ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑

 鮮やかなピンクのソレは、跳ねるようにピョコピョコと移動してきて、六楼さんとテーブルの間に身を割り込ませた。
「ナマ山梨くん、ちょーカッコイイ!」
 澄んだボーイソプラノが響く。
 山梨くんをはじめ、あたしたちは突然やって来たソレをしばし無言で凝視していた。
「トーリ、持ち場はどうしたんだ!? おまえ、今夜は中二階の担当だろ?」
 長身の六楼さんが微かな怒気を滲ませた顔で、ピンクの物体を睥睨する。
 ピンク色の物体は――ウサギの着ぐるみパジャマを纏ったトーリくんだったのよ。
 あっ、女の子みたいに可愛い顔をしてるけど、彼も歴とした《WALTZ》の店員さんよ!
 小沼透璃(こぬま とうり)――ルイさんも通っていた超お金持ち学校・私立聖華学園高等部の一年生。
 セクシーでワイルドな山梨くんとはタイプが異なるけれど、トーリくんは今すぐにでもアイドルデビューできそうなほどの童顔美少年だ。
 いつもニコニコしているので、幼稚園児からご年配まで、幅広い層の女性に可愛がられている。
「えっ、だって、僕もナマ山梨くん見たいもーん。中二階は、もうすぐモンが降りてくるから邪魔だってさ」
 大きな瞳で上目遣いに六楼さんを見つめ、トーリくんが無邪気に笑う。
「ト、トーリくん……なんていうプリティさなのっ! 持ち去りたいわ!」
 着ぐるみパジャマに着られている感のあるトーリくんを見て、南海が感激に声を震わせる。
 ……可愛い。確かに、可愛いのよね!
 ホントに女のあたしたちから見ても、トーリくんは存在そのものが可愛いすぎるのよっ!
 けど、ウサギの着ぐるみパジャマ――って、ソレ、明らかに仕事する気ないわよね?
 同僚に『邪魔だ』って追い払われるのは、スタッフとしてどうなのよっ!?
 ――っと、トーリくんが口にした『モン』っていうのは、イケメン店員の一人――モン様のコトだけど、今は別に説明しなくていいわよね。面倒だし……。
「ウサギの着ぐるみ――似合ってるけど、仕事するスタイルじゃないだろ。着替えてこいよ、トーリ」
 あたしと同じ疑問を抱いたらしく、六楼さんがすかさず注意する。
「テンチョが、今夜はこのカッコで店内歩いてるだけでイイ――って言ったんだもん。だから、コレが僕のお仕事」
 トーリくんが悪びれもせずに満面の笑みを浮かべる。
 背の高い六楼さんと並ぶと、身長差がちょうどいいカップルみたいだわ。
 ……アレ? もしかしたら、あたしが隣に並ぶよりトーリくんの方がお似合いのような気がしてきたわ。
 ううん、錯覚よ! 錯覚よ、沙羅!
 トーリくんが恐ろしく可愛らしい顔立ちなのは、生まれ持った天賦の才。そう、彼もルイさんと同じく別世界の住人なのよ。
 比べちゃダメ。決して比べるような愚かな真似をしちゃダメよ、沙羅っ!
 比べたら最後――瞬殺でノックアウトされて、二度と立ち上がれなくなるから……!
 あたしは一人、胸中で葛藤しながら、トーリくんと六楼さんのやり取りを眺めていた。
 それにしても、世の中にはこんなに愛らしい男の子いるものなのね。どんな真っ直ぐな育ち方をしたら、そんなに無邪気な笑顔になるか――不思議だわ。
「イサヤさん、僕がしばらくココ見てるからオーダー入れてきていいですよ。何なら僕の代わりに中二階に移ってもいいんじゃないかな?」
「いや、おまえ、ソレ――山梨さんを間近で見たいだけだろ」
「うん。僕、山梨くん、ちょー大好き! アイドルとして絶賛リスペクト中!」
「山梨さんに迷惑かかるし、中二階にレイモンが降りてくるって――ルイと一緒ってコトだろ? あの二人と一緒になるのは、俺も遠慮する」
 六楼さんがトーリくんの申し出をキッパリと拒絶する。
 あっ、『レイモン』っていうのもモン様のコトよ。
 ……やっぱり、先にモン様の説明をしておいた方がいいかな?
 モン様こと平黎文(たいら れいもん)さん。聖華学園高等部三年。
 レイモンなんて変わった名前だけれど、純粋な日本人だし、どちらかというと洋装より和装が似合うような美形だ。清廉としたイメージがあるのか、ファンからは《涼風の貴公子》と呼ばれている。
 名家の御曹司で、幼稚部から聖華学園に在籍しているエリートだ。
 そして、幼稚部からずーっとルイさんの後輩ってコトで、何かというとルイさんにからかわれて遊ばれている気がするわね……。
 当然、同じ理由で先輩に当たるビッショウ様にも絶対に頭が上がらない。
 かなりの色男なのに――ある意味、ちょっと可哀想なポジションの人だ。

