ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「――ん? そんな切羽詰まった顔して、どうしたの? バイト終わりで疲れてるんだから、我慢しないでブッシュ・ド・ノエルに手を着ければいいんじゃないかな? ルイもまだコッチ側まで廻って来られないだろうし」
 六楼さんを見つめる眼に変な力が入りすぎていたのか、彼が心配そうにあたしの顔を覗き込んでくる。
 いや、あの、確かに小腹は空いてますけど……。
 でも、みんながケーキに手を着けないからって、我慢してたワケでもないんですけど……。
 ただ、ちょっと六楼さんに目線だけで『好き』ってアピールしてみただけなのに、全く通じてないって……。若干ヘコむわ。
 何でだろ? 山梨くんを見習って熱視線を送ったはずなのに――あたしの瞳、どんだけギラギラしてたの? 
 ……おかしいな。山梨くんと同じように強い想いを乗せて見つめたはずなのに。
 あたしの場合は切なくも色っぽくもなければ、恋する乙女の輝く眼差しにも見えないってワケですね……。
 やっぱりアイドルの真似なんて、無謀だからするなってコトね。
 何だか認めるのは悔しい気もするけど『アイドル山梨和久』だから絵になる仕種とか表情って…………あるのね。
「……ハイ」
 あたしは六楼さんの勘違いを訂正せずにフォークを握った。
 バイト終わりでお腹が空いているのは事実だし、折角《WALTZ》に来てるんだからスイーツを楽しまなきゃね!
 あたしの目の前には、濃いココア色のブッシュ・ド・ノエルが美しい姿を見せている。
 テイクアウトではなく店内用なので、食べきれるように配慮されたハーフサイズだ。
 でも、ちゃんと切り株やサンタや雪だるまやツリーがデコレーションされている。
 ――か、可愛いっ!!
 去年は確かホワイトだったけど、今年はチョコレートなのねっ!
 綺麗な波線を描く紋様とか、雪を模した粉砂糖の絶妙の降らせ方とか、切り株の断面の鮮やかさとか、チョコで作られた枝のリアルさとか――全てが丁寧かつ繊細に作られていて、物凄く美しいんですけどっっっ!!
 流石は兜塚アートだわ!
 時々、山梨タワーなんて珍妙なモノを考案しちゃうお茶目な人だけど、兜塚さんは本来こういうファンタジックなスイーツを創作する人なのよっ!
 ま、まあ……山梨タワーもある意味ファンタジーだけど……。
 あたしは未だにテーブルのど真ん中に聳え立っている巨大洋梨タルトを一瞥し、それから改めてブッシュ・ド・ノエルに視線を戻した。
 ああ、よく観ると切り株の脇にお菓子の家までちょこんと載せられているわ! 屋根に降り積もる雪が、超メルヘンなんですけどっ!
「うわぁっ……可愛すぎる……!」
 あたしが感激に目を輝かせると、六楼さんは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。ホワイトもあるんだけど、沙羅ちゃんはチョコの方が好きかと思って。こっちは、ココアベースのロールケーキにビターチョコのクリームで甘さを抑えてるから、このサイズでもくどくないと思うよ」
 ハーフとはいえかなりデコレーションされてるから、総重量は結構あるわよね。なのに、不思議と完食できちゃうのが兜塚マジックだ。
 あたしはウキウキした気持ちで、ブッシュ・ド・ノエルにフォークを挿し入れた。
 丸太の端を切り取って口内へと運ぶ。
 一口頬張った瞬間、チョコクリームがフワッと溶けるようにして口内に広がった。
 の、濃厚なのに、恐ろしいくらいクリーミーだわ!
 スポンジも《WALTZ》の他のケーキに比べてしっとりモチモチしてる。
 ココアベースだって言ってたけど、微かな芳ばしさを感じるわ! 
 隠し味にコーヒーも混ざってるのかしら?
 いや、違うのかな? ロールされてるクリームがモカなのかしら?
 クルミを砕いたような極小の粒々も更に香味を深めている。これも何だろ?
 ……解らない。
 解らないけど――心がうっとりとする不可思議なほろ苦さだわ!
 そして、とにかく――美味しい!!
「し、幸せ……!」
 最初の一口を呑み込んだあたしは、無意識に素直な感嘆を洩らしていた。
 何度食べても、兜塚さんの生み出すケーキは魅惑的で夢いっぱいだ!
「マジでちょー美味いんだけど! 何だ、このラム酒……オレの知らない香りがする。後でトシ・カブトヅカにメーカー訊いてこよう。――ん? オレンジピールは……自家製なのか? スゲー気になる! つーか、オレも作りたいな」
 あたしの隣では、山梨くんがダンディケーキを堪能しながら真剣な面持ちで独りごちている。
 料理好きの山梨くんは、色んな意味で兜塚スイーツの虜みたいね。ダンディケーキを見つめる眼差しに、並々ならぬ熱意が込められてるわ。
 よく雑誌のインタビューとかで『趣味:料理』って答えてるけど、アレはイメージアップ戦略の一環とかじゃなくて純粋な解答なのね!
 レシピは当然教えてもらえないだろうけど、せめてお酒のメーカーくらいは教えてもらえるといいね、山梨くん!

