ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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3.俺の好きな人の好きなモノ



 予想外の展開に見舞われ、俺はしばし茫然と廊下に突っ立っていた。
 フラれることは――まあ、ある程度は予測していたけれど、『3次元には興味ない』と切り捨てられるとはこれっぽっちも考えてはいなかった。
 もちろん生まれて初めての経験だ。
 3次元に興味ない――って、つまりは俺の存在そのものの否定だよね?
 これまで何度告白しても困ったように微笑して『ごめんなさい』を繰り返していた神原さんが、今日に限って本音を露わにした。
 俺を目の前にしてハッキリスッパリ『興味がない』と。
 だから、もう二度と告白してこないでね、って意味だろう……。
 今後神原さんに告白できないなんて、俺はこの先の高校生活――何を楽しみに生きていけばいいのだろう?
 ……何も無い。
 俺は入学して以来、ずっと彼女のことだけを見つめてきたのだ。
 その彼女に拒絶されたことはかなりのショックだ。
 更に俺は、神原さんに出逢ってから約二年――大好きな彼女について殆ど何も知らないことに気がついた……。
 2次元やら2.5次元発言がなければ気づくこともなかったかもしれない。
 だが、否応なしに気づかされてしまったので、衝撃は倍増だ。
 遠ざかる神原さんと園生の姿を声もなく見送るしかない……。


「へえ、なるほどね」
 一段落ついたと判断した野次馬たちが去った後、土岐の感嘆混じりの呟きが耳に届けられた。
「何が?」
 俺が横目で見上げると土岐は含んだ笑みを口の端に刻み、俺を見返してくる。
「や、神原、あんなに可愛いのに入学当時から告白相手みんなぶった切ってるからさ、何でかなー、って不思議に思ってたけど――さっきので納得。そりゃ告られるコト自体、ウザいし、イイ迷惑だよな」
「……だから何が?」
「――――」
 土岐の言葉が何を示唆しているのか理解できずにもう一度問うと、土岐は面食らったように口をポカンと開け、目を瞠った。
 その反応が面白くなくて眉根を寄せると、土岐はようやく瞬きをし、口元を歪めた。
「空哉、おまえ……神原の言葉、伝わってないワケ?」
「おまえのその間抜けなリアクションの意味もな」
 俺が眉間の皺を深めると、土岐は盛大な溜息をついた。
「……神原のアレ、本人的にはすげーストレートっていうか、結構勇気あるカミングアウトしたと思うぜ。その点では蔑ろにされてないのかもしれないけど――つーか、寧ろ誠実に対応されたのか? まっ、当の本人に全く通じてねぇ、つーのは誤算だろうけど……。空哉、そっち方面、未知の世界だろーし」
「そっち方面も未知の世界も思い当たる節がないどころか、意味不明なんだけど」
 俺が嘘偽りなく応えると、土岐の顔には諦めのようなものが滲んだ。
「まあ、知らなくても全然問題ない世界だけどな。空哉が神原のコト好きなんだからしょーがないよな……。ってか、やっぱ諦める気はねーの?」
「ない」
 俺が即答すると土岐の唇からはまたしても溜息が零れる。
「神原が可愛いのは認めるけどさ、さっきも思いっ切りフラれたコトだし――他の子じゃダメなワケ?」
「神原さんじゃなきゃ意味がないだろ。俺が好きなのは神原さんなんだから。それに、今回は駄目だったけど、二十四回目には成就するかもしれないだろ」
「うわっ……来月も告る気かよッ!?」
「もちろん。それより――いい加減離れろ、土岐」
「や、離れろ――って、どっちかっていうとおまえがオレの腕を掴んでんだけど?」
