ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 あたしが心の中でレージを罵っていると、ビッショウ様はさっさとケータイを仕舞い、再びスケッチに取りかかり始めた。
 レージが悪いワケじゃない。
 悪いワケじゃないけど、ちょっと不甲斐なさを感じたり、イライラするのは何故かしら?
 ルイさんやビッショウ様を取り囲む人間関係に、誰か――せめてあたしと同じくらいモラルがある人はいないのっ!?
 ――ハッ! 有馬弟がいるじゃない!
 ビッショウ様の実弟なのに、物凄く誠実で清廉潔白な雰囲気を醸し出している好青年が! 何で、今夜に限ってレージと一緒にいないのよっ!? 
 あっ……そっか、有馬家の方でパーティーの準備してるのか……。
 それによく考えたら有馬弟も『紅蓮の鏡月』の愛読者だったわ!
 その清らかな心の奥底に潜むモノはビッショウ様と同じかもしれないから――用心しなきゃね!
 爽やかな外見に騙されちゃダメよ、沙羅!
 それにしても、有馬弟が傍についていないと頼りないわね、レージ……! どーして真正直にビッショウ様の言うことをきいちゃうのよっ!?
 いえ、きっとビッショウ様には逆らえない深い理由があるのね。つくづく不憫だわ、曽父江家の兄弟たちって……。
「ピッタリフィットの革パン――別に履いてもいーけどさ、冬なんだし、コートをチェンジすればイイコトじゃねー?」
 山梨くんが素朴な疑問をポロリと零す。
 さっきまで超乗り気だったくせに、今頃になって至極真っ当な意見を出してきたわね、山梨くん……。でも、もう遅いわよ。ルイさんもビッショウ様も南海も――立てた計画は変更したくないタイプの人種なんだから。
「もう決まったコトだし、過ぎたコトは気にすんじゃねーよッ。――ってか、オレ、マジで仕事戻るからな」
 案の上、ルイさんにぞんざいにあしらわれる。
 ルイさんは山梨くんに冷ややかな眼差しを注ぐと、クルリと踵を返した。

「あっ、ルイ――」
 一歩足を踏み出したルイさんを山梨くんが性急に呼び止める。
「――あ?」
 ルイさんが反射的に立ち止まり、首だけをねじ曲げてコチラを振り返った。
 その瞬間、また二階のギャラリーから悲鳴混じりの叫びが降ってきたわよ。ちょっと二人が絡んだだけでも、こんなに喜ぶものなのね。凄いパワーだわ。
 ところで山梨くん、《ブッシュ・ド・ノリマキ》パーティーの話は纏まったのに、まだルイさんに用事があるの?
 いい加減、解放してあげないとルイさん親衛隊とルイさん本人がブチ切れるわよ。
「ルイさ……その――ルイがピアノを……」
 山梨くんが切なげにルイさんを見上げ、躊躇いがちに言葉を唇に乗せる。
「ピアノ? 何だよ? 時間ねーからハッキリ言いやがれ」
 ルイさんの柳眉がひそめられる。
「いや、ルイがピアノを弾かなくなったのは、やっぱり――ハジメテの恋人がどうしても忘れられないからなのか?」
 山梨くんがルイさんから瞳を逸らさずに、しっかりと質問を繰り出す。
 あたしたちのテーブルは一気に空気が凍りついたわよ!
 ちょっと山梨くん、直球勝負すぎるんじゃない?
 どうして自ら傷を抉るようなコトを訊くのよっ!?
 その話題、まだ心に蟠っていたのっ!?
