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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.06[16:09]
 聖華学園旧校舎。
 四階にある美術室で、水柯たちは水妖と対峙していた。
 大急ぎで三階から四階へと移動し、美術室に飛び込むと、蒔柯の予想通りに水妖がいた。
 仄暗い美術室の窓際で、水妖は樹里を抱いたまま佇んでいる。
「樹里を離して!」
 開口一番、水柯は怒気を漲らせて叫んだ。
『嫌よ。この子はわたしのもの』
 対する水妖の返事はにべもない。
「樹里はモノじゃないぞ、この化け物!」
「幽霊には、生身の人間など必要あるまい」
 充が威嚇するように声を荒げ、直杉もそれに加担する。
『必要なのよ。だから、わたしの世界へ連れて行くわ』
 水妖は意地でも樹里をどこかへ連れて行く気らしく、彼を強く抱き締めた。
「おまえの世界だと? そんなものは端から存在していないのではないか。そもそも、おまえは――誰なのだ」
 直杉が両眼に鋭い光を閃かせて誰何する。
『わたしは水妖よ』
「違うでしょ!」
 聞き飽きた水妖の返答を、水柯は厳しくはね除けた。
 大切な樹里を強奪された怒りが、水柯を強気にさせている。
 得体の知れない存在が樹里に触れている事実が、たまらなく不愉快だった。
 樹里と引き離される危機感に、心は激しく怒号を打ち鳴らしている。
「あなた、ホントは水妖なんかじゃないんでしょ?」
 ――そうだ。水妖ではない。ルミだ。
 水柯は母の言葉を思い出していた。
 蒔柯は水妖のことを《ルミ》と呼んだのだ。
 かつて、この学園で自ら生命を断ったという少女――館林流水だ、と。
「あなたは流水なんでしょう!」
 水柯は物凄い剣幕で水妖に言葉を叩きつけた。
 館林流水が何者であるかは知らないが、水妖と名乗るものの正体が彼女であることはまず間違いない。
 それを肯定するように水妖が息を呑んだ。
『……そうね。ずっと昔、わたしは確かに館林流水と呼ばれていたわ』
 短い沈黙の後、水妖は諦めたように正体を暴露した。
「なんだ、やっぱりただの幽霊じゃないか」
 充が小さく舌打ちを鳴らす。
 それを無視して、水妖は水柯に険しい眼差しを向けた。
『けれど、どうしてあなたがそれを知っているの? あなたこそ何者なのよ』
 水妖の感情の伴わない双眸に見つめられて、水柯は恐怖よりも怒りを爆発させた。
 水妖の高圧的かつ超然とした態度が、妙に鼻についたのだ。
「わたし? わたしは聖華学園二年B組、貴籐水柯よ。父は貴籐聡、母は貴籐蒔柯。何か文句でもある?」
 半ば自棄になりながら、水柯は憤然と吐き捨てた。
『……き……とう?』
 不意に、水妖の顔が醜く歪む。
 喩えようのない哀しみと憎しみが、苦痛の刃と化して彼女の心を貫いたようだった。
『きとう――貴籐聡……。貴籐……まきえ。まき……え? 蒔柯……桐生――蒔柯』
 水妖が茫然と母の旧姓を口ずさむ。
「パパとママを知ってるの?」
 訊いてから、それが愚問であることに水柯は気がついた。
 知っているはずだ。
 蒔柯は流水のことを同級生だと言っていたのだから。
 水妖はしばし放心したように、昏い眼差しで水柯を眺めていた。
 その顔が、また急に激しく歪む。
 同時に邪悪で陰鬱な空気が室内に充満した。
『ああ……あああ、いやっ。いやよっ。嘘だわ。あなた……あなた、あなた――』
 水妖の口から狂ったような悲鳴が迸る。
 憎悪に濡れた眼差しが水柯を射抜いた。
『貴籐先生と蒔柯の子供なのぉぉっっ!?』
 怨念の塊のような絶叫が室内を揺るがす。
 水妖の豹変と彼女が憤慨する理由が把握できずに、水柯はただ唖然と頷いた。
『蒔柯……ま……きえ……まき……え……まきえぇぇぇぇっっっ!』
 水妖の口がグワッと裂け、喉の奥から血を吐くような咆吼が放たれた。



 
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