあるのに――」
「や、ソレ、オレじゃないからなッ! 大きさも形もスイーツっぽくないけど、洋梨のタルトだからな! つーか、本人いるのにルイに変なプレイ強要すんなよ、弟子ッ!」
「じゃ、じゃあ、ホンモノの山梨くんでぜひ実地……を――――ハッ! ルイさんッッッ!! ルイさんの匂いがするわッッッ!!」
 いかがわしいコトを口走ろうとした南海が、突如として目を見開く。
「ルイさァァァァァァんッッッッッッッ!!」
 螺旋階段で繋がった二階フロアへと、南海の視線が跳ね上がる。
 転瞬、二階から物凄い重低音のどよめきと女性たちの溜息混じりの歓声が響き、南海の鼻腔からは鼻血が噴き出した。

 甘やかなスイーツの香りに包まれた店内でも、南海のルイさんセンサーは怖いくらいに正確だ。

 あたしは今日、その事実を初めて知った。
 山梨くんよりもビッショウ様よりも親衛隊よりも誰よりも――反応が速いなんて尋常じゃない。
 もしかしたら、南海こそが世界で一番純粋なルイさんファンなのかもしれない。
 二階フロアからは男女入り乱れた歓喜の声が途切れることなく聞こえてくる。
 ルイさんが店内に登場した紛れもない証だ。

「ああ~ん……ルイさん――」
 まだルイさんが見えるワケでもないのに、南海の瞳は早くも期待と興奮にキラキラと輝いている。
 どうでもいいけど南海――顔を上向けてるから噴出した鼻血が全部己の顔に舞い戻ってきてるんだけど?
 ルイさんに逢う前に既に血塗れなんですけど?
 ホラー映画ばりの流血で怖いのよっっっっ!!



未だルイの姿、見えず……(-。-;)
 
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2010.12.24 / Top↑
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