ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 山梨くんがまたしてもうっかり大声を発したものだから、店内では悲鳴やら怒声やら啜り泣きやら――色んな感情が再度爆発した。
 ……凄いわね。モン様のバイオリンの音色が殆ど聞こえないんですけど――と思ったら、とうとう弾くのを断念して手を止めちゃったわ、モン様。可哀想に……。
 中二階からモン様が半ば呆れ半ば感心したような複雑な表情で店内を見回している。
 それほどまでに、ルイさんファンの気持ちは昂ぶっているのよ。
 けれど、山梨くんはギャラリーの声など全く耳に届いていない様子で、じっとルイさんだけを見つめている。
「オレが喰わねェで誰が喰うんだよ? 大将の粋な心を完食するためのパーティーだからな!」
 ルイさんがよく解らない理由を披露し、得意満面に山梨くんを見下ろす。
 何の逡巡もなく即答したルイさんを見て、山梨くんが『信じられない』と言わんばかりに目を瞠る。
「……マジかよ」
 数秒ルイさんを凝視した後、山梨くんはガクッと肩を落とし、盛大な溜息をついた。
「――あ? 何だよ? 不都合でもあんのかよ?」
 山梨くんを見つめるルイさんの双眸が細められ、形の良い眉が微かにひそめられる。
「いや、別に不都合じゃないけど――オレ、今夜を逃したらもう年明け四日まで全く休みないし……。ちょっとでも多くルイと一緒にいたいな、って……」
 山梨くんが面を上げ、切実な眼差しをルイさんに注ぐ。声のトーンは抑え気味だけれど、言葉にはルイさんに対する真摯な想いが織り込まれていた。
 山梨くんの表情が切なくて、思わずあたしまで胸にチクッとした小さな痛みを感じちゃったじゃない!
 好きな人に逢いたいし、触れたいのに――擦れ違いが多くて、どうしても叶わない、そのジレンマ!
 イケメン山梨くんが真顔で、しかも彼の魅力であるセクシーボイスでそんな台詞を切々と囁かれたら、どんな女子だって――もしかしたら男子だって、鼓動が速くなるわよ! 頭に血が上るわよっ!
 うん、きっとルイさん以外の人は、ね……。
 山梨くんのスケジュールがギッシリ詰まってる事実にもビックリだけど、あまりにも山梨くんがルイさんに対して真率なので、黙って事の成り行きを見守るコトにした。南海とビッショウ様も珍しく茶化したりせずに、ルイさんの次の言動に注目している。

「てめー、ココまでどーやって来たんだよ?」
 顔をしかめたままルイさんが山梨くんに訊ねる。自由奔放で超マイペースなルイさんでも少しはギャラリーの目と耳が気になるのか、こちらも常より静かな声音だった。
「は? 何? 自分の車――だけど?」
 ルイさんの質問がこれまでの流れとどう絡むのか理解出来ないらしく、山梨くんが目をしばたたかせる。
「何処に駐めてんだよ?」
「えーっと……《蝦夷舞鮨》の近くの立体駐車場に入れた」
「じゃ、仕事終わったら、何とかバレねェよーにソコまで行くから――拾えよ」
「え? や、いいけど……何で? 実家、帰るんだろ?」
 相変わらずルイさんの真意を掴めない山梨くんが、怪訝そうに首を傾げる。
 転瞬、ルイさんの秀麗な眉が跳ね上がり、頬が怒りに引きつった。
「家まで送れ――っつってんだよッ! ついでにてめーも寄ってけばイイだろーがッ!」
 大声で怒鳴りたいのに周囲を気にして我慢しているのか、ルイさんは押し殺した声音で言葉を吐き出し、山梨くんを睨めつけた。
「い、いいのかよッ!? そのメチャクチャ身内だらけッポイ太巻きパーティーに、オレも参加させてもらえんの? スッゲーミラクル!」
 ようやくルイさんの意図を察したらしく、現金にも山梨くんの表情はパッと明るくなった。ルイさんを見つめる瞳の輝きが、驚くくらいに『ザ・アイドル』だわ……。
「時間あんなら来いよ。太巻きは山ほどあるし、どうせ咲耶んちのだだっ広い離れかなんかでやんだし、一人くれェ増えても誰も文句言わねーだろ」
「うおっ、ちょー嬉しい、オレ!」
「――ん? ……あー、うっせーのが二人くれェいるかもしんねーけど…………………………まっ、いっか。気にすんな。慣れろ――つーか、耐えろ」
「ん? ソレ、どーゆー意味だよ? え、何、オレ――まさか『ルイさんをお嫁に下さい』的な挨拶する心の準備とかしといた方がいいのかなッ!?」
 すっかり舞い上がった山梨くんが、緊張した面持ちで突飛な発言をする。今にも心臓がドクドク鳴り響いている音がこっちにも聞こえてきそうだけど――ルイさんの言葉の奇妙な間とか全く気に留めてないわね、山梨くん……。
「そんな準備、死んでもすんじゃねーよ、山梨ッ! てめー、ソレ、アホみたいに実行しやがったら蹴り出すからなッ!」
 ルイさんがこめかみと口元まで引きつらせて、山梨くんの妄想を完全否定する。
 ……そ、そうよね。もしかしたらルイさんの両親とかいるかもしれないけど、流石に初対面でソレは有り得ないわよね。ううん、面識があってもダメよ! 山梨くんとルイさんはとっても華のある二人組だけど、同性同士なのよ! 迂闊に唇には載せられない話題だわ。

