ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ……カツン……カツン、カツン、カツンッ!
 湿気の多い地下道に、忙しげに踵を打ち鳴らす音が響く。
 細く暗く狭い通路を、二人の人間が足速に歩いていた。
 唯一の灯りである松明を手にするのは、背骨の折れ曲がった白髪の老人。
 もう一人は豪奢な金の髪を靡かせた、少年とも少女ともとれる美貌の持ち主だった。
「――あの馬鹿っ! 何を考えている!?」
 黄金の麗人の唇から、不意に苛立たしげな声が吐き出された。
 揺れる松明の炎が、美しい顔を照らし出す。
 研ぎ澄まされた碧い双眸が、怜悧に輝いた。
 その瞳の奥に宿るのは、明らかな憎悪だった。
「お静かに。カシミア兵に見つかりますぞ」
 嗜めるように、老人が低く呟く。
「解ってる! ――くそっ!」
 老人の声を遮るように、黄金の麗人はブーツの踵を激しく打ち鳴らした。
「アガシャ、父上や母上は、無事に城を抜け出せたのだろうな?」
「……解りませぬ。爺は、あなた様の脱出を承っただけですので」
 老人――アガシャは、皺だらけの顔に何の表情も浮かべずに淡々と述べた。
「何……だと?」
 ピタリ、と麗人の足が止まる。
「地下道の出口で落ち合う手筈になっている、と言ったのは、おまえだぞ?」
「城を抜け出すのは、あなた様お一人です」
「騙したな。――城へ引き返す!」
 あくまでも冷静なアガシャの言葉に業を煮やしたのか、黄金の麗人は長い髪を翻して踵を返した。
「なりませぬっ!」
 その様子に、初めて老人の声に焦燥が宿る。
「黙れっ! 私に、父上と母上を見捨てろと言うのかっ!? 兄上たちは、どうなるっ?」
 憤怒の叫びが地下に響き渡る。だが、アガシャは引かなかった。
「どうか、そのことは考えませぬよう――」
「うるさいっ! 城へ戻り、私が……あのラパスの首を獲ってやるっ!」
「なりませぬっ! 姫様、どうか、どうか――」
 今にも駆け出しそうな麗人の腕に、アガシャの腕が絡み付いた。
「姫様、これは王命でございます。姫様には、今宵王城を脱出し、イタールへ赴き、イタール王に援軍を要請する、という大役がございます」
「私に……この私に、キールを捨てろ、と言うのかっ!?」
「姫様! ……姫様、どうか冷静におなり下さい。ご自分が何者であるのか、よくお考え下さい。姫様、あなた様は誰ですか?」
 アガシャが掴んだ腕を放すまい、と手に力を加えてくる。
「私は……私は、ギルバード・アーナス・エルロラ――キールの王女だ」
 苦々しげに、麗人――アーナスは言葉を紡いだ。
「そうです。姫様はキールの王女殿下であられます。そして、父上である陛下の命令には絶対服従のはずです。……陛下も王妃様も、姫様に生き延びてほしいとお望みです。キールは、姫様を失うわけにはゆかないのですよ。姫様は、キールの希望――全能神エルロラの恩寵を賜った女神なのですから」
「…………」
 アガシャの諭すような言葉に、アーナスは唇を噛み締めた。



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2009.06.07 / Top↑
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