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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.06[16:25]
 水妖の前に昂然と両手を広げて立ちはだかったのは、貴籐蒔柯だった。
 その隣には白金髪の美しい女性もいる。
「ママッ!」
 水柯は嬉しさに目を輝かせた。
「――と、樹里の母親?」
 充が解せない様子でボソッと呟く。
「約束通り、助けに来たわ」
 蒔柯は娘を振り返って微笑むと、すぐに視線を水妖へと戻した。
「あなた、流水なんでしょう?」
『……まき……え』
 水妖は蒔柯の姿を確認するなり、愕然としたように目を瞠った。
 一時的に戦意を喪失したのか、彼女の背後で水が音を立てて引いてゆく。
『蒔柯……本当に蒔柯なの?』
 水妖の瞳から涙が零れ落ちた。
 それは美術室で見せたような怨恨の涙ではなく、心から再会を喜んでいるようなものだった。
「ええ。あなたの親友の――桐生蒔柯よ」
 蒔柯が優しく微笑み、ゆっくりと前進する。
 水柯は新たな事実の発覚に声もなく驚いていた。
 同級生だと聞いてはいたが、まさか親友同士だとは思ってもみなかったのだ。
『よく来てくれたわね。ずっと待ってたの。あなたか貴籐先生が逢いに来てくれるのを――』
「遅くなって、ごめんなさい。あなたの魂は、まだこの世を彷徨っていたのね」
『ええ。歳を……とったわね、蒔柯』
 水妖の双眸から止めどなく涙が流れ落ちる。
 眩しげに目を細めて蒔柯を見つめ、彼女はぎこちなく微笑んだ。
『でも、わたしは昔のまま……。わたしだけ時が止まっているのね。ねえ蒔柯、わたし、どうしてこんな化け物になってしまったの?』
「……解らないわ。ごめんなさい。十七年間、考えもしなかったの。まさか、あなたが水妖になっているなんて」
 水妖と蒔柯はじっと互いを見つめ合っている。
 水柯たちには解らぬ会話を視線だけで交わしているようだった。
 中庭に静謐な刻が舞い降りる。
 しかし、
「樹里っ!」
 耳をつんざくような悲鳴が、それを打ち砕いた。
 蒔柯の脇をサラが擦り抜けたのだ。
「樹里を返してっ!」
 普段のサラからは想像もできないほど取り乱した姿で、彼女は水妖に向かって駆けてゆく。
 意識のない息子を目の当たりにして、気が気ではなくなったのだろう。
「サラ、流水を刺激しては駄目よ」
 蒔柯が焦燥も露わに注意する。
 だが、それはサラの耳には届かなかったようだ。
「樹里を返して。私の息子よ!」
 サラが必死の形相で水妖に掴みかかる。
 ギラリ、と水妖の両眼が青白く輝いた。
 再び憎悪の炎が燃え上がる。
『この子は、わたしの子供よ。誰にも渡さないわ!』
 先刻までの穏やかな表情とは打って変わった悪鬼の形相で、水妖はサラを睨めつけた。
 無数の水の鞭が噴水から出現し、サラの顔や腕を鋭利に切り裂く。
『この子はわたしの子供なの』
「冗談じゃないわ! 樹里は私の子供よっ!」
 水の鞭で嬲られながらも、サラは水妖から離れようとはしなかった。
 サラの腕から飛び散った鮮血が、樹里の頬を打つ。
 樹里の瞼が微かに震えた。
『離れなさい。汚らわしい!』
 水妖が叫ぶのと、樹里が目覚めるのが同時だった。

     *




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