ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 一方、アーナスとルークは、まだ戦闘の渦中にあった。
 ――とは言っても、既に大半が片付き、後は主格とそれを護衛する二人を残すのみとなっている。
「アーナス様、一人で突っ走るのはやめて下さい――ねっ!」
 語尾に格別力を込めながらルークは叫んだ。
 叫びつつ、向かってくる護衛の攻撃を右のレイピアで受け止め、左のレイピアで恐ろしいほど正確に心臓を一突きにする。
「ぐあぁぁぁっっっ!!」
 護衛の口から悲鳴と鮮血が迸る。
 ルークは絶息した護衛の身体を容赦なく蹴飛ばし、突き刺したレイピアを男から引き抜いた。
 ブシュッッッ!
 男の胸から噴水のように血飛沫が噴き上がる。
 間一髪、頭から血の雨が降り注ぐのを躱わし、ルークはアーナスに視線を馳せんじた。
「小言は後だ、ルーク!」
 アーナスは馬の背に乗ったまま、残る一人の護衛の相手をしていた。
 カシャン……!
 カンッ、カンッ、ガツッ!
 剣と剣の打ち合う音が高く低く響く。
「貴様ぁっ! 不貞不貞しくギルバード・アーナスの名など騙りおって!」
 護衛が罵りながら剣を打ち出す。
 瞬時、アーナスは嫌悪に眉を顰めた。
 敵であるカシミア兵ですら噂の中のアーナスに夢見ている。
 幻想を抱いている。
 一体、どのような人物なら『ギルバード・アーナス・エルロラ』に相応しいというのだろうか?
「不愉快だ。名乗れと言ったのはそっちだろっ! 自分の名を告げて、何が悪いっ! ローラ、その力、見せてやるがいい!」
 アーナスは無造作に剣を振るった。
 アーナスの呼びかけに応じるように、透明な刃は澄んだ青い冷光を纏う。
 転瞬、刀身から半月を描く青い光の刃が放たれた。
「ぎゃあぁぁっっ!」
 予期せぬ攻撃に護衛は驚き、咄嗟に地面に尻餅をつく。
 男の頭上を光の刃が神速の如く駆け抜け、背後の木を数本薙ぎ倒し、消散した。
「情けはかけぬ!」
 アーナスは素早く馬から飛び降りていた。
 宙を降下する短い間に剣を逆手に持ち替え、尖端を護衛の胸へと狙いつける。
 ドスッッ!
 落下速度と体重が加わり、重く鋭い剣は見事に護衛の心臓を打ち抜いた。
「ぎえぇぇぇぇっっっっっ!!」
 護衛の口から断末魔の叫びが飛び出し、すぐに途切れる。
「……身の程知らずが」
 ピクリとも動かなくなった護衛を冷たい眼差しで見下ろし、アーナスは酷薄に言い放った。
 返り血を浴びるのも構わずに剣を引き抜く。
 まだ温かい血液が、アーナスの全身を朱に染めた。
「残るは、おまえ一人だな」
 アーナスは、護衛との戦いを茫然と見つめていたらしい男に視線を当てる。
 ローラを水平に一振りし、刃を濡らす血を払拭すると、ゆっくりと男に近付いてゆく。
「あっ……あ……黄金の髪……碧い双眸……光り輝く宝剣――きっ、貴様、本当に、あの伝説の……エルロラ神の申し子……ギルバード・アーナス・エルロラなのかっ!?」
 男は、恟然と目を見開いてアーナスを凝視していた。
 自分が今、目にしているものの存在をすぐには信じられないようだった。
「だから、一番最初に名乗っただろう!」
 苛立たしげに男を睨めつけ、アーナスは男の咽喉元に剣を突きつけた。
「まっ、待てっ! 貴殿が本物のアーナス殿下なら、我々が殺し合う必要はない。ラパス陛下は、貴殿だけは『生きて捕らえよ』と命じられた。きっと、陛下は快く貴殿を迎え入れて下さることだろう。だから、どうか……剣を――」
 男は狼狽も露に、顔を引きつらせながら後退るのだ。
「……貴様、頭が悪いのか?」
 アーナスの唇の端が小刻みに震える。
「生きて捕らえよ? 快く迎える――だと? これから死にゆく男が何を世迷言を! 生命乞いするならまだしも、この期に及んで慇懃無礼なっ! そのような言葉は、己れが有利な時に使うものだ! それに、私は――死んでもラパスのものにはならぬっ!」
 空を揺るがす怒号がアーナスの口から放たれる。
 鋭利な眼光を宿した碧い双眼が、男を射抜いた。
 その、あまりの凄絶さに男は身を竦めて震えた。
 女神の逆鱗に触れたことを悟ったが、時既に遅し……。
 男の目の前では、神剣ローラが青白く輝き始めていた。
「ついでに言っておくが、私は、我がキールの人々を無残に焼き殺しているカシミアを――絶対に赦しはしないっ! あの世で、言葉の遣い方をもう一度習ってくるんだな!」
 シュッ!
 言い終えると同時に、アーナスはローラを真横に薙ぎっていた。
 ガツンッ!
 鈍い音がして、男の首が胴から離れ、回転しながら宙を飛ぶ。
 半瞬遅れて、首の断面から血の柱が噴出される。
 次に、緩やかに男の身体が仰向けに地面に倒れ、切り離された首がその傍らに虚しく転がった。



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2009.06.07 / Top↑
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