「ああ、いつもながら美味しかったわ。フフッ」
「兜塚さんのケーキは常に最高品質ですよね!」
 あたしが密かに山梨くんにエールを送ったのとほぼ同時に、向かいではビッショウ様と南海が揃ってフォークを置いたところだった。
「えっ!? 二人とももう完食したんですかっ!?」
 あたしは驚いて目を丸めた。
 二人ともちょっと前までは妄想に耽っていたはずなのに、あたしが一口食べる間に全てを喰らい尽くしてしまうなんて信じられない!
 ルイさん並の早喰いよ!
 ――ってか、あたし、山梨タワーに邪魔されて、二人が注文したケーキの姿すらまともに鑑賞できなかったんですけどっ!
 南海が頼んだザッハトルテは定番だからいいけど、ビッショウ様のシュトレンはクリスマスシーズンしか置いてないから是非とも観たかったのに!
 白い影すら目に入らなかった気がするわ。……残念。
「ああ……シュトレン……ちょっと断面を眺めて見たかったのに……」
「や、そんなに落ち込まなくても……。後で俺がプレゼントするから」
 あたしのボヤき方があまりにも情けなかったのか、六楼さんが苦笑を湛えながら慰めてくれる。
 優しいな、六楼さん!
 そうよ。あたしも落ち込むことないわよね。テイクアウトすればいいことなのに。
 南海とビッショウ様の食べっぷりが意外だったから、そこまで気が回らなかったわ……。
 恥ずかしい――けど、六楼さんの気遣いが嬉しかったりします。
「ありがとう、六楼さ――――」
 六楼さんにお礼を言いかけて、あたしはビクッと動きを止めた。
 突如として、バイオリンの音色が聞こえてきたからだ。
「これはモン様ね!」
 南海がいち早く反応を示し、中二階へと視線を飛ばす。
 釣られてあたしもそちらへ目を向けた。
 燕尾服姿のモン様が美しい立ち姿でバイオリンを弾いている。
 それを確認した瞬間、あたしと南海はハッと息を呑み、素早く視線を絡み合わせていた。
 南海の顔には緊張と驚喜が貼りついている。
 あたしもきっとそれに近い表情をしてるんだろう。

 モン様がバイオリンを奏でている。
 制服じゃなくて燕尾服を纏っているのは、演奏のための特別な装いに違いない。

 そして、ルイさんも燕尾服を着用している。

 ってコトは、考えられる出来事は一つ――

「「ルイさんがピアノを弾くっっっっっっ!!」」

 あたしと南海は異口同音に叫んでいた。



ホントに時期外れでスミマセン(;´▽`A``
 
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2011.01.23 / Top↑
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