 土岐にからかい混じりに指摘され、ようやく俺はその事実に思い至った。
 記憶を手繰ると、確かに邪魔な土岐を引き剥がそうと俺自らヤツの腕を掴んでいた……。
 神原さんによく解らない打ち明け話を話をされたので、何となく離すタイミングを失ってしまったのだ。
 土岐に対して自分のうっかりミスを認めるのは癪な気がして、俺は不機嫌さを隠しもせずにヤツの腕をパッと手放した。
「フラれた直後に言うのもなんだけどさ、二十四回目はナシだろ」
 解放された腕を軽く振りながら土岐が横目で俺を眺めてくる。声音には普段よりも真摯な響が宿っていた。
「諦めきれない。しかも、あんな不可解な理由じゃ納得できない」
「不可解に感じるのは、神原の愛する世界が空哉には全く想像できないからなんだけど――」
 答えを翻さない俺に再び諦念を抱いたのか、土岐は溜息を連発させる。
「確かにスバ抜けて可愛いし、性格もイイし、簡単に諦められないのも解るけど――おまえのライバルは相当手強いぞ、空哉」
「え? 何だよ、ソレ? ま、まさか神原さんにはとっくに好きな人がッ……!?」
「あー、そりゃいるだろ。2次元と2.5次元に。山ほど。それこそ腐るほど」
「や、山ほどッ……!? 腐るほどッ!? 神原さんを不当に貶めるなよ!」
 俺は怒りと驚きにキッと土岐を睨めつけた。
 あの清楚で可憐な神原さんが同時に複数の男に想いを寄せているなんて――到底信じられない。
 有り得ない。
 神原さんに限っては、そんなふしだらなコトは絶対に有り得ない!
 俺の知る神原さんは清い心の持ち主なのだから!
「貶めてねーよ。そもそもフィールドが違うし。つか、今、おまえが心配してるコトよりも、神原のカミングアウトをちゃんと理解した後のおまえのダメージの方が心配だわ……」
 土岐が気の毒そうな眼差しで俺を見遣り、また溜息を落とす。
「まるで神原さんのコトをよく知っているような口振りだな、土岐」
「神原のカミングアウトで気づかない空哉がニブイだけ」
「……俺の方が断然神原さんのコトを好きなのに、どうして土岐に理解できて俺ができないんだ?」
「好きだからじゃねーの? 恋は盲目――って言うし」
 俺の素朴な疑問に土岐が呆れ混じりに応える。
「俺、盲目――なのか?」
「盲目だろ。あの告白聴いても神原に清楚なイメージ持ってんだから」
 土岐の返答はにべもない。
 確かに、好きだからこそ無意識に美化している部分はあるのだろう。
 自分でもそれは何となく解っているけど、身近な人間から改めて指摘されると不安になる。神原さんだけを頑なに見つめ続けてきたあまり、俺は自分の理想とする『神原南海』像を勝手に彼女に押しつけていたのではないか、と……。
 だとしたら、さっき土岐が述べたように俺が告白することは神原さんにとって迷惑以外の何ものでもないに違いない。
 そこに思考が辿り着くと、自責の念が湧いてきて胸苦しさを感じた。
 好きな子を困らせ続けていたなんて最悪だ……。
「でも、まっ……そんなに神原のコトが好きなら、諦めろ――とは、もう言わねーけど。おまえの言う通り二十四回目に何か変化があるかもしれねーしな」
 ふと土岐が明るい声を発し、俺の肩を軽く叩く。俺がマイナス思考に陥りかけたことに気づいたのだろう。ホントに土岐は嫌になるくらい勘が鋭い。
「次、何か逆転する方法があればいーんだけどな。《WALTZ》の《ラブ・パラダイス》とかさ。アレ、マジで片想いに効果あるっていうしな」
「俺、そういう眉唾な話信じてないけど?」
 土岐の言葉に俺は眉根を寄せた。
《WALTZ》というのは、M市で高い人気を誇るケーキ店だ。松本伊緒オーナーを除き、店長以下全てのスタッフが美男子のみで構成されている変わった店でもある。
