ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「初めまして――と言うべきかな? 一条遙くん」
 リビングのソファに背筋を伸ばしで座している青年を見るなり、如月は皮肉げに唇をつり上げた。
 如月の視線を受けた相手が静かに立ち上がり、無言で会釈する。
 中性的な美貌を持つ青年だ。
 魔族の中でも高位の存在である一条家当主。
 そして、魔王の側近である一条遙だ。
 本来ならば人目を引く長い金髪は、今は短く変化している上に漆黒に塗り替えられている。サファイアの如き双眸も髪と同じく黒き輝きを放っていた。生来の姿が派手すぎるので、人目を避けたい時には意図的に姿を変えているのだろう。
「相も変わらず小憎たらしいほどの玉容だな」
 遙の麗姿を上から下までじっくりと鑑賞し、如月は再び嘲笑を浮かべた。
 一条遙の憂いを帯びた瞳は心持ち伏せられている。長い睫毛と紅い唇が、妙に女性めいていた。
 稀に見る白皙の美青年だ。
「転生したら、その貌――少しは崩れるかと愉しみにしていたのに」
 如月は眼鏡のレンズ越しに遙を見据え、口元を歪めた。
「……あなたも嗜虐を好むところは全くお変わりありませんね。今生でも不必要な血を大量に流させているのでしょう」
 遙の双眸が如月の冷ややかな視線を臆せずに受け止める。繊細で軟弱そうな外見とは裏腹に、遙の唇から紡がれるのは辛辣な言葉ばかりだ。
「血を好むのも殺戮に興奮を覚えるのも――我ら魔魅遣いの始祖が魔族に与していたからだろう? 魔族の本性を忠実に受け継いでいるだけなのに、その言い方は心外だな。ああ、おまえは元々神族だから、血に対する飢えや渇望が私たちと同じようには解らないのか」
 如月はわざと揶揄の言葉を突きつけた。
 遙の柳眉がひそめられたのを見るだけで、胸に優越感と悦びが湧き上がってくる。
 初めて逢った時、遙は女だった。
 天人かと思うほどの頗る美しい女性だ。
 だが、天主を裏切り魔王の元へ走った女には重い罰が下された。女はその後、二度と女性として生まれ変わることはなくなった。決して魔王とは結ばれないように――
 過去世で何度か同じ時代を生きたことがあるが、女は常に男性として生を受けていた。
 ただ、その麗容だけは女性であった時と殆ど変わらない。多少男性らしさは滲み出ているが、幾度転生しても貌の造形そのものは目を瞠るほどに整っていた。
 ――魔族が誇る美魔……とは、よく言ったものだな。
 一条遙の美貌が苦痛や苛立ちに歪む様は、眺めているだけで愉しい。
「ええ、永遠に解らないのかもしれません。私は神族から堕ちた身であり、完璧な魔族にもなれぬ半端な存在ですから……。なので、あなたに宿る冷酷さや残忍さも理解出来ませんね」
 遙の冷ややかな視線が如月を見返す。口調は穏やかだが、やはり唇から放たれるのは如月に対する非難と嫌悪が相俟った言葉だ。
「あれは確か……戦国の世でしたか? 私の妹はあなたに嬲り殺しにされましたよね?」
「三条の小僧の居場所を頑として吐かない強情な女がいたような気もするけど――アレは、一条の姫だったかな? 随分と昔のことなので、忘れたな」
 如月はわざとらしく嘯き、口の端に冷笑を刻んだ。
「妹は陵辱され、散々いたぶられた挙げ句、生きながら魔魅の餌にされたと聞きました。随分と昔のことなので、私の記憶違いかもしれませんが」
 遙が瞳に宿る光が強まり、声のトーンが僅かに落とされる。抑えられた語り方が、逆に遙の裡に渦巻く怒りの凄まじさを顕しているようだった。
「記憶違いだろうな。――それより、今夜は昔話に花を咲かせるためにわざわざ訪ねてきたわけじゃないだろう?」
 遙の言葉を白々しく一蹴し、如月は大仰に肩を聳やかしてみせた。
「そうですね。では――充分に承知していると思いますが、龍一を返して下さい」
 嫌味の応酬は不毛だと感じたのか、遙が瞬きを一つした後に用件を切り出す。
「構わないよ。代わりにおまえがここに残るのならば」
 如月がそう即答すると、遙の双眸を彩る憎しみと侮蔑の色が濃くなった。
「……予測はしていましたが、やはり気分の良い条件ではありませんね」
「けれど、呑むしかない条件だろ? 大事な大事な弟のためだからな。おまえが残らない限り、弟の生命の保証はない」
 如月が悠然とした笑みを向けると、遙は口惜しげに唇を噛み締めた。
 遙が龍一を捨てられないことは百も承知だ。
 過去世において妹であった龍一のことを遙は至極大切にしている。そして、自分と共に魔族に堕ち、残酷な運命を辿ることになった妹に対して深い罪悪感を抱いているのだ。
 遙が龍一を優先させるのは愛情だけではなく、贖罪の意も込められているのだろう。
「いいでしょう。私がここに残ります。ですから、早く龍一を返して下さい」
 短い沈黙の後、遙が決然と言葉を繰り出す。
 真っ直ぐに如月を射る瞳には、仄暗い怒りが湛えられていた。
 憤怒を身に纏う時でさえ遙の美しさは何ら損なわれることはない。
 ――気に食わないな。ますます踏みにじってやりたくなる。
 遙の自尊心をへし折り、力ずくで跪かせるのは、さぞかし愉快なイベントとなるに違いない。
 血塗れの遙の姿を想像し、如月は唇に酷薄な微笑を閃かせた。


    *


猛暑続きでヘタッてますけど、巻ノ参もあと10話以内には終わる……予定です←
あまり人気ないと思いますが(笑)、如月のおぢさんを書くのが結構好きです(´ー`A;)


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2011.08.13 / Top↑
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