ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 氷上遼の気配が完全に消え失せると、如月祐介はリビングを後にした。
 離れへ身を移し、隠し扉から地下へと降りる。
 複雑に交錯する細長い廊下を迷わずに進み、如月はとある扉の前で足を止めた。
 表の顔である如月製薬では実施できないような際どい実験を行っている研究室だ。
 ドア脇に設置されているパネルに暗証番号を打ち込み、更に片手を液晶に押し当てる。
 するとロックが解除される音が小さく響き、眼前の扉がスーッと左右に開いた。
 如月は躊躇うことなく室内に足を踏み入れた。
 室内では複数の機械音が重なり合っている。決して騒々しくはないが、無機質な音の交錯は不気味に耳に響く。
 薄暗い室内の中には、幾つものカプセルベッドが並べられている。
 更に奥へ移動すると、たくさんのパソコンや得体の知れぬ機械や器具などが揃えられた一角に突き当たった。
 白衣を纏った男が二人パソコンと向き合い、別の男がカプセルベッドに繋がれたチューブを点検している。
 男たちは如月の姿に気づくと無言で会釈し、またすぐに作業へ戻る。
「アレは?」
 如月はキーボードを操作してる男の一人に向かって声をかけた。
「二番のカプセルに――」
 男が作業する手を止めずに簡素に応じる。
 如月はすぐに身を転じてカプセルベッドへ歩み寄った。
《№2》と刻印されたカプセルのスイッチを押し、蓋を開けた。
 細長いカプセルは緑色の奇妙な液体で満たされている。
 その中に、如月の求めているものがあった。
 緑の液に浸されているのは全裸の少年だ。手足には枷がついており、鼻口は酸素マスクで覆われている。
 両の手には幾つものチューブが突き刺さっており、その中を真紅の液体が通っている。
 カプセルの中で強制的な眠りに就かされているのは、甥に当たる有馬美人だ。
「成功――したのか?」
 如月は美人の白い顔を眺めたまま背後の男に問いかけた。
「はい」
「何分かかった?」
「四十五分ほどです」
「四十五分? 長いな」
「やはり、本物の人間ですから人型の魔魅を意に従わせるのとは訳が違いますね」
「まあな。コレは元々美城の血を受け継いでるから尚更だ。魔魅のように美城の血に酔い痴れて中毒なることもないしな」
「なるほど。道理で有馬美城の血を注ぎ続けても恍惚状態にも催眠状態にも中々陥らないわけです。その少年、かなり自我が強くて、つい先ほどまで抵抗していましたよ」
 白衣の男がキーボードを叩き続けながら淡々と報告する
「だが、強引に自我をねじ伏せた今は、ただの人形か……。呆気ないな」
 如月は幾分残念そうな眼差しを美人に注いだ。
 恐ろしく整った美人の顔は、いつも如月の嗜虐心をくすぐる。だが、今はそうではなかった。美人を眺める瞳には、憐れみのような感情が揺らめいてしまう。
 如月は、美人のことが嫌いだったわけではない。甥を見ていると、冷たすぎる自分の妻――鞠生を思い出してしまうから無性に腹が立つのだ。
 そこまで考えて、如月は自らを嘲笑うように口元を歪めた。
 カプセルベッドの脇に設えられている小型PCを慣れた手つきで操作する。すると緑色の液体がカプセルから排出された。
 如月は傍に積んであるバスタオルを数枚手に取ると、美人の身体から枷と酸素マスクを外し、点滴の針を一本一本丁寧に抜いた。身体や髪に付着する緑の液体をバスタオルで拭い、真っ新なもので身をくるむ。
 意識のない美人を腕に抱えると、如月は研究室を出て一階へと戻った。
 先刻まで一条龍一を捕らえていた部屋へ進み、ベッドにそっと美人を横たえる。
「美人――」
 呼びかけるが反応はない。
 青白い頬を軽く叩くと、ようやく瞼が震えた。
「――ん……」
 長い睫毛が微細に揺れ、ゆっくりと瞼が押し上げられる。
「私が解るか?」
「……如月の――叔父さん……?」
 虚ろな眼差しが如月を見上げる。
「そうだ。今日からおまえは私の言うことだけをきいていればいいんだよ。――いいか、私以外の者はみんな敵だ」
「……敵?」
 美人が怪訝そうに眉根を止せる。
「私やおまえにとって邪魔な存在だ。そうだな、最大の敵は葵と茜――榊家の双子の兄弟だ」
「葵さんと……茜さん……? 敵?」
 如月の言わんとすることが理解出来ないのか、美人の顔に困惑の色が浮かび上がる。
「奴らは一番の敵だ。邪魔者だ。邪魔者は容赦なく排除しろ」
「邪魔者は……排除……。敵は――――殺す?」
「そう、敵は殺すんだ」
 美人の反応を眺め、如月は満足げに微笑んだ。
 選りすぐりの科学者を揃えて魔魅育成に関する秘密研究所を作った。人型の魔魅を生み出し、それらを調教するために開発した洗脳システムがこんなところで役に立つとは思いもしなかった。強い神力を持つ有馬美人は、今や如月の意のままに動く生ける武器だ。
「私の言っていることが解るだろう? 榊の者はみんな殺すんだよ。おまえならきっと出来る。誰にも私の邪魔をさせてはいけないよ?」
 如月が優しく囁くと、美人は数度瞬きを繰り返した後にコクンと小さく頷いた。
「よし、イイ子だ、美人。今日は疲れただろう? ゆっくり眠るといい」
 如月は再度微笑んでみせると、美人の身に毛布をかけてあげた。
 如月の言葉に従順に美人が瞳を閉ざす。
 すぐに規則的な寝息が聞こえてくる。
 洗脳のおかげで、美人の裡には如月に対する信頼と忠誠心がしっかりと植えつけられたようだ。
 如月は操り人形の出来映えにほくそ笑むと、隣室へと視線を流した。
「おまえの息子は貰うぞ、美城。息子が捨て駒として扱われるのが嫌なら――いい加減、目を醒ませ」
 目を醒ましてほしい――そんな淡い期待を胸に抱き、言葉を紡ぐ。
 ほんの一瞬、隣室からカタカタッというか鍔鳴りが聞こえてきたが、それきりだった。
「……さてと、舞台の幕を開けるには、まだ役者が揃わないな」
 如月は落胆を押し隠すように隣室から目を背けると、美人の寝顔に視線を落とした。
「いずれ妖魅王にも舞台に上がってもらうとするか」
 薄暗い室内の中、如月の低い呟きは静寂に呑まれて消えた――


 
       《了》

           To be continued…?



長い物語なので息切れしないようにマイペース更新しておりますが、ここまでおつき合い下さり、ありがとうございます(´▽`*)
巻ノ肆開始までしばらく時間を措かせていだきますが(汗)、再開時にまたフラリと足をお運び下されば幸いです。
その間にカウンターが10万打超えましたら、何か小咄でも載せられたらイイなぁ、とは考えてますけど←


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2011.10.08 / Top↑
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