《WALTZ》には一つの伝説がある。
 一年に一度、二月十日にだけ販売される数量限定の幻のケーキ《ラブ・パラダイス》を食べると、片想い中の人は魔法にかけられたように恋が実る――というものだ。
《WALTZ》に行ったことはなくても、これくらいの情報は俺にも伝わってくる。三学期に入るとクラスの女子たちが必ず話題にするからだ。
 ただし、伝説のケーキは店側から厳しい箝口令が出されているらしく、その詳細は未だ謎に包まれている。運良くゲットできた者だけがその正体に迫れる仕組みらしい。
 恋愛成就――《ラブ・パラダイス》に本当にそんな効果があるのかは疑わしい。けれど、それで神原さんへ想いが届くのならば、手に入れてみたい気持ちも少しはある。生憎、今年の発売日はつい先日過ぎ去ってしまったばかりだけど……。
「けど、去年、ソレで園生は両想いになった――って噂だぜ」
「――え? たかがケーキで?」
「そっ。《ラブ・パラダイス》喰って、晴れて意中の相手ゲット!」
「ふ~ん……。ってか、アイツ、彼氏いるの!?」
「ええっ!? 知らねー方がビックリだっつーの。《ラブ・パラダイス》伝説のおかげでウチのガッコじゃ一躍時の人だったんたぜ。彼氏、イケメンだしな」
「は? イケメン? 園生の相手が?」
「そりゃあ《WALTZ》の店員だからな。背高いし、スッゲーカッコイイぜ」
 何故だか土岐が瞳を輝かせながら力説する。バスケ部に所属する土岐にとっては、長身であること自体が憧れの対象らしい……。
「園生の彼氏が《WALTZ》の店員? ……ゴメン、全く想像できないんだけど」
 俺は脳内で何度か園生の隣に《WALTZ》の制服を纏った長身美形を並べてみた。
 ――が、いくら頑張っても園生の横に美男子が立ってる姿を思い描けない。
 園生はごくごく普通の女子高生だ。容姿端麗でも頭脳明晰でもスポーツ万能でもない。性格も悪くもなければ飛び抜けて良いわけでもない。神原さんの友達でなければ、クラスメイトだとしても特に印象には残らないタイプだ。
 平凡な女子――そんな彼女が、《WALTZ》の美形店員と恋人同士だなんて驚きだ。腑に落ちない。それ以前に信じられない。
「とにかく園生が《WALTZ》の店員と付き合ってるのは事実だし、やっぱ何か不思議な効果はあんじゃねーの。おまえも今年《ラブ・パラダイス》争奪戦に参加すればよかったのにな」
「いや、ケーキ屋なんて行かないし」
「ああ、甘いもの苦手だもんなー、空哉。食べたコトないなんて、もったいねー。あそこのケーキ、世界のトシ・カブトヅカが作ってんだぜ」
「世界の――とか言われても全然知らないし。俺の世界に甘味は不必要」
「うわっ、おまえの世界狭いな! 《WALTZ》のスイーツ超美味いのになぁ。今度、《ラブ・パラダイス》の話聞きがてら園生に連れて行ってもらえよ。――っと、アレ? 噂をすればご本人様だ」
 残念そうに俺を眺めていて土岐の視線がフッと動く。
 同時に、
「北条ッッッ!」
 という叫びが廊下に響き渡った。
 見ると、さっき立ち去ったばかりの園生沙羅が険しい表情で駆け戻ってくるところだった。
 園生の表情が怖いのか、その勢いが凄まじいのか、廊下を行き交う生徒たちが慌てたように道を開ける。
 ――園生、フツーの女子のくせに無駄に体力ありすぎだろ……。
 髪とスカートを靡かせながら必死の形相で駆け寄ってくる園生の姿に軽く引いてしまう。
 駅前にある《蝦夷舞鮨》という寿司屋でバイトしているせいなのか、彼女は平々凡々な女子高生に似合わず意外と体力自慢だし、時々びっくりするくらいのバイタリティを発揮することがあるのだ。