「――あぁあッ!? 何、意味解んねーコト言ってんだ、てめーっ!」
 ルイさんが勢いよく身体ごとこちらへ向き直る。山梨くんを見返す顔には仄かな怒気が宿っていた。
「えっ、だって――中三の時、ハジメテの相手と別れた直後から様子がおかしくなって、急にピアノにも触らなくなった、って……」
 山梨くんがしどろもどろに釈明し、ビッショウ様に視線を流す。
 ルイさんがコッチにも鋭い眼差しを向けてくるので、あたしと南海と六楼さんは揃って頷き、ビッショウ様に目線を集中させた。
「あー、さっきのはコレかよッ……! つーか、人の過去、勝手に捏造してんじゃねーよ、咲耶ッ!」
 素早く状況を把握したらしく、ルイさんが呆れ顔でビッショウ様を嗜める。
 あたしたちのテーブルにやって来た時、山梨くんを庇う素振りを見せたルイさんだけど――ココで繰り広げられていた話題が何かまではちゃんと理解していなかったようだ。よく考えたら、ホールの何処かで接客してたんだから、離れた席の会話まで掴むのは無理よね……。
「え? 捏造……? 嘘なのかよ!?」
 山梨くんが狐につままれたかのように目をしばたたかせ、ポカンと口を開ける。
「アラ? 記憶違いだったかしら? でも、あの頃、ハジメテの別れを経験したのは間違ってないわよね?」
 ビッショウ様が面を上げ、しれっとした調子で小首を傾げる。
「仮にどっかの誰かとヤらなくなったとしても、イチイチ覚えてねーし、そんな想い入れすらねーよッ! つーか、ピアノの件とは全く関係ねーだろーが、ソレッ!」
 ルイさんの艶やかな頬が忌まわしげに引きつる。
 さり気なく何かとんでもない発言をしたけど、ソレについてルイさんを追及する人はあたしを含めて誰もいなかった……。
 ルイさん……口さえ開かなければ、本当に最強の美形なのに、どうしてこんなにズケズケと自由奔放に破廉恥な台詞を口にできるのかしら? もったいない。
「アホ山梨に変なコト吹き込むなよ。何でもかんでも頭から信じ込むよーな、バカなんだからなッ! ガキの頃から特殊な環境でレッスンに明け暮れ、スポットライトに照らされたステージで腰降り続けてきてっから、ある意味――オレたちより世界がせめーんだよッ!」
 山梨くんをフォローしてるはずなのに全くケナしているようにしか聞こえない、素晴らしい台詞だわ、ルイさん。
 最後の部分なんて、ルイさんが口にするだけでいかがわしい何かしか想像できないんですけどっ! ……つくづく残念だわ。
 でも、山梨くんが意外に一途で純情な面を持ち合わせていたり、ルイさんに関するビッショウ様情報を鵜呑みにする傾向にあるのは確かね。
「じゃあ、どうして中三の頃、急にピアノに触らなくなったのよ?」
 ビッショウ様がもう一度首を捻る。ルイさんの怒りを受け止めている様子は微塵も感じられない。やっぱり最凶のツワモノ腐女子だわ!
「あぁあッ! てめーッ、すっかり忘れてんのかよ、咲耶ッ!?」
 ルイさんの眦がつり上がり、口元が微細に震えを帯びる。
「毎年恒例の正月旅行――中三の時、寝惚けた智に一本背負いされて畳に叩きつけられたんだよッ!」
「えっ、智ちゃん? あの子、そんな乱暴なコトするかしら?」
「よくしてんだろーがッ! あんの怒り女王めッ……! 眠ってやがるのに本気の背負い投げしやがって! ついでに、その後、やっぱり寝惚けたてめーにガッツリ蟹挟みも喰らってっけどなッッ!」
「――ア、アラ……そんな凄惨な正月旅行あったかしら? アレは我が有馬家と曽父江家が親睦を深めるために、今も続けられている穏やかで和やかな温泉旅行なのに――」
 ああ、物凄く珍しいわ。ルイさんがビッショウ様に対して半ば本気でクレームつけてる上に、あのビッショウ様がほんの少しだけ狼狽してるわ。
 旅行の内容はよく解らないけど、過去の記憶がまざまざと甦ってきたのね、二人とも。
「おかげでオレは、右肩関節脱臼、左手首骨折、肋骨にちょーヒビが入って、全治二ヶ月の重症を負ったんだっつーのッ! ピアノなんて弾けるワケねーだろーがッッ!!」
 ルイさんが一気に言葉を捲し立て、フンッと鼻を鳴らす。
 もう何度目か解らないけど――またしても、あたしたちのテーブルは奇妙な静寂に包まれた。
