ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑

     *


「行ったわね」
 遠ざかる弟の背を眺めたまま、咲耶は流麗な仕種で眼鏡を外した。
「じゃあ、そろそろ道場に移動しようか、咲耶?」
 眼鏡を外した咲耶を横目で見遣り、智美が口の端に笑みを刻む。
「汗だくになりながら必死の形相で稽古してるところ、美人には見られたくないんでしょ?」
「わおっ! さっすが智ちゃん! 私のことよく解ってるわね」
 外した眼鏡を胸ポケットにしまい、咲耶は双子の姉に微笑みを返した。
「咲耶のことなら大体解るよ。BL妄想以外は――ね」
「アラ、遠慮せずにそこもガンガンリンクしていいのよ、智ちゃん! ――って、流石の私もちょっとだけ妄想は控えるわ。私、しばらく鍛錬サボりまくってたからね。身体が鈍っちゃってると思う。けど、そんなコト言ってる場合じゃない……わよね?」
「多分ね……。魔王様のお目醒めだ」
 智美は挑戦的な眼差しで夜空を見上げ、更に笑みを深めた。
 この数日、M市内には不穏な気配が漂っている。
 その中に強い魔力を感じた。
 神族と敵対する魔族の長が、一時的にでも覚醒したのだろう。
「葵ちゃんや茜ちゃんや夏生――榊の本家を魔王からしっかり護らないとね。せめてもの愉しみに、魔王が超絶美形であることを願うわ!」
「今生では女だったらどうする?」
「えーっ!? そんなの、つまんなーい。女子だったら、サクッとスルーして、そのまま葵ちゃんに任せるわ」
「葵を護るのが有馬の役目じゃなかった? まあ、いいけど……。じゃ、不細工だったら魔王退治は茜に押しつけよう」
「あ、ソレ賛成!」
 至極身勝手な互いの意見に軽口で応じつつ、有馬姉妹は去り行く弟の後ろ姿に柔らかな視線を注いだ。


「あの子――お父さんに似てるわね」
 夜の闇に弟の姿が溶け込んだのを確認し、咲耶はふっと呟いた。
「ああ……神降ろしした後のお父さんが、あんな感じでいつも具合が悪そうだった――」
 智美が視線を咲耶へと戻し、硬い声音で応じる。
 有馬家の正式な当主であり、姉妹の実父でもある美城。
 美人と同じく神降ろしが出来る巫覡であった父は、類い稀な才能があるが故に常に健康を蝕まれていたような気がする。
 十数年前に姿を消したきり杳として行方が掴めない父だが、それでも子供の頃の記憶には優しい父の姿が刻み込まれていた。
「ねえ、智美――お父さん、生きてると思う?」
 咲耶はいつになく真摯な声音で智美に問いかけた。
「……判らない。けれど――生きているとすれば、私たちの敵だとは思う」
「そうよね。失踪するくらいだから有馬の家に――神族であることに何かしらの不満や疑念があったのよね」
「大丈夫。心配しなくていい。もしもお父さんが我らの敵として現れるようだったら、その時は――私が殺る」
「智ちゃん……」
 姉の顔に揺るぎない決意が漲っているのを見て取り、咲耶は胸に鋭利な痛みを覚えた。
 そっと双子の姉の手に指を絡める。
「お母さんにも咲耶にも美人にも手をかけさせない」
「智ちゃん独りだけに押しつけたりは、絶対にしないわ」
「ちょっと、美人はあの通り色恋に疎いし、今時珍しいくらいの晩生だし――咲耶に何かあったら誰が有馬の子孫を産むのよ?」
 智美がクスクス笑いながら咲耶の顔を覗き込んでくる。
「智ちゃんが産めばいいじゃない?」
「――冗談でしょ? 好きな男もいないし……遠慮しておく。とにかく、万が一、お父さんが敵対するなら――私がぶった切る! それが有馬の長子である私の使命だし、そのための《雨竜》だ」
 咲耶の指を強く智美が握り返してくる。
 その手首には金色の龍がしっかりと巻き付いていた。
 同じ神族でも《神氣》の発動方法は、人によってぞれぞれ異なる。大きく分けてタイプは二種――戦闘能力に優れた者と突出した防御力を持つ者だ。
 葵・茜・美人・智美は前者、夏生と咲耶は後者に分類される。
 闘うために生まれてきた智美たちは、己の肉体と精神を削りながらいつ果てるとも解らぬ魔物たちとの争いに進んで身を投じてゆく。
 彼らをサポートするのが防御に長けた守護者の役割だと理解していても、目と鼻の先で大切な人たちが傷ついてゆくのは痛々しく、いつも身を切られるような想いに苛まれる。
 同時に、刀を手に取って共に闘えない自分が、ひどく歯痒くもあった。
「私たちは二人で一つよ。何があっても最期まで一緒に闘うわ、智美」
 咲耶は闘志を秘めた声音で静かに宣言すると、双子の姉との絆を確かめるようにギュッと手を握り締めた――


     *




← NEXT
→ BACK
※【妖鬼伝】INDEXへ

ブログパーツ
スポンサーサイト
2011.04.17 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。