「フフフッ。ルイルイに蹴り出される前に、蘭ちゃんに殴り殺されるわね、山梨くん」
 ビッショウ様がスケッチの手を止めて、キラリと眼鏡のレンズを輝かせる。
「今のルイルイの口振りから察するに――蘭ちゃんとリッキーも参加するんでしょ?」
「あー、オレが家に帰んの零治から聞いたらしくてよ、アイツら二人揃って『仕事切り上げてダッシュで帰る』とか言いやがったらしいぜ。ちょーうぜェ。永遠に仕事だけしてればいいのにな」
 さも嫌々といった感じで説明し、ルイさんはチッと舌打ちを鳴らした。
 ビッショウ様の言う『蘭ちゃんとリッキー』はルイさんのお兄さんたちで、一番上の蘭伽さんと二番目の璃稀さんのコトよ。忘れてる人もいると思うから補足しておくわね。
「えっ、殴り殺される――って、何ッ!? ランちゃんって、何者だよ!? ルイの元カノとか元カレとか!?」
 山梨くんが慌てて疑問を繰り出す。どうやら璃稀さんのコトは知っているけど、一番上のお兄さんに関しては名前までは知らないみたいね……。
「曽父江蘭伽さん。ルイの一番上のお兄さんですよ、山梨さん」
 六楼さんが気の毒そうに山梨くんを見遣る。
「で、弟に対しては恐ろしく過保護で激甘な、ちょっと変わった人――かな? 俺が言うのもなんだけど……まあ、ぶっちゃけビックリするくらい『弟溺愛』の超ブラコン――――」
 苦り切った顔で喋っていた六楼さんだけど、ルイさんがもう一度忌々しげに舌打ちを鳴らしたところでハッと口を噤んだ。
 ルイさんが他の兄弟に比べて蘭伽さんの話をあまりしないのは、その溺愛振りが他人には言えないほど恥ずかしいからなのね、きっと……。ビッショウ様以外にも一応弱点みたいなモノがあるのね、ルイさん。ちょっとホッとするのは何故だろう……?
「そ、そっか、ちょーブラコンなのかっ……! え、もうオレ、殴られるの確定? いや、オレとルイが愛し合ってるのは事実だし――ココは漢らしく殴られよう!」
 山梨くんが決意も漲らせて、ギュッと拳を握り締める。
 さり気なく『愛し合ってる』とか恥ずかしげもなく織り込んじゃうところが、山梨くんらしいわよね。
 ――っていうか、殴られるのは何が何でも阻止しなさいよね、アイドルなんだからっ! ホンット、ルイさんが絡むと『アイドル山梨和久』を置き去りにしがちよね……。困ったアイドルだわ。ファンが泣くわよ!
「事実じゃねーし、愛し合ってねーよッ!」
 すかさずルイさんが怒り顔で否定する。
 ああ……端整な顔の人って感情剥き出しにしても――やっぱり綺麗なのね。
 ――ハッ! あたしの感想は今はどうでもいいのよ!
 ルイさんはルイさんで山梨くんが絡むと、ホントに容赦なく突き放したり、一刀両断に斬り捨てちゃうのよね……。もし、これがルイさんなりの照れ隠しだったとしたら、相当な意地っ張りよね。まあ、山梨くんはそんなトコにも激しく萌えるのかもしれないけれど。
「ち、違うのかよッッ!?」
 ショックを隠しきれない顔で山梨くんがルイさんを振り仰ぐ。
 ルイさんは物凄く億劫そうに山梨くんを見返し、
「――あん? ちげーだろ。事実じゃねーだろッ。フザけんなよッ。てめーがオレに首っ丈なだけだろーがッ、アホ山梨! ……まっ、てめーの料理とカラダはキライじゃねーけどな」
 最後の台詞を意味深に告げると、ルイさんは形の良い唇に綺麗な弧を描かせて笑った。
「ルイ――やっぱオレ、ルイのコト、スゲー好き」
 何に感動したのかちっとも解らないけれど、山梨くんが嬉しそうに笑顔を返す。
 ――え、ルイさんの言葉の何処に感激したのよ?
 料理と肉体美を褒められただけで、山梨くんの漢気とか情熱的な愛情とか実直な行動とか――本質は何にも賛辞されてないわよ! 
 ……Mなの?
 テレビやステージや雑誌では『超オレ様』的な挑戦的で挑発的な雰囲気を醸し出してるのに、ルイさんに対してだけは精神的Mなの、山梨ィィッッ!?
 ルイさんもそのチョイスは一体何なのっ!?
 そんな綺麗な顔で『カラダ』とかサラッと言って、妖しく微笑まないで下さいよ! 
 南海の破廉恥妄想が無駄に膨らむだけだし、ルイさんはどんなに雑な喋り方をしていても、《WALTZ》の王子様なんですからねっ!
 ――っと、アレ? でも、今のやり取りも二人の親密さがさり気なくアピールされてた気がするわね? 
 当人たちにはそんな意識はないみたいだけど、やっぱり傍から見たらラブイチャバカップルとしか認識できないわよっっ!!



 
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2011.02.15 / Top↑
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