 中学三年生の時に、そんな痛々しい災難に見舞われたなんて……可哀想、ルイさん。
 負傷していたから大好きなピアノにも触れられなかったのね。
 事実は判明したけど、『智って誰ですか?』とか『女二人男一人で一つの部屋に寝てたんですか?』とか訊きたいけど――荒ぶってるルイさんには、とてもじゃないけれど質問を浴びせる勇気はないわ。
「お、思い出した……かも……! ルイルイのはだけ具合と朝の状態を観察しようと思って、智ちゃんと二人で添い寝しているうちにすっかり熟睡しちゃったのよね! 朝、温泉に救急車が来て、ルイルイが病院に搬送されたけど――アレ、私たちのせいだったのッ!?」
 本当に今の今まで気づいていなかったらしく、ビッショウ様がカッと目を見開き、大仰に息を呑む。
「マジで忘れてたのかよ?」
「うん。私も智ちゃんも超爆睡してたし――だって、ルイルイ、怪我した原因、誰に訊かれても絶対に言わなかったじゃない? だから、温泉場の痴情の縺れなのかと――」
「言えるワケねーだろッ! 幼なじみの女二人に技かけられて、容易く骨ボキボキ折れました――なんてよッ!」
 ルイさんの舌打ちが派手に鳴り響く。
 ル、ルイさん、カラダ細いからね……。中三だったらまだ成長途中だし、今よりももっと少年体型で極細だったんだろうな。そりゃあ、骨も容易に折れるわ……。
 その時、身体だけじゃなくて精神的にもかなりの苦痛を味わったのかも。多感な思春期に酷い地獄を見ちゃったから、女嫌い――というか『オンナ、ちょーうぜェ。別にオトコでもいんじゃねー』とかテキトーな考えに傾く結果になった……とか?
 だとしたら、今のルイさんが形成された責任の半分は――やっぱりビッショウ様にあるのね……。
「うん。……ごめんね、ルイルイ」
 ビッショウ様が簡素な言葉ながらも誠実に言葉を紡ぐ。
 うわーっ、超貴重なシーンに立ち会ってるのかも、あたしたちっ!
 ビッショウ様が素直に謝罪しているわ! 
 そして、何だかルイさんとビッショウ様って――こうして見ると美男美女同士で絵になるし、一種独特の緊密感を感じるわ!
 ああ、山梨くんが現れなかったら、お似合いのカップルになってたのかもしれないわね。
「遅せーんだよッ。つーか、オレもまさか今ココで真相明かすコトになろーとは思ってもみなかったけどなー。とりあえず、節分に大将がニューバージョンの《スペシャルラヴ恵方巻》を出すはずだから、ソレ十人前で水に流してやる。あっ、智にはひな祭りの《花祭り巻き》十人前――いや、アイツには二十人前って伝えておけよな」
 ルイさんが溜息を零しながら軽くビッショウ様の頭を撫でる。
 ルイさんの声音には、さっきまでの猛烈な怒りは含まれていなかった。長年言えなかった真実をブチまけてスッキリしたのかもしれないし、元々この件に関してはビッショウ様や智ちゃんなる人に対して恨みも憤怒も抱いていなかったのかもしれない。
 ルイさんの性格からして後者かな?
 多分――あたしの勝手な想像だけど、ずっと胸に封じておくはずだった秘密を吐露せざるを得なかった自分自身に対して腹が立ったんじゃないかしら、ルイさん。
 アレ? でも、それって……真相を打ち明けてでも、さっさと山梨くんの誤解を解いておきたかった――ってコトになるのかな!?
 うわぁ、信じられない出来事だわ!
 今まであまり他人に興味を示さず飄々と我が道を突き進んできたルイさんが、山梨くんにだけはペースを乱される――なんて、目覚ましい進歩よ! あっ……でも、ルイさん本人は無自覚の可能性が大だけどね。
 けど――たとえ無自覚あろうと、山梨くんが考える以上にルイさんは山梨くんのコトを大切に想っているのかもしれないわよ!
 凄いじゃない、山梨くん!
 好きなものランキング――13位から11位くらいにレベルアップしたかもね!



 
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2011.02.21 / Top↑
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