ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「えーっと、ルイさん、あたしも《ブッシュ・ド・ノリマキ》で申し訳ないんですけど――クリスマスプレゼントです!」
 どう考えても次はあしたの番なので、あたしは両手にプレゼントボックスを掲げ、大将特製の《ブッシュ・ド・ノリマキ》を恭しくルイさんへと差し出した。
「スゲッ……ちょー嬉しーんだけど、オレ!」
 ルイさんがブルーの瞳をパッと輝かせ、プレゼントボックスを喜々として受け取る。
 おおっ、予想以上の反応だわ!
 ルイさんの心をガッツリ鷲掴みにしてるのね、ウチの太巻き!
「う、嘘だろ……」
 ルイさんの好感触ぶりとは正反対に、あたしの隣では山梨くんが先ほどよりも更に深くガクッと項垂れた。
「オレ、ルイに『嬉しい』なんて言われたコト一度もなんいだけど……! え、何……? 太巻きとオレの間にどんだけ激しい格差があるんだよ? つーか、笑顔で感謝されたコトもないじゃん、オレ……。太巻き、ちょー羨ましいんだけど。何だよ、太巻き――いつの間にか、ルイにとっての神みたいな扱いになってんじゃん。ああ、きっと……オレが世間知らずのアイドルやってる隙に、世界は『フトマキサイコー!』主義者たちによって征服されたんだな……。くそっ、シャリ山のテッカ仙人とかムラサキ滝のカッパ老師とかガリ島のギョク王子の元で修行したら、いずれフトマキ神に逢わせてもらえて『マキスダレミダレマキ』的な奥義を会得できんのかな? オレも立派な太巻きになれんのかな……? オレ、今……アイドルじゃなくて、太巻きに……なりたい……な――」
 山梨くんの無駄にセクシーな声が、情けない言葉を紡ぐ。
 ……もう途中から怨念の籠もった呪詛というか、別世界にトリップしちゃったみたいだけど――だ、大丈夫かしら、山梨くんッ?
 フトマキサイコー主義者なんて、遭遇したコトないわよっ!
 ねえ、テッカ仙人とかカッパ老師は何かいそうだけど――ギョク王子って何よっ!?
 ソレ、『玉子王子』ってコト!?
 えっ、ビミョーに漢字の見た目を重視したのっ!?
 ――ってか、二十二歳の若さでプチリタイアして、太巻きに転身するトップアイドルなんて、誰がどう考えてもおかいしでしょ! 大人しくアイドルやってなさいよっ!!
 色々と物っ凄くツッコミたいのに、当の本人が深刻なダメージを受けているようなので、あたしはグッと奥歯を噛み締めて言葉を喉の奥に封じ込めた。
 ルイさんが太巻きに対して喜びや嬉しさを露わにしたことが、よっぽどショックだったのね。
 今更のような気もするけど、すっかり打ちひしがれてるわ……。
 そして、そんな山梨くんのコトを気に懸けている様子もなく、ルイさんは期待に満ちた眩い表情でプレゼントボックスを眺めていた。
「沙羅ちゃんが持って来たってコトは――大将がかなり創意工夫を凝らして色んなネタを仕込んでるってコトだろ? ソレ考えるだけでゾクゾクするぜッ」
 ルイさんはウチの大将の大ファンだ。
 正しく表現すると、大将が生み出す太巻きをこよなく愛してる――ってコトになるけど。
 山梨くんと半同棲生活に突入してからも、月に二度は《蝦夷舞鮨》に太巻きを食べに来てくれる。おまけに食べる量が半端ないので、店にとっても有り難い上客様だ。
「あっ、ルイさん、ソレ――かなりロングなので、出来れば真ん中で一度切ってほしいんですけど!」
 あたしは『真ん中あたりに山梨サンタを仕掛けた』と大将が言っていたのを思い出し、慌ててルイさんにお願いした。
 何となく『山梨サンタ』という言葉を口にするのは躊躇われるけど、渾身の作品を一目見てもらわなきゃ大将が可哀想だわ!
「――あん? どんな強敵でも丸かぶりする自信あるし、大丈夫だぜ」
 ルイさんが自信満々に断言する。
 いや……確かにルイさんなら意地でも全部一気喰い出来ちゃいそうだけど――それじゃあ意味がないのよっ! 
 大将の力作『山梨サンタ』が重要なんだからっ!!
「で、でも、大将がルイさんのためにスペシャルな仕込みをしてるので、どうしても見てほしいんですっ!!」
「へえ、大将がオレのためにねェ……。大将の心意気を無碍にするワケにはいかねーしな。――りょーかい。半分ずつ喰うことにする」
 あたしが切々と訴えると、ルイさんは意外にもアッサリと頷いた。
 怒りの沸点の低いルイさんだけど、ホントに太巻きに関してだけは寛容よね……。
 もしもルイさんの裡に『好きなものランキング』があるのならば、太巻きはまず間違いなくトップ3入りを果てしてるわよね!
 山梨くんは…………13位くらいかな? 
 うん、ルイさんの太巻きに対する執着から推察すると、山梨くんへの関心度は……きっとそれくらいが妥当よね。
「沙羅ちゃんのは隙みて裏で喰うから別にしといて、後は家行き――ッてコトでヨロシク」
 ルイさんがあたしのプレゼントをマネージャーさんに預けながら簡素な指示を出す。
 マネージャーさんは従順に首肯すると、テキパキとした動作でカートを操り店の奥へと進んでいった。


