ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 旧校舎一階――北階段の脇にある中庭へと繋がる扉は、拍子抜けするほど容易く開いた。
 開いたというよりも、水妖が開けてくれたのだろう。
 施錠されているはずの扉は、水柯たちの到着と同時に自動的に口を開いたのだ。
 水妖の不可思議な力が作用しているとしか思えなかった。
 暗に水妖は『三人がかりでも樹里は取り返せないわよ』と、水柯たちを挑発したのだ。
「ナメた真似しやがって!」
 充が唾棄するような勢いで水妖を罵る。
「だが好都合だ」
 至って冷静に告げ、直杉が先陣を切って外界へ身を進めた。
 水柯と充も後に続く。
 降りしきる雨の中を噴水目がけて疾駆する。
 雨は静けさと冷たさを保ちながら絶え間なく地上に降り注いでいた。
 当然、月はまだ出ていない。
 闇と雨に覆われた世界で、水妖は余裕の笑みを浮かべて待ち構えていた。
 噴水の縁に立ち、片手だけで樹里をしっかりと抱いている。
「樹里を離しなさいよ!」
 水柯は水妖に向かって猛然と突進した。
 意識は樹里を取り返すことだけに集中している。
『嫌よ。この子は渡さない』
 水妖の片手がスッと天へ向けて伸ばされる。
 ザザザザザッッッ!
 その瞬間、噴水の水が膨れ上がり、螺旋を描いて闇を舞った。
 刃物のような鋭い輝きを放ち、水の矢が水柯に襲いかかってくる。
「な、何なのよっ!?」
 突然の出来事に立ち竦んだ水柯の眼前に、ドリルのように渦を巻く水の先端が迫り来る。
「水柯!」
 水妖の驚異的な攻撃の中、直杉だけがその迫力に圧倒されずにいた。
 彼女は持ち前の瞬発力を活かして水柯に駆け寄り、その身体に飛びついた。
 勢いよく、水柯もろとも泥水だらけの芝生を転がる。
 ズサッ!
 僅かの差で、つい先ほどまで水柯が立っていた地点に水矢が突き刺さった。
 その威力は絶大だ。
 地面を深さ一メートル、長さ三メートルほど抉っている。
 あれをまともに食らっていれば、即死していたかもしれない。
 想像して、水柯はゾッとした。
 自分たちが今、とんでもない脅威に晒されているのだということを痛感した。
「つっ……!」
 不意に直杉の唇から苦悶の呻きが洩れる。
「ナオちゃん、大丈夫?」
 攻撃を受けた芝生の惨状から視線を引き剥がし、水柯は直杉を見遣った。
 直杉は右足首を両手で押さえて蹲っている。
「心配ない。足を掠めただけだ」
 直杉が微かな笑みを浮かべ、平気だということを誇示するように自力で立ち上がる。
「このバカ、折れただろ!」
 すかさず充が飛んできて、直杉の肩に手を回す。
 水柯の耳にもしっかりと聞こえてしまった。直杉が立ち上がった瞬間、雨音に混じって骨の砕ける鈍い音が響いたのを……。
 水柯は全身泥まみれの状態で起き上がり、泣きそうな顔で直杉の足を見つめた。
 直杉の右足首から下は不自然にソッポを向いている。
「わたしのせいだわ……。ゴメン……ね」
「水柯が謝ることではないし、骨折など大したことではない。園田も手を離せ」
 骨の砕けた痛みなど微塵も感じさせぬ凛然とした声で直杉は断言した。
 充の腕もあっさりはね除ける。
「バカか、おまえ」
「阿呆に馬鹿呼ばわりされる所以はない。早く離れろ。固まっていると、三人まとめて標的になるだろう!」
 直杉は珍しく声を張り上げて叱咤した。
 それを受けて、水柯と充は素早く視線を交差させた。
 直杉の指摘は正鵠を射ている。
 密集していれば、水妖のただ一度の攻撃で全員が木っ端微塵になってしまうだろう。
 だが、負傷した直杉を放っておくつもりは毛頭ない。
「充くん、行くわよ」
「了解、水柯ちゃん」
 頷き合って、水柯と充は両側から直杉の腕をがしっと支えた。
「痛いかもしれないけど我慢してね」
 そう前置きして、直杉の身体を十センチほど地表から浮かせると、二人はそのまま猛ダッシュを開始した。
「このっ、底なしの阿呆どもが!」
 直杉から抗議の声があがる。
 転瞬、
 ズザザザザザッッ!!
 二秒前まで三人がいた地点に、水妖の攻撃が炸裂する。
 そこより数メートル離れた場所で、水柯と充は恟然と足を止めた。
 ズサッ!
 と、目前にも水の槍が飛んできたのだ。
『逃げても無駄よ』
 水妖がせせら笑う。
 水柯は全身に雨と冷たい汗を滴らせ、水妖を顧みた。
『水は、わたしの友達。この昏く冷たい噴水の中で、わたしの唯一の共鳴者だった』
 水妖が暗鬱な双眸をスッと細める。
 ゴオォォォッッ!
 唐突に噴水の水が唸りをあげた。
 水妖の背後で水が高波のように一気に盛り上がる。
『あなたたちも伝説通りに死になさいよ』
 水妖の片手がスッと持ち上がる。
 最後の制裁が三人に加えられようとしていた。
 水妖の腕が振り下ろされようとした瞬間、
「やめなさい、流水!」
 鋭い制止の声が中庭に響き渡った。




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2009.06.06 / Top↑
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