ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ――えっ、ちょっと待ってよ! コレで終わりっ!?
 何、コレ!? 主人公――あたしよねッ!?
 最初から最後まで山梨くん尽くしだし、あたしと六楼さん、殆ど絡んでませんけどっっ!?
 ってか、山梨くん一人だけが美味しい想いをしてるんじゃないの!?
 ちゃっかり親衛隊の前でピアノ告白されちゃったりしてサ!
 ちょっと早めのクリスマスプレゼントもしっかりルイさんから頂いちゃってたわよね、あの男!
 ルイさんに変化が見られたのは、《WALTZ》史上初の快挙よ。凄いコトよ!
 難攻不落のルイさんの心を僅かでも揺さぶったんだから、流石はスターと褒めるべきなの!?
 どうやら本気で両想いッポイので祝福すべき事柄だし、もちろんこれからも山梨くんたちの恋愛を応援するし、生温かく見守ってゆくつもりだけど――もう少し、あたしにもラッキーハプニング的なイベントがあってもイイんじゃない!?
 クリスマスよ、クリスマス!
 当日じゃないけれど、《WALTZ》のスペシャルデーなのに、どうして山梨くんの一人勝ちみたいな感じになってるの!?
 おのれ、山梨めッッッッッ!!
 静かに兜塚スイーツを堪能し、寡黙に働く六楼さんの姿を眺めて、ちっぴりリッチで幸せな気分に浸りたかっただけなのに――あたしのささやかな願い、何にも叶ってないじゃないッッッ!!
 何よ、あたしだって六楼さんと一緒にケーキ食べたり、見つめ合ったり、手を繋いだりしたいんだからねっ!

 ……とにかく、山梨くんと一緒に《WALTZ》に来るコトはもう二度とないわね!
 ってか、山梨くんとビッショウ様と南海の三つ巴+ルイさんは……ダメだ。あたしの体力と精神力が著しく消耗する。個々の自我が強烈すぎるのよ!
 あの人たちが結集すると、あたしのついて行けない世界が広がりすぎるし、ツッコミたい言動が多すぎてあたしの意識が六楼さんよりソッチに向かってしまうもの……。
 そんな山梨くんたちは計画通り、閉店前に変装したり時間をズラしたりして、巧妙に《WALTZ》の裏口から姿を消して行った。
 営業終了と同時にダッシュで飛び出したルイさんだけど、熱烈なファンの方々が出待ちをしていたらしくちょっと囲まれていたわね。握手やサインなどのファンサービスをしながらマネージャーさんの誘導で人波を通り抜け――颯爽と夜の街に消えて行ったわね。
 鮮やかすぎる逃げ切り方だったわよ。
 ルイさんは地元民だから駅までの抜け道とか裏路地とか色々知ってるし、昔から執拗な熱狂的ファンを捲き続けてきたから、今夜も駐車場まで誰にも追いかけられるコトはないと思う。今頃ちゃんと山梨くんたちと合流しているはずよ。
 ――で、独り残されたあたしは……というと、《WALTZ》の奥にある休憩室で、ルイさんが握手やサインに応じながらも巧みに人波を脱して去り行く姿を見届けていた。
 スタッフが息抜きに使用する《WALTZ》の休憩室は、通りに面した一角がガラス張りになっているのよね。ファンに囲まれたルイさんがソコを通るのを、あたしはブラインドの隙間から覗いていたワケです。


「――沙羅ちゃん、ゴメン。待たせたね」
 カチャリと背後でドアが開く音がし、六楼さんの気配が生じる。
 慌ててブラインドから指を離し、あたしは身体ごと振り向いた。
 漆黒のロングコートに身を包んだ六楼さんが、《WALTZ》の紙袋を片手に佇んでいる。
 ああ、《WALTZ》の制服姿も素敵だけれど、やっぱり六楼さんはシックなブラックがイチバン似合うわね! カッコイイ!
「いえっ! お仕事お疲れ様でした!」
 あたしは嬉しさを隠しきれずに六楼さんに駆け寄り、その端整な顔を見上げて笑った。
 ハードな業務で疲れ気味だった六楼さんの顔にも微笑が浮かぶ。 
 ――うッ、や、やっぱり間近で見ると男前だわ!
 そして、営業スマイルではない自然な笑顔――それが今、あたしだけに向けているなんて幸せ過ぎるわ。
「ルイ、ちゃんと帰れた?」
「ちょっと取り囲まれてましたけど、物凄い早業でサインとか握手し終えて華麗に脱出してましたよ」
「へえ、あのルイが苛立ったりブチ切れたりせずにファンサービスしてたんだ? 見たかったな、ソレ。――ってか、やっぱりファンに対しては多少の罪悪感があるのかな?」
「う~ん……単純に早く《ブッシュ・ド・ノリマキ》に齧り付きたいだけじゃないですか? 結局、あのピアノ騒動とかであたしがプレゼントしたのも食べられずに持ち帰りになってましたからね」
 大将の心意気が詰まった《ブッシュ・ド・ノリマキ》――潰されてなければいいなぁ!
 山梨サンタを見た時のルイさんのリアクションは、明日、南海に報告してもらおうっと。
「確かに。腹が減ってる時のルイは、何よりも食べ物が優先だからね。まっ、ルイが無事に帰ったんならソレでいいし、周辺にたむろしていたお客様方も解散したってコトだから――帰ろうか、沙羅ちゃん」
 六楼さんがあたちを促し、裏口へと向かう。
 今夜はルイさんの特別復活祭だから、当然お客様の大半がルイさんフリークだ。
 ルイさんが《WALTZ》を後にした今、裏口に人だかりが築き上げられている可能性はゼロに違いないわ。


