ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 一瞬の沈黙――
 その後に女性陣の感激の叫びと男性陣の絶望の雄叫びのようなものが轟いた。

「――あッ……やべッ……」
 己の失態に気づいた山梨くんが小さな声をあげ、動きを止める。

『ルイさん、マジでナッシーとつき合ってるのねっ!?』
『ルイィィィッッッッ!』
『キャアァァッッ! オレのモノ宣言――男前だわ、山梨くん!』
『うわっ、出たよ、山梨ショック!』
『ちょっと、山梨のくせにホントに本気でルイさんと同棲してるワケッ!?』
『全部って、何だよッッ! 俺たちのルイなのにッッ!』
『フザけんなよ、山梨ッッ!!』
『ヤダッ、山梨くんとルイさん――熱愛すぎる! 萌えるわ!』
『ルイに触んな! ルイと同じ空気吸うなよ、バカ山梨ッッ!』
『山梨、ちょームカツクッ!!』


 一階フロアはあっという間に混然とした無数の声で埋め尽くされた。
 純粋な祝福や興味本位で事の成り行きを楽しんでいる声、嫉妬と憎悪に満ちた怒りや嘆きの声――
 山梨くんの大胆発言に触発されて、ルイさんファンの心にも歯止めが利かなくなったようだ。
 現実を容赦なく突きつけられて、胸の裡に秘めていたルイさんへの愛情が一気に溢れ出したのね、きっと。
 テレビや雑誌でしかお目にかかれないアイドルだったのに、山梨くんが実在の人物として目の前に現れて、ルイさんへの想いを激白した――ルイさんファンにとっては《山梨ショック》以上の衝撃だったのかもしれない。
 山梨くんとルイさんの熱愛報道は話題作りでもネタでもなく、紛れもない現実だということを見せつけられたんだから……やっぱりショックよね……。
 ルイさんファンの怒りに火が点くのも無理はない。
 山梨くんたら《WALTZ》に入る前に『オレのモノ』的な発言は止めろって言ったのに、そのものズバリ口外しちゃってるし……。
 ホントにバカじゃないの、山梨ィィィッッッッ!!
 て、店長が冷ややかな眼光をコッチに向けてるんですけどっっ!!
 ルイさんファンの悲嘆と憤怒も凄まじいけれど、店長の静かな怒りも迫力があって怖いんですけど!


「いつまでアホ面晒してんだよ、ちょーアイドル様。とっとと座れよ」
 ルイさんがいつもと変わらぬ口調で告げる。
 山梨くんに向けられたブルーの双眸には、驚くべきことに憤懣も不機嫌さも具現されてはいなかった。
 以前のルイさんなら間違いなく山梨くんを罵倒したり、更には暴言を吐いてるファンにもブチ切れていたばずなのに……。
 今のルイさんは比較的平常心を保っているように見える。
 そういえば、山梨くんが《WALTZ》に遊びに来ちゃったことに対しても、何のリアクションもしなかったわね。怒鳴ったり、けなしたり、からかったり――うん、そういうのが一切なかった気がするわ。
 もしかしたら、いつかこんな日が来ることを予想していたのかな、ルイさん?
 まあ、あれだけ写真週刊誌やネットで山梨くんとの熱愛について騒がれてたら、熱愛かどうかはともかく――避けては通れない問題よね。
 ルイさん本人の口からも事務所からも『山梨くんと交際している』という正式なコメントは出されていないけど、真偽はどうなのかファンとしてはとっても気になるだろうし……。
 まあ、山梨くんが《WALTZ》に現れた時点で暗に噂を認めているようなものだけれど――

