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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 瞬時にしてザワザワと客席がさざめく。
 あたしたちも一斉に物音のした方へ首を巡らせていた。
 中二階へと続く階段付近に立ち上がっている集団が見える。
 い、勢いよく立ち上がったりしたから、イスが倒れたのかな……?
 あそこは……確か、ルイさん親衛隊の方々の席が密集していたような気が……。
 ああ、ソレだけで嫌な予感――
「さっきから何だよ、おまえらっ!? 親衛隊くのくせに――ルイがあんなヘタレアイドルに盗られてもイイのかよッ!? オレたちのルイなんだぞっ!」
「俺らは絶対認めないぞ! ルイが山梨だけのモノになるなんて耐えられねー!!」
「あんな熱愛報道――CG合成した捏造写真を使ってるに決まってるだろっ!」
 激昂した男たちの声が聞こえてくる。
 うわっ……! うわぁ……発言が何だかとっても恥ずかしいけれど、彼らの怒りはしっかりと伝わってくるわ。
 ――ってか、やっぱりルイさん絡みなのね……。
 親衛隊のルイさんに対する愛情は、相変わらず凄まじいわ。
 さり気なく山梨くんのコトを『ヘタレアイドル』とか言っちゃってるけど――随分と強気に出たわね、親衛隊のメンズ!
 ルイさんと山梨くんが言葉を交わす様子を遠目に眺めているうちに、とうとう嫉妬と憤怒が抑えきれなくなったのかしら……。
「オレたちの――だからよッ! あたしたち、ルイさん親衛隊でしょ!?」
「そうよ、そうよっ! 何があろうと、愛するルイさんを応援するのが、我ら親衛隊の使命じゃないのッ!?」
 男の正面に位置するテーブルでは、女性陣が立ち上がっている。
 うわぁぁぁぁっっっっ! よく解らない急展開だけど、親衛隊の内部分裂なの!?
 ルイさんヲタ男子と腐女子系女性陣の対立が勃発したッポイわね……!
 写真週刊誌で取り上げられた熱愛報道関連の記事についてアレコレ考察している裡に、どんどん白熱して、遂には口論に発展した――ってトコロかしら?
 ルイさん親衛隊、恐るべし。
 チラとルイさんの様子を窺うと、秀麗な顔は……完璧な無表情だった。
 こっちはコッチで怖いんですけど!
 超絶美形が表情を無くすと、何処か非人間めいていて妙な迫力が増すのね!
 山梨くんは心配そうにルイさんを見上げ、六楼さんは困惑したようにフロアとルイさんを見比べ、ビッショウ様と南海は興味津々の体で親衛隊を見つめていた。

「オレたち、ルイが《WALTZ》デビューした時からずっと見守ってんのに、急に出てきた山梨なんかにすんなり渡せるかよっ!」
「超プリティなアイドルッ娘ならまだ許せるけど、選りに選って、どーして顔だけの男アイドルなんだよッ! 許せるワケないだろッ!!」
「フザけんなよ、山梨ッッ!!」
「渡す渡さないとか許す許さないとか――あんたたちが決めることじゃないでしょ!」
「ルイさんが誰と恋愛しようとルイさんの自由だし、相手が同性だからって私たちに邪魔する権利はないわよ!!」
「あたしたちにしてみれば、ブリッコ女アイドルにルイさんを籠絡されるより、超山梨様とスキャンダラスな関係になってくれた方がよっぽどマシよ!」
「山梨くんがカッコイイからって僻まないでよね!」
「男のジェラシー、ちょーカッコ悪い! つーか、ダサッ!」
 女性陣の容赦ない言葉が男性陣に浴びせられる。
 外野で聞いている限り、女性陣の方が正論っぽく聞こえるわね。いや、まあ、どっちも言いたい放題なのは変わりないんだけど……。
 女性親衛隊は山梨くん寄り――というか山ルイ肯定派なのね。男の子より女の子の方が、何事にも順応出来る柔軟な脳を持っているのかもしれないわね。
「うるさい! 黙れよ、腐女子どもっ!!」
「僕たちは純粋に――心からルイの身を案じてるんだぞ!」
「そんな心配、ルイさんにとっては無用のモノよッ!」
「山梨くんが嫌がるルイさんにストーカー的な行為をしてるならともかく――ルイさんが山梨くんのコトを好きならソレでもうイイじゃない!」
「ルイが山梨のコト好きだなんて、ありえねー!!」
「絶対にないと思うけど、ルイが山梨のコト気に入ってんなら認めてやってもイイけどな!」
「何様よ、あんたたちっ! 同じ親衛隊として恥ずかしいわ!」
「じゃあ、ルイさんと山梨くんが両想いだったら、潔く認めるのね! 全力で山ルイを応援するのねッ!?」
「ああ、ルイがはっきり結論出すなら、ネットでやってる山梨叩きとか即刻止めてやるよ!」
「うわっ、サイテーッ! そんなコトやってんのッ!? マジで男子サイアクッ!」
 舌戦は徐々に激しさを増してゆく。
 論点はどんどんズレてゆく上に、男子たちなんてもう山梨くんに対する誹謗中傷ばかりよ……。
 正直――引くわ。
 人気アイドルだから賛否両論色んな意見がたくさんあるだろうけど、『ネットで山梨叩き実行してる』とか恥ずかしげもなく言えちゃう男子ヲタが痛すぎる。
 周りにいる《WALTZ》ファンやルイさんフリークの方々も、すっかり苦り切った顔をしてるじゃない!
 そうよね、久し振りに《WALTZ》で働くルイさんの姿を一目観たくて、《WALTZ》を訪れた人たちばかりなのに――水をさされてウキウキドキドキ感は半減だし、不愉快よね。
 みんなはルイさんの元気な姿が観たいんだし、主役であるルイさんの気分を損ねるような騒ぎを起こされちゃ面白くも楽しくもないだろう。
 それに、山梨バッシングなんてしてもルイさんは微塵も喜ばないし――申し訳ないけど、あたしの知る限りルイさんは結構山梨くんのコトを好きだと思うわよ。
 うん、惚れてるとかではないかもしれないけど、何かしらの心地好い感情は抱いてるはずだ!