 あたしの予想通り、裏口はしんと静まり返っていた。
 午前零時を過ぎているので人通りも疎らだ。
「足下、気をつけてね」
 短く注意を促し、六楼さんがさり気なく明いている方の手を出す。
 あたしはささやかな気遣いをまた嬉しく思いながら、従順に六楼さんの手に自分の手を重ねた。
 六楼さんはごく自然にあたしの手を握ると、裏口の階段を降り、街のメインストリートである歩行者天国へと足を踏み入れた。
 深夜にも拘わらずクリスマスシーズンの歩行者天国は、艶やかなイルミネーションで彩られている。
《WALTZ》周辺はブルーやグリーンの色調でライトアップされ、華やかだけれどもクールな雰囲気を醸し出していた。
 ――ああ、前にもこうして二人で手を繋いでココを歩いたコトがあったなぁ。
 あたしと六楼さんがつき合う前の出来事で、その時は物凄く緊張して、口から飛び出すんじゃないかと思うほど心臓がバクバクしてたわね!
 流石に今はそんな異様なプレッシャーはないけれど、やっぱり六楼さんと手を繋いでいると少しだけ胸の鼓動が早くなる。
「もう十二時過ぎてるし――タクシーで送るよ」
「――えっ? も、もう少しだけ一緒に歩いてもいいですか!? っていうか、歩きたいんですけど!」
 六楼さんが歩行者天国のもう一本向こうにある大通りへ向かおうとするので、あたしは反射的に繋いだ手に力を込めていた。
 ようやく二人きりになれたのに、タクシーに乗ったら十分くらいでアッサリお別れの時間が来ちゃうじゃない!
 そんなの――ロマンチックさの欠片もないじゃない!
「――え? や、沙羅ちゃんがイイなら……俺としては大歓迎ですけど?」
 六楼さんが驚いたように足を止め、それからあしたの必死の形相を目の当たりにして軽く笑う。
「わっ、ホントですか!」
「折角、綺麗なイルミネーションもあることだし、駅まで歩こうか」
 六楼さんが方向転換し、駅の方角へと向かって歩行者天国を進み始める。
 ますます前と同じシチュエーションだわ! 
「けど、大丈夫かな? 家の人とか心配しない?」
 六楼さんが気遣わしげにあたしに視線を流してくる。
「平気です。バイト終わったら南海と《WALTZ》に行くから帰りは一時くらいになる――って、ちゃんと伝えてますから」
 あたしが力強く言葉を紡ぐと、六楼さんは苦笑を湛えた。
 まあ、そうよね。南海はとっくにビッショウ様たちと有馬家に向かっちゃってるワケだし――完全な事実ではないものね……。
 腐女子の鑑のような南海だけれど、普段は清楚で生真面目な美少女を演じているので――教師はもちろんあたしの両親のウケも頗る良い。なので、『南海と一緒』だと告げると大抵のコトは大目に見てもらえる。コレばかりは南海様様だわ。
「まあ……ちょっと回り道するだけだからいっか。そういえば――前にもこんな風に歩いたコトあったよね?」
 六楼さんが思い出し笑いのようなものを口元に忍ばせ、繋いだ指にちょっと力を入れる。
 六楼さんもあたしと同じコト思い返していたのね! 以心伝心っぽくて、何だかあたしまでニヤけちゃうわ!
 あの日はルイさんフィーバーの翌日で、あたしは六楼さんに『《ラブ・パラダイス》を一緒に食べて下さい!』って告白しようとして、激しい緊張感に見舞われてたのよね。
 懐かしいなぁ。今はクリスマスシーズンなので、その時より世界が輝いて見えるけど――あたしの六楼さんへの想いは変わってない。寧ろ増幅してる気がするわ!
「ありましたね。あたし、ガチガチに緊張してました」
「うん。指の先から伝わってきた」
 そう言って六楼さんがクスッと笑う。
 ……そ、そうですか。あの時のあたしの緊張の度合いが凄すぎたので、記憶が甦る度に笑いが込み上げてくるのね、六楼さん。
 ってか、心臓の高鳴る音とか全部聞こえていたんじゃないかと思うと、小っ恥ずかしわッッ!
 か、過去のコトだから今更羞恥心を覚えても仕方がないけど、あたしの頬はボッと熱くなってしまった。
「ああ、あの時はこの辺で……」
「あっ、六楼さん、ソレは言わないで!」
 六楼さんが歩行者天国の両脇に並ぶ建物を見回し、何やら思い出しかけたので、あたしは焦燥も露わに彼の声を遮った。
