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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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2.俺の好きな人


 見るからに柔らかそうな栗色の髪。
 長い髪に縁取られた顔は白く、小さく――驚くほどに愛らしい。
 きめ細かく、抜けるように白い肌。
 笑うとその頬は淡く色づき、薄紅色の薔薇を連想させる。
 大きな焦茶色の瞳には透明感のある輝きが満ちている。
 身長はさほど高くはないけれど、四肢はスラリと伸びており、テレビに出ているアイドルにも負けないほどスタイルは抜群だ。
 もちろん顔の造形も素晴らしく整っている。

 擦れ違った瞬間、思わず目で追ってしまうほどの綺麗な容姿。

 学年一、いや、学校一の美形と断言しても過言ではない。
 
 華奢で清楚で可憐で純真――

 春の陽だまりのように優しく、柔らかく、朗らかで――驚くほどキュートな振る舞いが似合う美少女。

 それが俺の好きな人だ。


     *


「――ごめんなさい」
 眼前で栗色の髪が揺れる。
 もう何度同じ光景を目にしただろう?
 入学してから一年と十一ヶ月――
 毎月一回は目にしたとして――およそ二十三回。
 ……え、最低でも二十三回?
 そ、そうか、いつの間にかもうそんなに増えてるのか、回数……。
 俺はショックと切なさと哀しみに打ちひしがれ、ガックリと肩を落とした。
 こればかりは何度味わっても慣れるものじゃない。
「ごめんなさい、北条くん」
 再び栗色の髪が揺れ、小さな顔が正面から俺を見つめる。
「わたし、今は誰ともつき合う気がないから――」
 困ったように眉がひそめられ、大きな瞳が哀しげな光を湛える。そして、その目は俺と視線が合致した瞬間、気まずげにフッと逸らされた。
 い、いつものことだけど――やっぱ物凄く胸にグサグサくる……。
「いや、『今は』って……」
 俺、一年の時から同じセリフ聞かされ続けてるんですけどォォッッッ!?
 そうツッコみたい気持ちと胸に刺さった棘の痛みをグッと堪え、俺は強張る顔面を誤魔化すように片手で眼鏡の位置を直した。
「あのさ、神原さん――」
 緊張で渇いた喉をムリヤリ唾で潤し、俺は口を開いた。
 ――が、俺が二の句を継ぐよりも早く、
「ちょっ……南海! あんた、いつまでのその常套句、使い回す気ッ!?」
 呆れと非難が相俟った声が響いた。
 半ばうんざりしながらそちらへ視線を向けると、クラスメイトの園生沙羅(そのお さら)が大きく瞠った双眸で俺と彼女――神原さんを見比べていた。
「ってか、北条も懲りもせずにまた告白したワケッ!?」
 園生の視線が俺を射る。その瞳には『信じられない』という気持ちがありありと込められていた。
「……しょうがないだろ。好きなんだから」
 俺は無愛想に園生に答え、チッと舌を鳴らした。
 園生が大声を張り上げたせいで、周りの生徒たちも脚を止め、こちらを興味津々の体で遠巻きに見つめているのだ。
 毎度のこととはいえ不躾な視線に晒されるのは気分のいいものじゃない。
 今、俺たちが佇んでいるのは放課後の廊下。
 無論、多数の生徒たちでごった返している。
 そして、俺が今し方告白して見事に玉砕した相手は、校内屈指の美少女――神原南海(かんばら なみ)なのだ。
 俺たちの通う市立藤城商業高等学校は、一学年十二クラスで編成されている。内、男女混合のクラス――男クラは僅かに四クラス。他は女子ばかりの女クラだ。
 なので、必然的に廊下に屯し、こちらを好奇心に満ちた眼差しで見つめているのは八〇パーセント近くは女子ということになる。
『北条のヤツ、告るの何度目?』
『信じられない――ってか、凄い神経してるわよね』
『北条、頭もいいし、顔もいいはずなのに――何か残念な感じなのよね』
『相手が神原さんじゃねぇ……』
『神原、この前、三年の三好センパイのコトもフッたらしいわよ』
『えーっ、もったいない! バスケ部の三好先輩、ちょーイケメンじゃん!』
 野次馬たちのヒソヒソ声が耳を掠める。
 最早毎月恒例となっている告白イベントを前にして、みな言いたい放題だ。
 俺と神原さんと園生が遠慮のない視線と奇妙な気まずさに耐えていると、
「スゲー人だかり! 空哉、おまえ、また神原に告ったんだって?」
 耳慣れた声と共に人が接近してくる気配がした。
 間を空けずにポンと肩に軽い衝撃が走る。
 反射的に肩に視線を流すと、クラスメイトの土岐忍(とき しのぶ)が図々しくも俺の肩に手を載せていた。一年から同じクラスの土岐は良くも悪くも馴れ馴れしく、何かにつけて俺と一緒に行動したがる……。
「で、成果は――って、いつも通りか」
 土岐が明らかに面白がっている様子で神原さんに視線を馳せ、苦笑を浮かべる。
「まっ、いつものコトだ。気にすんな、空哉。後でオレが慰めてやるから」
「いつものコトだからほっとけ」
 憐れみの眼差しを寄越してくる土岐の手を邪険に肩から払い、俺は口元を歪めた。土岐のお節介は、俺にとって迷惑以外の何ものでもない。過去の経験から学習済みだ。
「おー、ツレないね。オレ、空哉のコト、スゲー心配してんのに」
 真実味のない軽やかな口調で告げ、土岐がめげずに肩に腕を回してくる。
「土岐、鬱陶しい」
「……萌えない」
 俺が土岐の腕を外すのと同時に冷ややかな呟きが耳を打った。
「萌えるシチュエーションのはずなのに――萌えない」
「――えッ?」
 俺は土岐の腕を掴んだまま咄嗟に神原さんを振り返っていた。
 微かな呟きは、神原さんの可憐な声だとしか思えなかったのだ。俺が大好きな神原さんの声を聞き間違えることなんてない。
 確かに神原さんは『もえない』と二度言った。
 ――も、もえない、って何だよ?
 神原さんは、俺に密着している土岐と俺が掴んでいる土岐の腕をしげしげと眺めていた。顔を僅かに傾げる仕種はめちゃくちゃ可愛い――けど、『もえない』の意味が俺には全く見当もつかなかった。
「今、何て言ったの、神原さん?」
「いや、ちょっと南海! 心の声、だだ漏れだからね!」
 俺と園生の声が交差する。
 途端、神原さんはうつつに立ち返ったのかハッと息を呑み、大きな目をしばたたいた。
「アラ……まあ、しょうがないわね。このままだと北条くん、来月も果敢に告白してきそうだし――」
 神原さんが思案するように目を閉ざし、小首を傾げる。
 サラサラと揺れる長い髪が綺麗で、こんな時でさえも目を奪われてしまう。
 神原さんの一挙一動に俺の鼓動は容易く高鳴る。
 彼女を見ているだけで幸せな気分に浸れるのだ。
「ごめんなさい、北条くん」
 短い沈黙の末に神原さんが瞼を跳ね上げ、真っ向から俺を見据える。
「わたし、3次元のオトコには興味がないの」
 神原さんの顔に天使のような笑みが広がる。
 だが、俺に向けられた双眸は全く笑っていなかった。


