ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「あ~あ……全身、真っ赤っか! とても、一国の王女には見えませんね、アーナス様」
 戦闘終了を確認して、ルークが傍へ寄ってくる。
 既に二つのレイピアは鞘に納められ、両手はアーナスに対する呆れを示すように頭の後ろで組まれていた。
「軽口を叩くな、ルーク」
 アーナスは僅かに唇を尖らせながら、ローラを鞘に納める。
「まったくですな。そのお姿を、これから訪ねるイタールのあの方が目にしたら、さぞかし嘆かれるでしょうに」
 いつの間に接近していたのか、アガシャまでもが皮肉げな言葉を投げてくる。
「ほっとけ!」
 アーナスは肩を竦め、唇をへの字に結んだ。
 主に対して物怖じもせずに言いたいことを言う従者を二人も持つと、苦労するものだ。
 もっともアーナス自身、率直にものを言う、そんな二人を気に入っているのだからしょうがないが。
 この二人は、自分を『人間』として扱ってくれる。
 それが有り難かった。
「怖い、怖い。華麗にして大胆。優美にして苛烈――な~んて、誰が言ったんだろうね? まっ、大胆で苛烈なのは、事実だけ――」
「ルーク!」
 ジロリとアーナスに凄まれて、ルークは慌てて口を閉ざした。
 愛想笑いで、その場を誤魔化す。
「まあ、ルークの言葉は正しいけどな。優雅とか麗雅とかいうのは、人々が勝手に作り上げた偶像の私だ。本当の私は――こんなんだ」
 アーナスは厳しい顔を緩めて、自嘲の笑みを浮かべた。
 自分を崇拝する人々が血塗れのこの姿を見たら、さぞかし驚き落胆することだろう。
 想像する慈愛に満ちた女神ではなく、冷徹な殺戮の女神を認めることになるのだから……。
 ――私は、女神の仮面を被った悪魔だ。そう民が望んでいる。
 人の心というのは、不可解なものだ。
 アーナスに光の女神としての崇高さや慈愛を夢み、その反面では戦に勝利すること――血塗れの戦士としてのアーナスをも要求している。
 そして、どちらも同じだけ望んでいるのに、表立って認め、喝采を贈ってくれるのは、光の女神としての部分だけなのだ。
 血染めの戦士である部分は、民の心からは綺麗に拭い去られている。
 おそらくは無意識的に……。
 民を侮蔑する気も軽視する気もないが、それを考えると奇妙な苦笑いが込み上げてきた。
「そんなアーナス様だから、僕は好きですけどね」
 ふと、ルークが満面の笑みをアーナスへ向けてくる。
「爺もですぞ」
 アガシャも、珍しく語調を強めてルークに同意した。
 それに対しアーナスは、照れ隠しのように手で髪を掻き上げただけで、何も言葉を返さなかった。
「予定外の行動で時間を取ってしまいましたな。――さあ、姫様、先を急ぎますぞ。イタールには、姫様の大切なあの方が待っていますからな」
 アガシャの言葉に、アーナスの心臓は一瞬高鳴った。
「……そうだな」
 我知らず、表情が穏やかになる。
「逢うのは一年振りだ――」
 懐かしげに告げて、瞼を閉ざす。
 闇の中に、翡翠色の瞳の青年が浮かんだ――


 イタールは、まだ遠い……。



     「2.偶像崇拝」へ続く



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2009.06.07 / Top↑
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