「ん? ソレって《山梨ショック》のコト?」
 六楼さんが淡々と告げて、小首を傾げる。
 ……ああ、言っちゃったわ、六楼さん。悪気は全くないんだろうけど、音に成すコトでソレが現実になりそうで怖いのよッ!
 あたしが顔を引きつらせながら、ファションビルの壁面を飾る巨大モニターに視線を移すと――恐ろしいくらいのタイミングで画面が山梨くんの端整な顔を映し出した。
「おっ、山梨さん――」
 六楼さんが徐に足を止め、モニターを見上げる。
「このモニター、こんなに遅くまで映像流してるんですか?」
「年末は午前一時まで流してるみたいだよ。――ん? コレって、さっきルイがピアノで弾いてた曲なのかな?」
「そうです。山梨くんの超ラブソングです」
 六楼さんの疑問にあたしは半ば投げ遣りに応じた。
 画面は『月華~蒼~』のPVを流し始めたのよね。ワイドショーじゃないだけまだマシだけど、いつもいつもタイミングが悪すぎるのよ、山梨ッッ!!
 ああ、でも、この曲――山梨くんの曲の中でイチバン好きかも。
 相変わらず露出度は高いし、無駄にセクシーな声してるけど――やっぱり超アイドル様なのね。
 うん、悔しいけどカッコイイわ、山梨くん!
「山梨さんてさ――変な人だけど、真っ直ぐで歪んでないよね。自分にも相手に対してもルイとは別の意味でストレートなんだな、きっと。この曲聴くと、何かもっとちゃんと自分の感情を素直に伝えなきゃいけないな、って気持ちにさせられるから不思議だな」
 珍しく六楼さんが感慨深げに呟く。
 しばし『月華~蒼~』に聴き入っていた六楼さんが、フッとあしたに視線を戻す。
「二十四日と二十五日はどうしても無理だけど――二十六日はちゃんと空けておいてね、沙羅ちゃん」
「えっ? も、もちろん! 学校も冬休みに入るし、バイトも休みです!」
「じゃ、朝からデートに決まり。――あっ、兜塚さんにシュトレンとかブッシュ・ド・ノエルとか貰ってきたから、後で渡すね」
 六楼さんがニッコリ笑い、片手に持つ紙袋を軽く掲げる。
 お土産も嬉しいけれど――デートの方が遙かに心が弾むんですけどっ! 
 あたしたちにとっては、二十六日がクリスマスになるワケですね!
 楽しみすぎて今夜から眠れないかも!!
 朝からデートだなんて超久し振りだから、物っ凄くはりきっちゃいますよ、あたし!!
 あたしが感激のあまりに無言でコクコク頷いてると、六楼さんはまた苦笑を閃かせた。
 何か、あたし……子供すぎて六楼さんに苦笑いばかりさせてる気がするわ……。
「あ、ありがとう、六楼さん! あたし、二十六日――頑張りますッ!」
「いや、頑張るって……。まあ、いいけど……。そんな全力投球な沙羅ちゃんが、俺は好きだしね。それから、ルイと山梨さんに触発されたワケじゃないけど――コレはやっぱり先に渡しておこうかな」
 六楼さんが一瞬だけ照れ臭そうに微笑し、コートのポケットから小さなプレゼントボックスを取り出す。
 その前に『好きだ』と言われたことを胸中でよく噛み締めたかったけれど、それは家に帰ってからにするわ~!
「あたしに――ですか?」
「そう、沙羅ちゃんに。ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントです」
 六楼さんが繋いでいた手をそっと外し、あたしの掌にお洒落なラッピングが施されたプレゼントを載せる。
「ありがとうございます。――開けてもいいですか?」
 あたしが心臓を高鳴らせながら訊ねると、六楼さんは無言で首肯した。
 ま、まさか今夜クリスマスプレゼントを贈られるなんて思ってもいなかったら、緊張が倍増しだわ。執筆活動も大学も《WALTZ》も大忙しなのに、あたしのためにちゃんとプレゼントを選んでくれたなんて、それでけでもう感涙モノなんですけど!
 あたしはゆっくりと包みを解き、中から出てきて箱を目にしてちょっとだけビックリしてしまった。だって、如何にも高級そうなジュエリーケースが出てきたんだもん!
 一瞬、箱を開ける手が止まってしまったけど、六楼さんが目顔で促すので、あたしは革張りのジュエリーケースを思い切って開いた。
