FC2ブログ
管理画面
ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.06.06[19:47]
 冷たい風が吹いている。
 風に誘われるようにして、無数の黄砂が宙を飛び交う。
 目の前をよぎる砂塵が、少年の輝く白金髪をフードから引っ張り出し、風に乗せた。
「……酷いな」
 風に翻弄される髪をフードの中に押し込み、マスクを鼻の上まで引き上げ直しながら、少年は率直な感想を洩らした。
 唯一フードから覗く翡翠色の双眸は、憂いに満ちている。
 辺り一面の荒涼とした風景を目の当りにしたからだ。

 見渡す限りの砂漠。

 草木の姿など何処にも見当たらず、今にも崩れ落ちそうな砂岩の群れだけが虚しく立ち並んでいる――そんな大地だった。
 ――この地は荒んでいる。
 少年は、頼りなげな砂の感触を足下に覚えながら歩を進めた。
 もう半日以上も、こうして荒廃した大地を歩き続けている。
 砂漠に足を踏み入れる直前、食料と水の補給の為に立ち寄った村では、この砂漠が以前は『緑豊かな沃土』だったと教えられた。
 二十年前ほど前に勃発した大戦の際、近隣の町や村は戦火に焼かれ、大地も炎にまみれた。
 大火は十日以上も鎮火せず、その間に町や村、人々を呑み込み、緑を食い尽くした。
 残ったのは、荒れ果てた枯れ野のみ……。
 戦乱が終結しても痩せこけた大地を復興する動きは起きず、放置された地はこの二十年足らずで急速に砂漠化したのだという。
 少年がこの世に生を享けたのは、戦争が終結する間際のことだった、と、彼は育ての親から聞かされていた。
 だから、少年はその戦争を直接知りはしない。
 大人たちの口から間接的に、曖昧な事実を入手したに過ぎないのだ。

 約二十年前に起こった大戦争。
 ロレーヌ地方で巻き起こった戦は、大陸中に驚愕と戦慄をもたらした。
 ロレーヌが、キール、イタール、カシミアの三国に分裂し、『平和協定』を締結してからおよそ千二百年後――その『平和協定』が史上初めて、公に破棄されたのである。
 カシミアがロレーヌ全土を支配しようと目論み、他の二国を裏切ったのだ。
 一年半に渡る『ロレーヌ戦争』は、カシミアの勝利によって終焉を迎える……。
 ロレーヌ三国はカシミアによって統一され、カシミア王ラパスによる冷徹で悪辣な政が、今もなお続いていた。

『血と殺戮のロレーヌ戦争』と大人たちが口を揃えて語る戦争について、少年が得た知識というのは、その程度のことである。
 一ヵ月前、少年は大陸一般で『成人』と呼ばれる一八の誕生日を迎えた。
 その日、少年は育ての親から実の両親のことと、少年の故郷がロレーヌであることを告げられた。
 養父母は、両親の遺品を少年に託すと『ロレーヌへ行きなさい。そこに、おまえの《運命》が待っている』と言い残し、この世を去った。
 少年の誕生日に、養父母は得体の知れぬ暗殺者達に襲われたのだ。彼らは生命を懸けて少年を護り、逃がしてくれた……。
 出生の秘密。
 謎の襲撃者。
 養父母の遺言。
 信じられぬような出来事を記憶に抱えて、少年はやってきた。
 己れの《運命》が待つというロレーヌに――
 だが、訪れた故国は、無残にも頽廃の道を辿っていた……。
 この滅びへと進みゆく地に、何が待っているのか、少年には見当もつなかった。



← NEXT
→ BACK
 


ブログパーツ
スポンサーサイト



 
Category * 鬼哭の大地
編集[管理者用] このページのトップへ

 

 
Copyright © 2020 言葉のさざなみ, all rights reserved.