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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
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Sun
2009.06.07[08:43]
     *


 時を同じくして、炎天・綺璃は黒い霧の中で一人の男と対峙していた。
 眼前の人物を『男』と呼ぶのは、些か奇妙な感じがする。彼の見目はあまりにも美しすぎるのだ。他に類を見ないほどの美貌の持ち主だ。
 光の加減によっては深い緑にも見える、流れるような黒髪。癖のない黒髪に縁取られた頭部には、黄金細工の冠が載せられていた。冠を戴けるということは、高位の天神であることを示している。
 女性のように妖冶な麗容には、皮肉めいた微笑が浮かんでいた。闇の分身のような漆黒の双眸は、彼の冷徹さを表すように冷たい光を宿している。
 彼こそが天王に叛旗を翻した張本人――紫姫魅天である。
「久し振りだな、綺璃」
 紫姫魅が冷ややかな微笑をそのままに、静かに言葉を紡ぐ。
 容姿に見合った美しい声が、綺璃の耳をくすぐった。
「……鞍馬に何をした?」
 綺璃は炎の如き深紅の目で紫姫魅を睨めつけた。紫姫魅に対する怒りが胸中に渦巻いている。
「何もしてはいない。私の城で鄭重に預かっている。――おまえ次第だ」
 紫姫魅が緩やかな足取りで歩み寄ってくる。
「それは――どういうことだ?」
「おまえ次第だと言っているのだ」
 訝しさに眉根を寄せた綺璃に対して、紫姫魅が唇に弧を描かせる。綺璃の反応を愉しんでいるのだろう。
「何を企んでいる?」
 綺璃は間近に迫った紫姫魅の顔を正面から見据えた。
「取引だ。鞍馬天と――七天の生命のな」
 紫姫魅の酷薄な眼差しが、臆することなく綺璃の視線を受け止める。
 その氷の刃のような冷ややかさと鋭さに、綺璃は一瞬ゾッとした。背筋に嫌な緊張が走る。
 紫姫魅は『鞍馬を助けたければ、七天の誰かの首を持ってこい』と仄めかしている――いや、脅迫しているのだ。
「馬鹿な……! 俺に仲間を殺せと言うのかっ!?」
「心底、鞍馬天が大切ならばな。彩雅などは、おまえのためならその生命くらい容易く差し出してくれるのではないか?」
 紫姫魅が揶揄するように告げる。
 その言葉に、綺璃は眉を跳ね上げた。自然と怒りの炎が強さを増す。
「彩雅はそんな男ではない!」
「それは、おまえがそう思いたいだけであろう。あの美しき氷の王は、おまえと水鏡のためなら喜んで私の足許に跪くだろう。その白い首を晒し、自ら刃を当てることも厭わないだろうな」
 紫姫魅の唇からは、何かの呪の如く嘲りの言霊が紡がれる。
「そうさせたのは紛れもなく――おまえだ、綺璃」
「……黙れ」
「《友》とは、随分と便利な言葉だな。心を掻き乱す訳の解らぬものは、全てそこへ押し込んでしまえばよい。結果、彩雅を深淵の闇へと突き落とし――」
「黙れっ! 貴様の戯れ言など聞きたくはないっ!」
 綺璃は瞳に怒気を漲らせ、紫姫魅の声を荒々しく遮った。己の裡から放出される激怒に呼応し、紅い髪がゆらゆらと揺らめく。
 綺璃は紫姫魅を見据えたまま、腰に携えている剣へと手を伸ばしかけた。
「私を殺しても、鞍馬はおまえの元へは帰ってこないぞ」
 紫姫魅の一言に、ピタリと手が止まった。
「貴様っ……!」
「さあ、綺璃、どちらを選ぶ? 鞍馬の死か――それとも七天の誰かの死か?」
 紫姫魅が玲瓏たる声で、妖魔のように甘く囁く。
 綺璃は歯噛みし、しばし思考を巡らせた。
 どちらか一方を選ぶことなど到底不可能だ。
 不甲斐なさと口惜しさに、両の拳をきつく握り締める。
 まんまと紫姫魅の術中に嵌ってしまったのだ。
 悔しいことに、紫姫魅は綺璃という人物をよく把握しているらしい。
 綺璃は、妻である鞍馬を愛している。
 そして、仲間である七天のことももちろん大切に想っている。
 綺璃の彼らに対する愛情を紫姫魅は利用したのだ。
「……俺には出来ない。そのどちらとも――」
 綺璃は唇の戒めを解くと、低く唸るような声音で回答を述べた。
 瞬時、紫姫魅の双眼が鋭く輝く。
「そうか――では、おまえが死ね」
 残忍な笑みが美貌に花開く。
 紫姫魅が流麗な動作で鞘から剣を引き抜く。
 煌めく白刃を綺璃は他人事のように見つめていた。剣を取り、防御する気は元よりなかった。
 紫姫魅が綺璃の胸目がけて冷酷に剣を繰り出す。
 己の髪よりも紅き飛沫が視界を彩った――



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