「うわぁっっ! 綺麗!」
 眩い煌めきが視界に飛び込んできた瞬間、あたしは素直に感嘆の声をあげていた。
 それは雪の結晶を象った愛らしいブレスレットだったのよ!
 小さな結晶が連なり、美しい円を描いている。プラチナとかホワイトゴールドとか、あたしには貴金属に関する知識は全くないけれど――結晶の一つ一つにサファイアと思しき宝石が填め込まれているし、とにかく高価なモノに違いない。
 あ、あたしなんかが貰ってもいいんだろうか?
「沙羅ちゃん、ブルー好きかな――と思って。空色のダッフルとかブルー系の服よく着てるし、たまにルイの目をじっと見てるコトあるよね」
 うわっ、六楼さん――意外とちゃんとあたしのコトを見てるのねっっ!!
 ルイさんの双眸に関しては意識したことないけど、無意識に眺めちゃってるんだろなぁ。確かにあたしは寒色系の色が大好きだもん!
「こ、こんな素敵なプレゼント、あたしが貰ってもいいんですか?」
「もちろん」
 六楼さんが即答する。あたしが歓喜のあまり凝固していると、六楼さんはブレスレットを箱から取り出して手早くあたしの手首に飾ってくれた。
「ああ、やっぱり沙羅ちゃんの白い肌には青が映えるね。ペアブレスじゃなくて申し訳ないけど――」
 ブレスレットを填めたあたしの手を軽く握り、六楼さんが意味深に微笑む。
 ああぁぁぁぁっっっっ、やっぱり全部見透かされてるのね!
 ルイさんと山梨くんのペアブレスを羨望の眼差しで眺めていたコトとか――バレバレなんですねっっっ!!
 恥ずかしい! ひたすら恥ずかしいわっ!
 このファンタジックなブレスレットだけでも天にも舞い上がりそうな気持ちなのに、更に物欲しげで図々しい女でスミマセンッッ!!
 あたしが顔を紅潮させたまま六楼さんを見返すと、彼は笑みを浮かべたまま長身を屈めた。
「雪の季節が終わったら、今度はちゃんと二人でペアブレスを選びに行こうね。――好きだよ、沙羅ちゃん」
 六楼さんがあたしの目を真っ直ぐに見つめたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
 うわぁぁぁっっっ! 久し振りの至近距離だし、久し振りの愛の囁きだわ!
 クールで大人な六楼さんが『好き』って言ってくれるコトなんて、ルイさんの次くらいにないんだからね!!
 南海じゃないけど、嬉しすぎて鼻血が出そうだわ!
 ひょっとして――や、山梨くんの『月華~蒼~』効果なのかしらっ!?
 たまには役に立つコトもあるのね、山梨くん!
 ――なんて、あたしが心の中で幸せ過ぎる状況に全身の血液をざわめかせているうちに、六楼さんの顔がどんどん近づいて来て――唇が触れ合った。
 そのまま六楼さんの片手があたしを抱き寄せる。
 贅沢にも珠玉のバラードをBGMに、あたしと六楼さんはしばらく口づけを交わしていた。
 こ、こんなに幸せでイイのかしら、あたしッ!?


 とりあえず、
 ちょっぴり早いけれど――メリークリスマス!!







 ――えっ?
 結局、本当のところルイさんが山梨くんのコトをどう想ってるか、って……?
 謎の《ブッシュ・ド・ノリマキ》パーティーの詳細――?
 知らないわよ、そんなコト!
 ソコが気になったり探りたい人の気持ちも、残念ながらあたしにはちっとも解らないもの。
 今回のクリスマスイベントであたしが新たに理解したコトはただ一つ――
 あの人たちをオールメンバーで揃えたら、あたしの寿命が摩滅する!
 ………………それだけよ。



     《了》



ちょっと早いどころか――かなり亀足のメリークリスマスになってしまって、スミマセンッ(;´▽`A``
長い小咄に最後までおつき合い下さった皆様に心より感謝で申し上げます~!
& 改めまして――80000HITありがとうございました≧(´▽`)≦

 
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2011.02.22 / Top↑
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