ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「リョースケ!」
 ふと、六楼さんが一階フロアに視線を配り、たまたま近くを通りかかったリョースケさんを呼び止める。
「――あ? 何だよ、イサヤさん」
 リョースケさんは銀のトレーを片手に掲げた状態で足を止めた。
 整った顔がこちらを振り返り、妙に気迫の籠もった三白眼が六楼さんを射る。
 一見怒っているように見えるけど、これがリョースケさんの素だ。
 リョースケさんは六楼さんに次ぐ長身の持ち主で、店長に次ぐ鋭利な双眸の持ち主だ。
 本名――根室亮介。愛称『ネムロック』
 M市内にある都立工業高校の三年生。ロックバンドのボーカルを務めているリョースケさんは、バンドの活動費のために《WALTZ》でアルバイトをしているらしい。
 聖華学園の生徒が多い中で、都立校出身の稀少な人材でもある。
《WALTZ》で採用されるくらいだから、もちろんリョースケさんもカッコイイ。ちょっとワイルドな感じのイケメンだ。
 店長の危険な雰囲気を肉食獣に喩えるなら、リョースケさんのソレは猛禽類かな?
 とにかく、美男子なのに双眼に物凄いギラギラしたモノが宿っているのよ!
 おまけに、接客業なのに堂々と『俺に近寄るなオーラ』を発している凄い人だ。
 制服の胸元を大胆にザックリとはだけさせているのも、リョースケさんのトレードマークよ。鎖骨と胸元をチラ見せすると何故だか異様に女性受けがいいので、特別に彼だけが制服の着崩しを許されているらしい。
 ……って、説明してみたけど、《WALTZ》ってイロオトコなのに風変わりな人が多いわね。
 ホントに美少年&美青年であるコトを大前提に面接を行っているのね、伊緒社長。
 噂では、社長自ら全国各地にある支店に足を運び、培われた審美眼で面接を行うらしいわよ。
 余談だけれど、《WALTZ》の女社長――松本伊緒氏は、『生チョコレートはワ・ル・ツ♪』という親しみやすいフレーズで全国的に有名な松本製菓の会長・松本茶緒次郎氏の愛娘だ。元々潤沢な資金があるから、美形と極上スイーツに拘ったお店作りと華々しい全国展開が可能だったのよね、きっと。
 伊緒社長の美形至上主義とケーキ激ラブ精神のおかげで、素敵なイケメンと美味しいスイーツを同時に堪能できるから客の立場としてはとっても有り難いですけれど。
 ああ、ホントに余談だわ。リョースケさんの話に戻すわね。

