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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
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Sun
2009.06.07[10:54]
     *


「アーナス様、アガシャ様! こちらです!」
 地下道を抜け出たアーナスとアガシャを待っていてたのは、一人の少年だった。
 健康そうな褐色の肌に漆黒の髪と瞳がよく映えている。
 腰にはしっかりと剣が二本携えられ、その手には三頭の馬の手綱が握られていた。
「待たせたな、ルーク」
 地下の出口から外界へと飛び出したアーナスは、少年の姿を確認し、微笑した。
 少年の名は、ルーク・ベイ。
 アーナスが信頼する従者だ。
 弱冠十四歳のルークだが、アーナスへの敬愛の念と剣の腕は確かなものだった。
「本当ですよ、アーナス様。僕、来ないんじゃないかと思って、気が気じゃなかったんですから!」
 ルークは早口で言いながら、アーナスに手綱を引き渡す。
 口調は幾分非難めいているが、顔はアーナスの登場を心から喜ぶように綻んでいた。
「いやいや、すまんな、ルーク。この爺が、姫様の足を引っ張ってしまったようじゃ」
「いいんですよ、アガシャ様。二人ともご無事だったんですから」
 申し訳なさそうに言葉を口にするアガシャを馬に乗せながら、ルークはまた早口で告げた。
 一刻も早く、しかもカシミア兵に見つからぬようにこの場を去り、イタールへ赴かなければならないのだ。
 否が応でも心が急いてしまう。
「王都から離れているとはいえ、油断は出来ません。先を急ぎましょう」
 ルークが馬に飛び乗り、アーナスを振り返る。
 だが、アーナスは返答しなかった。
 馬上で目を見開き、瞬きもせずにじっと遠くを見つめていた。
「王都が――マデンリアが燃えている」
 唇が、独白めいた呟きを洩らした。
 王城から続く地下通路は、王都から五キロほど離れた森が出口となっている。
 その森の中からでも、赤々と燃える炎が見えたのだ。
 巨大な炎が、王都を包み込んでいた。
 夜空に火の粉が舞い上がっては、闇に溶けるようにスーッと消えてゆく。
 遠目には美しいが、それは紛れもなく全てを焼き尽くす悪魔の炎だった。
 美しい分、残酷――
「……キールが……ロレーヌが……」
 ――ラパスに蹂躙されてゆく……!
 言い様のない激怒が、アーナスの胸中で渦巻いていた。
 愛する故国と人々が無残にも踏みにじられている。
 しかし、今の自分には、それを手をこまねいて見ていることしか出来ないのだ。
 そんな自分が不甲斐なく、情けない。
「アーナス様、早く!」
 ルークが、動かないアーナスを叱咤するように声を大きくする。
「解ってる! だが、マデンリアが――」
 燃え盛る炎が、アーナスを呪縛して離さなかった。
 援軍を頼みにイタールへ行くのだと頭では理解していても、その傍らで『おまえはマンデリアの人々を見殺しにするのだ』と、鋭く自分を責める感情が存在していた。
「今、姫様一人がお戻りなっても、状況は何も変わりはしませんよ」
 アーナスの心情を汲み取ったのか、アガシャが宥めるように告げた。
 アーナスはアガシャに視線を流し、一つ頷く。
 ――アガシャの言っていることは、正しいのだ。
 そう自分自身に強く言い聞かせ、アーナスは再び王都を顧みた。
 相変わらず、深紅の炎が夜空を踊り狂っている。
「私は、絶対にこの光景を忘れはしない」
 低く呟き、アーナスは馬首を巡らせた。
 もう、後ろは振り返らない。
 後戻りは出来ないのだ。
「行きましょう、アーナス様。カシミアの奴らに見付かったら、厄介で――」
 促すルークの声に、
「そこにいるのは、誰だっ!?」
 突如として、野太い男の声が重なった。
 三人は、一斉に声の聞こえた方角に視線を馳せた。
 林立する木々の隙間から、松明の赤い炎がチラチラと覗いている。
 更に松明は、鎧を身に付けた複数の人間の姿を朧げに照らし出した。
「何者だっ!?」
 鋭く誰何しながら、兵士達が接近してくる。
 旗手がはためかせているのは、カシミア国旗。
「あ~あ。言った傍から、これだもんなぁ」
 翻る忌まわしい旗を目にした瞬間、面倒臭そうにルークがボヤいた。
 だが、双眼は真摯な輝きを帯び、両の手が音も立てずに鞘から剣を抜き取っていた。



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