「山梨くんとトーリくん――意外とイけるんじゃないかしら? フフフッ」
「あっ、ビッショウ様もそう思いました!? リョースケ×トーリが王道だと思ってましたけど、山梨×トーリ、六楼×トーリ、テンチョ×トーリ、モン様×トーリ――とかもアリだと思いますっ!!」
「そうね。トーリくんは完全に右側要員よね。でも、モンモンはダメよ。アレは小っちゃい頃からルイルイのおもちゃだし、兜塚さんのイケナイ試食会の相手だもの」
 ふと、南海とビッショウ様の訳の解らぬ会話が耳に飛び込んできて、あたしは思わずギョッと目を剥いてしまった。
 な、な、何で、この人たちは当人がいる前で微塵の恥じらいもなく、そんな戯言が口走れるのよっ!?
 いい加減慣れたはずのあたしでも、毎度毎度ビックリさせられるほど信じられない神経の持ち主だわっ!
「楽しい妄想中、申し訳ありませんけど――六楼さんを爛れた妄想恋愛関係に組み込まないで下さいっ! 何度言ったら解ってくれるんですかっ!?」
「オイ、何だよ!? 誰だよ、モン様――つーか、モンモンってッッ!? ルイのおもちゃって、オレ――そんなの聞いてないし……!」
 あたしの声に山梨くんの焦燥混じりの声が被さる。
 ……いや、そんなに慌てなくても、ビッショウ様と南海の妖しい妄想世界だけの出来事だし、あくまでも架空の人物相関図だからね、山梨くん!
 あたし以上に激しい反応を示すなんて――ルイさんのコトとなると本当に必死なんだな。そこまで熱く想われるルイさんが、ちょっぴり羨ましいわ。
 けど、自分が×の左側に配置されることには、全く怒りも抵抗も感じないのかしら? 国民的スーパーアイドルなのに……。
 それよりも先にルイさんとモン様のイケナイ何かをうっかり思い浮かべちゃったのね、きっと。

「えー、僕、その中だったら、初めては山梨くんがイイなぁ」
 相変わらずのニコニコ顔でトーリくんがさり気なく口を挟む。
 トーリくんも可愛い顔して、何ぶっちゃけてるのよっ!?
 そこは別にビッショウ様と南海の妄想に乗っかってあげなくてもいいのよ!
 そんなリップサービス、この二人以外の誰も喜ばないんだからねっ!
「おまえがいるとお嬢様方の妄想が複雑怪奇になるから――帰れ。中二階へ」
 口元を引きつらせた六楼さんが、ウサギの耳を片手で引っ張る。
 トーリくんのおかげで南海とビッショウ様の妄想が膨らみ始めたので、本当に迷惑がってるわね、六楼さん……。
「ええっ!? 待って! ちょっだけ待ってよ! こんなこともあろうかと思って、僕――『紅蓮の鏡月』持ってきたんだからっ! 絶対、絶対、ぜーったい山梨くんにサインしてもらう!」
 トーリくんが慌てふためきながら腹部についているポケットに片手を突っ込む。
 彼がそこから取り出したのは、『紅蓮の鏡月』九巻とサインペンだった。
 こんなこともあろうかと思って――って、まさかトーリくんまで山梨くんが《WALTZ》に来ることを予見してたってコトッ!?
 あたしは何回、似たような感じで驚き続けなきゃいけないのっ!?
 どうしてみんな、山梨くんがココを訪れるって信じ切ってる――っていうか、予知しまくってるのよ?
 今の世の中、みんなプレコグニションやクレヤボヤンスを常時発揮できるのが、脳の標準装備だとか言わないわよね?
 もしかして、あたし以外のM市民は、みんなエスパーだったりしないわよねっ!?
 そのうち『超能力都市伝説 Mシティ連続イケメン半裸殺人事件 ~ケーキ屋探偵セクシーボイスの謎~ 第一話【容疑者1:ロン毛店長】』的な感じで、山梨くん主演のカオス連ドラとか始まったりしないわよねっ!?
 ヤダッ、あたし……何か変な汗かいてきた。
 南海は昔からの知り合いだけど、ビッショウ様や山梨くんとか――未知との遭遇を果たしてから、何だかあたしまで思考回路が狂い始めたような気がするわ。
 以前のあたしは、こんなに容易く妄想する女子高生じゃなかったはず……!
 ――ハッ……まさか、あたし、知らない間にアブダクションされて腐女子になるように脳を改造されてるっ!?
 今夜『こんなこともあろうかと思って』と口にした人物の中に犯人がいるんだわ!
 彼らの中の誰かの特殊能力で、あたしは――――

「そんなコトあるワケないでしょ、沙羅。ソレ、腐女子っていうよりもギャラクシーな電波系妄想だし。プレコグニションやアブダクション――とか、フツーの女子高生は知らないと思うわ。海外ドラマの見過ぎじゃないの」
 南海が淡々とした口調であたしを窘める。
 転瞬、あたしは無言で目を見開き、南海に恐怖の眼差しを注いだ。
 ――よ、読まれてるッッ!?
《山梨ショック》の時にもそうじゃないかと疑ったけど、やっぱり南海はあたしの頭の中を読めるんだわっ!!
 ど、どこまで進化するの、南海ッッッ!?
 超腐女子の称号は伊達じゃないわね……!
 過去にも経験済みだから敢えて踏み込んだ追及はしないけれど、南海は能力者確定だわ。
「だからね、沙羅――自分じゃ気づいてないみたいだけど、たまにブツブツ洩れてるからね、呟き。あ、ちなみにその妄想ドラマのタイトル――半裸だとモヤモヤするから、スッパリと全裸に変えてよね」
 再度南海に指摘され、あたしは驚愕と羞恥に息を呑んだ。
 ……あ、ああ、そう……ええっ、そうなのッッッ!?
 だ、断片的に洩れてるワケですか……。
 完全に――あたしの単純ミスだし、もしかしたら時折六楼さんにも聞こえてたかもしれないってコトね……。

 ……………………小っ恥ずかしいわ!

 あたし、《山梨ショック》から今の今まで、南海がエスパーだって本気で信じ込んでたじゃないっ!!



折角なので、本編に名前だけ出てるスタッフにもスポットライトを――
とか思ったら、10話過ぎてるのにルイが全く出て来ない……(´□`。)
最初はレイレイだったんですけど、零治とかぶるのでモンモンになりました(笑)

 
← NEXT
→ BACK


スポンサーサイト
2010.12.28 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。