「コレ、リョースケの監視下においといてくれ」
 六楼さんが着ぐるみパジャマを纏ったトーリくんをズイッと前に押し出した瞬間、リョースケさんの眦が険しくつり上がった。
「あぁあッ!? フザけんなよッ! 何で、俺がトーリなんかの面倒みなきゃいけないんだよッ! イサヤさんが見張っとけよッ!」
 営業中にも拘わらずリョースケさんの怒声が一階フロアに響き渡る。
 ……本当にフリーダムでマイペースだわ、《WALTZ》スタッフって。
 ちなみにリョースケさんとトーリくんは犬猿の仲――らしい。
 接客スタイルも性格も容貌も相反するので、中々お互いを受け入れられないのかもしれない。
「悪い。俺、このテーブルからくれぐれも目を離すな――って店長に言いつけられてるし」
 リョースケさんの尖った眼差しを受け止め、六楼さんが冷静に言葉を返す。
 そうよね。ビッショウ様や南海に加えて山梨くんまでいるんじゃ、迂闊にこの席から離れられないわよね。比較的つき合いのあるあたしでさえも、この三人が何をしでかすのか全く以て予測不可能だもん。
「しょーがねェな」
 リョースケさんはテーブルに座る面々を眺め、心底迷惑そうにチッと舌打ちを鳴らした。
「イサヤさんの頼みじゃなかったら、トーリと組むなんて有り得ねェんだけどな」
 リョースケさんが渋々と近寄ってきて、トーリくんの着ぐるみパジャマの袖を引っ掴む。
「えーっ! ヒッドーイ。僕だってリョースケと一緒なんて、激しくイヤなんだけど! 山梨くんの方が断然カッコイイし、ちょー楽しいし、も少しココにいたいのにっ!」
 トーリくんがだだっ子のように唇を尖らせ、名残惜しげに山梨くんを振り返る。
 山梨くんは《WALTZ》の洒落たイメージと店員たちのフランクさのギャップにまだついてこられないのか、複雑な微苦笑を湛えていた。
「ココにいたい――って、おまえ店員だからな、一応! お客サマもメーワクそうだし、仕事に戻るぞ! ホラ、テンチョがスゲー無言の圧力をかけてくっから、とっととフロアで愛想振りまけ」
 こめかみに青筋を浮かべたリョースケさんが、乱暴にトーリくんの背中を押し出す。
 一瞬だけカウンターに視線を馳せたトーリくんは、店長に向かって思い切り舌を出してからいつものニコニコ顔に戻り、軽快にフロアを進み始めた。
 愛らしい姿をしたトーリくんが各テーブルに向けて手を振る度に喜びの声があがり、女性客の顔に笑顔が広がる。
 愛されてるわね、トーリくん。流石は《WALTZ》のマスコット的アイドルだわ。
「……なんか、想像したのとちょっと違うな。もっと洗練されていて落ち着いた感じなのかと……。ああ、でも、ルイが三年以上もバイト務まるくらいだからなぁ……」
 遠ざかるピンクのウサギとリョースケさんの背中を眺め、山梨くんがポツリと呟く。
 あたしの想像通り、《WALTZ》のお洒落なイメージが完全に崩壊したのね……。
 うん、お洒落ではあるけど時々訳の解らないお祭り状態に陥るのよね、《WALTZ》って。ルイさんが現役だった頃よりは、幾らかマシになったと思うけれど……。
「騒々しくてすみません、山梨さん。後でしっかり注意しておきますから」
 六楼さんが長身を優雅に屈め、山梨くんに謝罪する。
「や、別に……コレはコレで楽しいよ。ルイの青春がココに詰まってるんだと思うと、《WALTZ》に来られただけで何かスゲー嬉しいし。オレ、あんまルイの過去って知らないしな――」
 山梨くんが感慨深げに言葉を紡ぎ、視線を店内に巡らせる。
「フフッ、そうね、ルイルイは自分のことは語らないタイプだものね。ココにルイルイの青春が詰まってるのは間違いないわ。けれど、そのセイシュンはホントに漢字で表すと青い春なのかしら?」
 相変わらずスケッチブックに鉛筆を走らせ続けているビッショウ様が、妖しく唇に弧を描かせる。
「――えっ!? オイ、それって……どーゆー意味だよッ!?」
 山梨くんが焦燥も露わにビッショウ様に問いかける。
 ……訊かない方がいいと思うけど、山梨くんてルイさんのコトになるとどうしても熱くなっちゃうのよね。
「聖なる『性』だったら素敵だなぁ、って単純に思っただけよ。フフフフッ」
「咲耶さん、当店の歴史を都合良く改竄しないで下さい。創業以来、《WALTZ》は頗る健全なケーキ店です」
 六楼さんが眼鏡のレンズをキラッと輝かせ、凛々しく断言する。
「ルイの自由気儘なセイシュン遍歴は、主に聖華学園の高等部で築き上げられたモノですから――」
「いや、それって、全くフォローになってないんだけど、センセッ!!」
 思わぬところで六楼さんに追い打ちをかけられ、山梨くんはショックを通り越してツッコミに走ったらしい。
 あたしの代わりに六楼さんにダメ出ししてくれて、ありがとう、山梨くん!
 南海やビッショウ様や山梨くんにはビシバシ厳しい指摘ができるあたしだけど、六楼さんにだけは未だに中々できないのよね……。惚れた弱味かしら?
 普段は怜悧で冷静なのに、何が引き金になるのかたまーに余計なコトを口走るのよね、六楼さんも……。その度にあたしは密やかに動揺し、ツッコむべきなのか逡巡してしまう。だから、山梨くんのように口に出してくれる人が代わりにいると、とっても有り難い。
 けど――余裕なさ過ぎて、うっかり『センセ』とか口走ってるのよ、山梨くんッッッ!!
 六楼さんが冬敷和魔だってバレたら、どーするのよッ!?
 咄嗟にあたしは山梨くんの脇腹に肘鉄を打ち込んでいた。
「うっ……! ちょっ……オレ、アイドル……なのに――」
 山梨くんが小さく呻き、あたしに恨めしげな眼差しを送ってくる。
 当然、あたしは知らんぷりしたわよ。入店する前にあれだけ言い含めたのに、『センセ』なんて言うからイケナイのよ!
 六楼さんが『紅蓮の鏡月』の作者だと知れ渡るってことは、M市民女性の憩いの場であるこの《WALTZ》に南海やビッショウ様のような華麗なる腐女子が大挙して押し寄せてくるってコトだからね!
《山梨ショック》の二の舞だけは避けたいのよ!
 あの時、《WALTZ》から弾き出されたあたしたちのやるせない怒りと口惜しさは、男子にはきっと解らないんだろうなぁ……。
「じゃあ、そろそろ注文の品を用意してくるので――絶対にこの席から動かないで下さいね」
 流石に自分でも口が滑ったと感じたのか、六楼さんは山梨くんが痛みに耐えている隙に取り繕うような笑みを湛えて素早く身を翻した。
 背筋のピンと伸びた美しい立ち姿で、第二厨房へと消えてゆく。
 あ、兜塚さん率いるパティシエチームが陣取っているのが大きな第一厨房で、飲み物を用意するための小さなキッチンが第二厨房って呼ばれているのよ。



ブツ切りでスミマセンッ。連投します(^▽^;)
 
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2011.01.11 / Top↑
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