「……ゴメン、ルイ」
 山梨くんが意気消沈した様子で謝罪の言葉を紡ぎ、ノロノロとイスに腰を落とす。
「――あ? 謝るくれーなら最初から来んじゃねーよッ」
 ルイさんの片眉が跳ね上がり、舌打ちが鳴らされる。
「どうせコレもどっかから洩れて記事になんだし――来ちまったんだから、兜塚さんのケーキをたらふく味わって帰りやがれ。じゃねーと、スッパ抜かれ損だろーがッ」
 山梨くんに対する罵詈雑言が耳に届いているだろうに、ルイさんは動揺した素振りもなく、いつもの荒っぽい語調で言い放つ。
 ビッショウ様もそうだけど――ルイさんって綺麗な外見とは裏腹に肝が据わってるし、何か突き抜けている感じがするわよね。
 小っちゃい頃からずっと傍にいると、自然と芯が似るのかな?
「まあ、これだけ人がいたら情報は洩れるだろうけど――ほっといていいのか?」
 六楼さんがざわめいている店内を見回し、最後に気遣わしげな視線をルイさんへ注ぐ。
「ほっとくしかねーだろッ。オレが今、何か発言しても火に油を注ぐだけだしな。――つーか、二階で挨拶しすぎて喉いてー」
 ルイさんが軽く顔をしかめ、片手で喉をさする。
 そうよね。『いらっしゃいませ』の挨拶とプレゼントを貰った時に『ありがとう』って返すだけでも、ルイさんの場合はかなり喉を酷使しそうだわ。手渡される《ブッシュ・ド・ノリマキ》の数だけでも凄かったもの。
「ちゃんと水分補給しとけよ、ルイ」
「イチイチうっせーなッ……! ガキじゃねーんだし、それくれェ解ってんだよッ」
 六楼さんのアドバイスを聞き、ルイさんがキュッと眉根を寄せる。
 口では悪態をついてるけど、コレはルイさんなりの照れ隠しなのよね。内心では六楼さんの心遣いを嬉しく感じているんだと思うわ。その証拠に、喉に当てられていた左手がスッと伸ばされ、テーブルに載せられているグラスを掴んだもの。
 ルイさんが何気なく手に取ったのは、山梨くんのグラスだった。
 ホントに微塵の違和感も躊躇もなく、山梨くんのカフェモカを選んで口に運んだのよ!
 ストローを口に咥える仕種があまりにも自然で『ああ、ホントにこの二人、一緒に住んでるのね』って、あたしは妙に納得してしまった。
 客席でお客様の飲み物を口にする行為自体はいただけないけど――ルイさんの行動がビックリするくらい無意識で無防備だったので、注意云々よりも何よりもカフェモカを啜るルイさんをマジマジと凝視しちゃったじゃない!
 斜向かいでは南海が『いやぁん、間接チュー!』とか頬を赤らめながらとっても嬉しそうにニヤけている……。
「甘ェ……」
 口の端に一瞬だけ苦笑を閃かせ、ルイさんがグラスを山梨くんの方へ差し出す。燕尾服の袖から覗く細い手首にはシルバーのブレスレットが輝いていた。
 山梨くんがルイさんからグラスを受け取った瞬間、二階から『キャアァァァァッッ!』という女性の悲鳴が降ってくる。
 反射的に階上を仰ぎ見ると、手摺りにビッシリと女子たちが群がり、興奮した眼差しでこっちを見下ろしていた。
 気づけば、二階から一階へと続く螺旋階段はチェーンとスタッフによって厳重に封鎖されている。
 ……凄いわね。ホントに芸能人のイベントみたい!
 ――あっ、ホンモノのスーパーアイドル様があたしの隣にいるんだったわ!
 そっか、山梨くんがいるからルイさんフィーバーもいつもより加熱してるのね!
 さっき悲鳴をあげたのは、ルイさんファンの中でも南海と志を同じくする『山ルイ』推進派なんだろう。
 山ルイ――って、単語を発するだけでもあたしは凄く恥ずかしいのに、よくみんな山梨くんとルイさんの恋愛をリアルに妄想できるわよね?
 ……ん? 妄想だから決してリアルじゃないんだけど…………アレ、でも、二人は半同棲してるからリアルはリアルなのかしら? 何だか、ややこしいわね……。
 とにかく、山梨くんとルイさんがイケナイ関係であってほしいと切望する腐女子の方々がたくさんいるのよ!
 グラスの受け渡しだけで、あんなに感極まった悲鳴をあげられるなんて素晴らしいわ。