「プレゼント、実家に運んでるのか?」
 マネージャーさんの姿を横目で追っていた六楼さんがルイさんに視線を戻し、不思議そうに訊ねる。
「仕方ねェだろッ。《ブッシュ・ド・ノリマキ》なんて八割方海鮮入ってんだから足がはえーし、流石のオレでもあんなスゲー数の太巻き、全部は喰い切れねェよ。零治にタクシーで二往復させてんのに、まだ運び終わらないんだぜ」
 ルイさんが小さな溜息を洩らす。クリスマスプレゼントに山ほど太巻きを貰うとは想像だにしていなかったのだろう。
 いくら太巻きを愛するルイさんでも一人で完食するのは到底無理だろうなぁ。
 まだ全ての席を廻ったワケじゃないし、《ブッシュ・ド・ノリマキ》プレゼントはどんどん増えるに違いないわ。
 ――あっ、忘れてるかもしれないから改めて説明しておくけど、『零治』というのはルイさんのすぐ下の弟くんのコトです。金髪の派手な高校生で、ルイさんの弟だから当然それなりに顔は整っている。なので、あたしたちの学校でも密かに人気があるのよね。
「ああ、だからさっき裏に零治くんがいたのか!」
「そっ。貰ったモンを喰わねェで腐らせるなんて――太巻きに対する侮辱以外の何モンでもねェ! 明日は土曜だし、ココ終わったら有馬家と合同で深夜の《ブッシュ・ド・ノリマキ》パーティーを急遽開催することになったんだよ」
 ルイさんが太巻きに対する熱い想いと共に今夜のスケジュールを語る。
 確かに明日は土曜日だから世間一般的には学校や会社はお休みよね。でも、《WALTZ》の閉店は午前零時で、それから帰宅したら――完全に一時前後よね……。
 そんな時間から《ブッシュ・ド・ノリマキ》をメインにしたパーティーを始めるなんて、ちょっと感覚がズレてるわね、曽父江家の人も有馬家の人も……。うん、セレブの生態系は謎だわ。
「アラ、初耳だけど――楽しそうね。フフフッ」
 ビッショウ様がスケッチの手を止めずにチラッとルイさん見上げ、彼女独特の意味深な笑い声を立てる。早くも脳内で曽父江兄弟にどんな悪戯を仕掛けようかアレコレと画策し始めているのね……。
「――えっ!? ルイ、今夜、コッチに帰って来ないのかよっ!?」
 つい数秒前まで生ける屍の如き有り様だった山梨くんが、物凄い勢いでバッと顔を上げる。
 ルイさんに向けられた瞳の中では、驚愕と焦燥と不安が揺らめいていた。


……山梨迷走中llllll(-ω-;)llllll
 
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2011.02.12 / Top↑
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