「――え? サンジゲンのオトコにはキョーミがない――ですか? 何ソレ? 一体、何の呪文?」
 神原さんの真意が測れずに、俺は唖然とした。
 ただ、意味は解らなくとも恐ろしく大きな衝撃と絶望を与えられたことだけは察することができた。
「じゃあ、そうゆうことなので――」
 ポカンと口を開けている俺を余所に、神原さんは満面の笑みを浮かべながら颯爽と踵を返してしまう。
「……そ、そーゆーコトってどーゆーコト?」
 ショックのあまりに喋り方が平淡になる。
 思わず説明を求めるように園生に視線をズラすと、彼女は決まり悪げに引きつった笑みを浮かべた。
「だから、そーゆーコトよ。うん……北条に落ち度はない。性格真面目すぎるけど、見た目だって世間一般的にはカッコイイ部類だし――まあ、相手が悪かったと思ってよ。あの子、2次元と2.5次元にしか興味がないから――」
 矢継ぎ早に言い繕い、園生は物凄い勢いで俺と土岐に背を向けた。そのまま猛ダッシュで神原さんの後を追いかけて行ってしまうのだ。
「ちょっ……待て、園生ッ! ますます理解不能なんだけどッ!!」
 慌てて園生を引き止めようとするが、薄情なクラスメイトがこちらを振り返ることはなかった……。
 2次元はまだしも――2.5次元って……?
 2.5次元だぞ?
 ソレ、何処の宇宙に存在してるんですか?
 ……有り得ない。

 2次元と3次元の狭間には一体どんな世界が広がっているのか、俺には塵ほども想像できなかった――
 


     「3.俺の好きな人の好きなモノ」へ続く


NK――単純な略でスミマセン(゚ω゚;A)
 
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2012.11.23 / Top↑
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