ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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!!閲覧注意!!
 この記事には流血表現があります! 嫌いな方・苦手な方はご遠慮下さい。








 自分を見下ろす如月の双眸には嗜虐的な輝きが満ちている。
 遙は青ざめた顔で如月を見上げていた。
 身を苛む苦痛、そして、これから行われるであろう仕打ちに対する嫌悪と恐怖が胸の裡で綯い交ぜになる。
 如月が放った指令に従い、彼の部下たちが敏捷な動作で駆け寄ってくる。
 両サイドから肩を掴まれ、遙の身体は不快感にビクッと震えた。
 人型をした魔魅の興奮が触れられた箇所から伝わってきたのだ。彼らは主人同様に遙を虐げることを心の底から喜んでいるらしい……。
 魔魅たちがしっかりと遙の身体を押さえつけ、両の翼に手をかける。
 逃げようにも身体の自由が利かない。
「やめっ……! 翼……は――――――――!!」
 不意に遙は言葉を呑み込み、目を瞠った。
 背に激痛が走る。
「あッ……!」
 魔魅たちが物凄い剛力で遙の翼を引っ張り始めたのだ。
 バキバキッと翼がへし折られる耳障りな音が響く。
「ッ……うっ……あぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 あまりの痛みに目の奥で火花が散り、唇から絶叫が迸った。
 苦悶する様が如月に満足感と愉悦をもたらすことは承知だ。だが、己の一部が力尽くで奪われる痛みは耐え難く、堪えようとしても自然と声が洩れてしまう。
 魔魅たちが更に力を加え、容赦なく翼を引き抜きにかかる。
 メリメリと不吉な音を立てて翼が肉体から剥がされる。
 派手に血飛沫があがり、遙の黄金色の髪を真紅に染めた。
「ァッ――――!」
 遙は唇を引き結んだ。噛み締めた下唇が切れ、口内に血の味が広がる。
 同時に背に激烈な痛みが生じた。
 唐突に翼の重みが消失し、言い表すことの出来ぬ疼痛が背中から全身へと瞬く間に広がってゆく。両の翼が完全に皮膚から剥離したのだ。
 痛みが強烈すぎて、身体の感覚が麻痺し、意識が朦朧とし始める。
 ヘモグロビンの匂いが鼻をつき、熱い液体が止めどなく背を伝い落ちていた。
 ――魔王……様……。
 次第に闇に呑まれてゆく意識の中で、遙は彼を呼んだ。
 それは、かつて自分を魔族に堕としたもの――
 神族であった自分に魔物の性を与えた漆黒の王。
 冷徹で冷美な魔族の長だ。
 ――魔王様……。
 もう一度魔王を呼んだ直後、遙の意識は急速に失墜した――


 魔魅たちが手を離すと、細い身体が力なく床に崩れ落ちる。
 もぎ取られた二枚の翼の間に横たわる遙を見遣り、如月は喜悦の笑みを唇に刻んだ。
 翼を奪われ、血に塗れた姿さえも妙に美しい。 
 綺麗なものが壊れたり穢れてゆく様は、それだけで如月の胸に喜々とした優越感をもたらす。
「血が噴き出す傷口に指をねじ込んで、無理矢理意識を引き戻すのも悪くないな」
 端麗な顔を歪ませて苦痛に耐える遙の姿を思い返し、如月はまた微笑んだ。だが、すぐに彼はその笑みを引っ込めて眉をひそめる。
「――珍客だ」
 興を削がれ、如月はフンと鼻を鳴らした。
 遙から視線を外し、顔を上げる。
 空間の一部だけが、陽炎のように奇妙に歪んでいた。
 そこから冷気と共に黒き影が出現する。
 如月はひどくつまらなそうに闖入者を眺めた。
 漆黒の髪と瞳の青年だ。艶やかな黒髪は腰の辺りまで伸びている。少々つり上がり気味の双眸は、如月に負けず劣らず冷ややかだった。
「もっと早く呼べばいいものを……」
 青年は遙の惨状を見つめるなり、不愉快さを隠しもせずに舌打ちを鳴らした。
 漆黒の瞳が真紅の輝きを灯す。
 転瞬、テーブルの上のワイングラスが粉々に砕け散った。リビングにいた魔魅たちが一斉に破裂し、灰燼に帰す。
「おや? 随分な挨拶だな、魔王。それとも氷上遼くんと呼ぶべきかな?」
 氷上遼――覚醒したばかりの魔王の所業に肩を竦めてみせ、如月は冷静に言葉を紡いだ。
「久しいな、如月。随分なのは貴様の方だろう。余のモノを勝手に壊して、僅かばかりの手下を失ったくらいで済むと思うのか?」
「さあ? それにしても、ようやくお目醒めだなんて悠長だな。姉上様に意地悪でもされたのか?」
 如月が揶揄すると、図星だったらしく遼は不機嫌そうに片眉を跳ね上げた。
「――遙は返してもらう」
 しばし無言で如月を睨めつけた後、遼が有無を問わさぬ強い語調で断言する。
「好きにしろ。一対一の場面で魔王を敵に回すほど、私も愚かじゃない。それに今夜は、長年望んでいた人形がいとも容易く転がり込んできてね。そっちもしっかり可愛がってやらないといけないし――だから、さっさと私の前から消えてくれないかな?」
 如月はあっさりと了承し、他意がないことを示すように悠然とソファに背を凭せかけた。
 遼の胡乱げな眼差しが如月に注がれる。
 ほんの数秒逡巡した後に、如月の言葉に偽りがないと確信したらしく、遼は遙に歩み寄った。意識のない遙の身体が遼の両手に抱き上げられる。
 チラともがれた翼に恨めしげな一瞥を与えた後、遼の姿は現れた時と同じように歪曲した空間に呑まれるようにして――消えた。
 一条龍一が破壊したリビングの窓から夜風が吹き込んでくる。
 風に誘われるようにして窓外に目を向け、如月は口の端に残忍な笑みを閃かせた。
 
 闇夜に浮かぶ満月は、魔王の瞳を彷彿とさせる禍々しい赤光を放っていた――


     *


あと1話で巻ノ参は完結予定です(´Д`ι)

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2011.10.02 / Top↑
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