「……ちょーうぜェ」
 ボソッとルイさんの唇から小さな溜息が零れる。
「面倒くせーな、オイッ……」
 ルイさんは相変わらずの無表情まま片手で髪を掻き上げると、クリルと踵を返した。
 ――えっ、ちょっと、ルイさん! まさか自ら騒動の渦に飛び込む気なの!?
 あたしはギョッと目を剥き、ルイさんの綺麗な後ろ姿を凝視してしまった。
 ルイさんが親衛隊の間に割って入ったら、ますます話がややこしくなって、対立が激化するような気もしないでもないんですけど!
 大体、ルイさんの強気で依怙地な性格からして、山梨くんのコト『好き』だなんて口が裂けても言わないはずよ!
 なのに、どうやって親衛隊メンズを説き伏せる気なの!?
「ルイ――」
 カウンターの中から店長がルイさんを呼び止める。その声音には諫めるような響きが宿っていた。
「あー、わりーテンチョ。オレ、今夜のギャラ要らねー」
 ルイさんが足を止めることなく横目で店長を見遣る。
「――好きにしろ」
 店長が口の端に微苦笑を刻み、簡素に返事する。
 意外とアッサリ許したわね、店長。六楼さんだけじゃなくて、やっぱり店長もルイさんには甘いのよね。
 カウンターの脇を通過したルイさんは、親衛隊の席とは別方向へ足を進めていた。
 その先には、艶やかな輝きを放つ高級グランドピアノの姿がある――

「ルイと山梨が両想いだなんて――百年先もないだろッ!」
「今までルイは特定の恋人を作ったコトなんてないんだぞ!!」
「誰にも好意を表してこなかったルイが、山梨だけ特別――なんて絶対ないッッ!!」
「ルイは、永遠にオレたちのルイだッッッッ!!」