 ってか、アレはきっと山梨くんの左手首にもルイさんと同じブレスレットがつけられていて、更に薬指に銀細工のリングが填められていたのを目視できたからに違いないわね!
 山梨くんはドラマやCMなどの特別な規制がない限り、左手の薬指に凝った意匠のシルバーリングを飾っている。この指輪がルイさんとお揃いなのよ。ルイさんは指にはしていないけれど、チェーンに通して首からぶら下げている姿をごく稀に雑誌で見かける。
 シルバーのブレスレットは――今日初めて目にするけれど、これも見紛うことなくペアよね、ペアッ!!
 何なの、この美形男子二人組?
 ルイさんの強気な態度は変わらないし、ルイさんが山梨くんのコトをどう捉えているのかは相変わらず不明だけれど――傍から見たら、もう相思相愛にしか見えないんですけどっ!
 散々ゴシップ誌面を賑わせているし、そろそろ熱愛を認めてもいいんじゃない?
 いや、山梨くんは女性に人気のあるアイドルだし、最大の難関は同性同士だってコトよね。お互いの事務所的にも『結婚を前提に真剣におつき合いさせていただいてます』なんて公式コメント出せるワケないか……。
 ああ、でも、何かホントにもうカップルでイイんじゃない!
 双方のファンは複雑な心境かもしれないけど――だって、ペアリングにペアブレスまで恐れもせずに堂々とつけちゃうような二人よ!
 どんなに美形だろうと、ラブラブバカップル以外の何ものでもないじゃない!
 けど――ちょっぴり羨ましいな。
 お揃いのアクセサリーなんて、二人で秘密を共有しているみたいだし、二人だけの絆がしっかり存在している感じがするわ。
 よく考えてみたら、あたしと六楼さんなんてお揃いのストラップすらつけてないのに……。
 いいなぁ、ペアリングにペアブレス。
 ソレを眺めているだけで六楼さんのことを思い描ける何かをあたしも身に付けたいな。そうしたら『紅蓮の鏡月』の執筆で六楼さんがどんなに多忙でも、寂寥感や不安やモヤモヤが多少なりとも軽減されそうだし……。
 まあ、そんな言い訳とか抜きにして――
 単純に大好きな六楼さんとお揃いのモノがほしいのよッッッッ!!
 いいな、いいな、ルイさん! 山梨くんは暴走しがちな人だけど、愛情表現は惜しまずにバンバンするストレートなタイプだから、その点は心底羨ましいわ!
 そうよ、あたしだって恋する乙女なのよ! 花の女子高生なのよっ!
 六楼さんと二人だけの『特別』が欲しいに決まってるじゃない!
 あたしは胸中で本音を叫びながら、ルイさんの手首で輝くブレスをじっと見つめてしまった。
 あたしの羨望の眼差しがブレスに届いたのとほぼ同時に、別方向から酷似した視線を感じてハッとする。
 思わず視線の送り主を探すと――それは六楼さんだった。
 あたしの視線を察した六楼さんが驚いたように目を見開き、次いで決まり悪げに微笑む。
 ――アレ? もしかして、六楼さんもあたしと同じコトを考えたのかな!?
 だとしたら、とっても嬉しいな!
 クールで大人な雰囲気を纏っている六楼さんだから、ペアモノはNGだとばかり思い込んでたけれど、意外と好きなのかもしれないわ!
 今のはにかんだ反応を見ると、六楼さんもルイさんたちのペアブレスに何かしら触発されたに違いないわ!
 六楼さんを見つめるあたしの頬と口元は自然と緩んだ。
 何だかあたし――俄然勇気が湧いてきたわ!
 決めた! 
 六楼さんとお揃いのモノを身に付ける――今年のラスト目標はコレに決定!
 クリスマス本番までにはまだ時間があるし、ペアグッズをプレゼントにプラスしよう!
 うん、まずはケータイストラップからチャレンジしてみるわ!
 あたしはささやかな夢と闘志を胸に秘め、改めて六楼さんに微笑みを返した。


だ、誰よりも私が忘れがちですけど……主役は山梨ではなく沙羅です(((゜д゜;)))
 
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2011.02.06 / Top↑
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