「北条、ちょっ……待ってェェェッッッッッ!」
「……や、そんな大きな声で引き留めなくても待ってるし。ってか、園生の顔が恐ろしくて一歩も動けませんでしたけど?」
 俺が放った嫌味を気にかける余裕もないのか、園生は俺たちの目の前で立ち止まるとゼェゼェハァハァと肩で息をした。どうやら全速力で引き返してきたらしい。
「やっぱり、フェアじゃ……ないと、思って……!」
 荒い呼吸の隙を狙って園生が辛うじて言葉を発する。
「――何が?」
「北条、真面目だし頭もいいけど意外と視野狭いし意固地で頑固だしマイペースっていうよりも融通の利かない超堅物人間だから南海の言ったことちっとも理解してないんじゃないかって!」
 今度は息切れなんて感じさせない素晴らしい滑らかさで告げる。
 ……ちゃんと嫌味聞こえてたんだな。
 しっかりやり返してくるなんて、フツーの女子のくせに侮れん。
 園生の発言に隣で土岐がゲラゲラと笑い出す。
 物凄く不本意だけれど、俺に対する園生と土岐の見解は一致しているらしい……。
「だから、諦めるに諦めないだろうし、南海が言うところの2次元と2.5次元を知ってからこの先のコトを判断すればいいんじゃないかな――って」
「諦めるつもりなんて毛頭ないけど? 俺はずっと神原さんだけが好きだ」
「甘い。甘いわ、北条。南海が愛する世界を知れば、百年の恋も冷める可能性大よ!」
 園生がキッと顔を上げ、瞬きもせずに俺を見つめる。その双眸には何故だか切迫した輝きが灯されていた。
「けど、あの恐ろしく繁殖力の強い妖しの森を目の当たりにして――それでも、北条が南海を好きでいられるのなら、もう『諦めろ』とは言わないわ。逆に敬意を表して全力で応援する!」
「あー、そうなったらオレも全力で応援するわ。空哉が神原のテリトリーに足突っ込むなんて、卒業まで確実に退屈しねーし!」
 園生の言葉に土岐がまたしても下品な笑い声を立てる。
「南海が心酔する世界が何なのか知りたい、北条?」
「そりゃあ、大好きな神原さんの趣味趣向なんだから知りたいに決まってるだろ」
「よし、じゃあ、覚悟はいいわね。行くわよ!」
 返答を聞くなり園生は俺の片手をむんずと掴んだ。
 そのまま半身を返して廊下を歩き始めてしまうのだ。
「え? ちょっ……土岐ッ!?」
 咄嗟に俺は土岐を振り返っていた。視界に妙に爽やかな笑みを浮かべた土岐の顔が飛び込んでくる。
「オレ、これからバスケの練習だから。悪いけど付き合えねーわ。空哉のコト、ヨロシクな、園生! んじゃ、いってらっしゃーい」
 土岐がヒラヒラと片手を振る。
 部活があるのは本当だろうけど――完全に面白がってるな、土岐のヤツ……。
 神原さんの愛する2.5次元の秘密が解ったら、それがどんなに素晴らしいかとくとくと説明を施してやる! あの清楚で可憐な神原さんが惚れ込んだ世界なら、きっと清らかで儚くて幻想的な美しい世界に違いないのだから!
 俺は顔を元の位置に戻すと、前を行く園生に当然の疑問を発した。
「――で、何処に行くんだ?」
「決まってるでしょ! 南海の後をつけるのよ!」
 即座に迷いのない答えが返ってくる。

 斯くして俺は、フツーのクラスメイトと共に大好きな人の大好きなモノを探るべく大好きな人を尾行するという奇行に出ることになった――



     「4.青春+ボンゴレ=山梨×ルイさん!?」へ続く



 
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2012.11.27 / Top↑
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