 親衛隊たちの悲痛な叫びが交錯する中――
 バァァンッッ!
 と鍵盤の打ち鳴らされる音が響いた。
 一瞬にしてフロア全体に静寂の波が広がる。
 皆の視線が自然と音の発生源に集中する。
 ルイさんがピアノの前に座っていた。
 あたしたちの席からは、ルイさんの横顔がはっきりと目視できる。
 鍵盤に指を置くルイさんの表情は、これまで見たコトがないくらい真摯だった。
 口論を中断させた親衛隊の面々も息を呑んでルイさんを見つめている。
 ルイさんの両手がしなやかに鍵盤の上を滑り出す。
 初めのワンフレーズを耳にした途端、あたしはビックリしすぎて思わずポカンと口を開けてしまった。
 ――こ、これはッ……このメロディはまさかっ……!?
 驚きと得体の知れない嬉しさが胸の奥底から湧き上がってくる。
 南海とビッショウ様の顔には明らかな喜びの笑みが閃き、六楼さんの唇には苦笑が具現されていた。
 山梨くんは――多分、この場の誰よりもその光景が信じられなかったんじゃないかな?
 整った顔に驚喜を張りつかせ、ひたむきな眼差しでルイさんを眺めている。
 フロアからも突然のハプニングを喜ぶような歓声と悲鳴――そして、笑いが巻き起こる。
 ルイさんが弾き出したのは――山梨くんの大ヒット曲『青春ボンゴレ』だったのよ!
 ゆっくりとしたサビから始まるアレンジが終わり、ピアノの旋律は突如として激しいものへと変化を遂げた。
 ス、スゴイ、超早弾きボンゴレなんですけどっっっ!!
 何コレ、ちょっと楽しい!
 ルイさん、お世辞抜きに本当にピアノ巧いし、カッコイイな!
 選曲とアレンジも物凄くルイさんらしい遊び心に満ちていて――好きだわ!
 ルイさんの長い指がまるで別の生き物のように華麗かつ軽快に鍵盤の上を踊る。
 その様を誰もが感激と感嘆の綯い交ぜになった眼差しで見つめていた。
『青春ボンゴレ』って原曲からして転調の激しい変わった曲なのに、ルイさんは澱むことなく軽々と弾きこなしている。
 ルイさん、譜面を見なくても『青春ボンゴレ』弾けるんだ!
 しかも、即興でアレンジも出来ちゃうんだ!
 普段は悪し様に罵ったり悪態をついたりしても――ルイさん、やっぱり山梨くんのコトは今までの恋人とは別格に捉えてるのかな?
 興味のない相手の持ち歌なんて、フツーは諳譜したりしないわよね?
 ああ、それにしてもこんなに痛快で弾けるようなボンゴレ、初めて聴くわ!
 客席にもいつの間にか笑顔が戻っている。
 超速ボンゴレを弾き終えても、ルイさんの指が止まることはなかった。
 ボンゴレとは打って変わった、優しげなアルペジオが響く。

 綺麗な音色が耳に届けられた刹那、
「ルイ――」
 山梨くんの唇から掠れた声が洩れた。
 さっきまでいきり立っていた親衛隊の面々も大人しくイスに腰を落ち着け、ピアノを弾くルイさんに視線を釘付けにされている。
 ここまで明確な意思表示をされたら――親衛隊としては涙を呑んでルイさんの気持ちを尊重するしかないわよね。ちょっと可哀想な気もするけど……。
 次にルイさんが選んだのは、発売になったばかりの山梨くんの新曲『月華~蒼~』だったのよ。
 山梨くんがルイさんを想って作詞作曲し、溢れんばかりの想いを載せて歌ったと噂されている切ないバラードだ。
 美しいけれど情熱的なピアノの旋律には、それを奏でるルイさんの本心が織り込まれている気がした。
「スゲー意地っ張りだよな、ルイって。オレ――やっぱ熱烈に愛されてんじゃん」
 山梨くんが得意気に告げる。
 あたしが隣を見ると、山梨くんはきつく唇を引き結んでいた。
 瞳は今にも泣き出そうに潤んでいる。
 あのルイさんが、言葉ではないけれど己の胸中を行動で示すなんて稀有なことだ。
 きっと今、山梨くんは世界中で誰よりも幸せな気分に浸っているに違いない。
 ルイさんのピアノを聴いていると、何故だか六楼さんに対する恋心が急激に強まり、あたしの鼓動まで速くさせる。
 曲がサビに入った瞬間、あたしは不覚にも目頭が熱くなってしまった。
 ――ヤダ、山梨くん、コレ……物凄く素敵な曲じゃない!
 山梨くんが唄って踊るとどうしてもセクシーさが強調されるけど、ルイさんがピアノで奏でると幻想的なセレナーデに聞こえるから不思議だわ。 
 元々ルイさんへの想いがたっぷり込められた曲で、更にソレをルイさんが山梨くんのために弾いているからなのか――オリジナルよりも遥かに切なく細やかな情愛が表現されているように感じられる。
 ――よかったわね、山梨くん。ちゃんとクリスマスプレゼント貰えたじゃない!
 自分のことでもないのに嬉しさが込み上げてくる。
 ピアノの音色は山梨くんだけじゃなく、《WALTZ》にいる全員の心にスーッと染み込み、それぞれの胸に温かな恋情を喚び起こしているのかもしれない。
 みな静かにルイさんのピアノに聞き惚れていた。

 クリスマスに相応しい愛の溢れるピアノの音が《WALTZ》を柔らかに包み込む。
 全てが奇跡のような夜だった――


次でラストです。連投します~!
次話、長いので、いつもの如くケータイはオススメしません(汗)

 
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2011.02.22 / Top↑
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