ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「うわっ! 今日も降ってるね、沙羅!」
 友人の南海(なみ)が、足下の新雪をショートブーツで踏み締めながら感嘆の声をあげる。
「うん。今日で三日目――このまま積もりそうな勢いよね」
 あたしはブルッと身体を震わせ、首に巻いているマフラーを顎まで引き上げた。
 今年の東京は寒い。
 いくら二十三区外だとはいえ、降雪が何日も連続することは非常に珍しい。
 なのに、この雪は三日も降り続けている。
 止む気配はない。
 ホントに北国並みに積もるんじゃないだろうか、と危惧してしまうような勢いでM市に雪化粧を施していた。
 成人式過ぎの一月中旬――世界は息をしたくないほど寒い。
 なんて言ったら北国の人たちに怒られそうだけれど、寒いものは寒い。東京の女子高生には厳しすぎる天気だ。
 そんな悪天候の中、あたしと南海は街のメインストリートである歩行者天国をブラブラと歩いていた。
 歩行者天国の両サイドに並ぶデパートを駅前から順番に巡り、ウィンドウショッピングをしながら時間を潰しているだけだけど……。
「う~、寒い……」
 あたしは、空色のダッフルコートの下で身を震わせた。
 一時的にでも雪が止んでいることだけが救いだ。寒い上に吹雪にでもなられたら、たまったもんじゃないわ。
「もうすぐ《WALTZ》だけど、今日は行かないの?」
 ふと、南海が思い出したように訊ねてくる。
「行かないわよ。だって、今日はバイトじゃないもん」
「あっ、そっか。木曜だもんね。六楼さん、お休みか」
 あたしが唇を尖らせて応えると、南海は得心顔で頷いた。
 そう。木曜と日曜はお休みなのだ。
 あたしの大好きな六楼諫耶(りくろう いさや)さんは。
 六楼さんは、街一番の人気を博するケーキ屋《WALTZ》の店員さん。
 三ヶ月前、初めて《WALTZ》で彼を見た瞬間、あたしはアッサリ一目惚れした。
 理由やきっかけなんて特別なかったけれど、目と目が合った途端、全身に電流のようなモノが流れ、血が騒いだ。
 胸が高鳴った。
 運命を感じた。
 運命の出逢いだ――って、本気で思ったもん。
 以来、あたしは最低でも週に二日、多い時には四日も《WALTZ》へ通っている。
 放課後、寿司屋でバイトをしてコツコツ貯めたお金は、全部《WALTZ》へ注ぎ込まれている……。
 そ、そのためにバイトしてるからイイのよ!
 六楼さんに逢いたい想いがあるからこそ、寿司屋のバイトにだって精が出るんだから。
「――アレ? 今日、いつもより行列長くない?」
 南海が足を止め、訝しげに首を傾げる。
 その視線を追って、あたしは右斜め前の建物へと顔を向けた。
 五階建てのビルの一階部分だけ、ガラス張りの造りになっている。
 淡いブルーグリーンで幻想的にライトアップされたお店は――誰もが知っているお洒落なケーキ屋《WALTZ》だ。
 細かいレリーフが施されたガラス戸の前からは、長い行列が出来ていた。
 大抵がテイクアウトのお客さんなので、並んでいてもそれほど長時間待つことはない。
 けれど、今日はいつもの倍くらい列が長かった。
「長い上に――男が多いわね」
「あれ、ホントだ。男がチラホラ……ん? チラホラどころか、半数はいるわ――ってコトは……まさか、まさかっ――――!?」
 急に南海がハッと息を呑み、大きく目を見開いた。
 南海の顔は、まるでホラーマンガに出てくる怖いキャラみたいだったけれど、その感想はそっと胸の中にしまっておいた。
 だって、南海の心情があたしには手に取るように解ってしまうから。
 あたしと南海は、ひどくゆっくりと顔を突き合わせ、鋭く視線を交差させた。
 それから、
「「ルイさんの出勤日っ!!」」
 異口同音に悲鳴じみた叫びをあげていた。


 ルイさんは、《WALTZ》入店以来三年強、不動の人気ナンバーワンを誇る店員さんだ。
 中性的で神秘的な美貌の持ち主なので、男女共に人気が高い。
 名門私立聖華学園高等部で毎年開催される《ヴィジュアル・フェスタ》で三年連続優勝し、ミスター聖華の殿堂入りを果たした――何だかとっても凄い人。
 ――って、あたしは聖華の生徒じゃないから《ヴィジュアル・フェスタ》なるお祭りがどんなものかは知らないわよ! 
 何か『薔薇のように咲き誇れ!』みたいな感じの、よく解らないサブタイトルがついていた気がするけど……。
 それはさておき、大学部に進学してからのルイさんは、昔より《WALTZ》で勤務する日数が減った。
 ルイさんはモデル事務所にも所属している。
 高校時代にはあまり力を入れていなかったモデル業だけれど、大学に上がると同時にそちらの比重を大きくしたらしい。
 そのおかげで《WALTZ》で勤務する時間は極端に減少した。
 今ではすっかり不定期出勤だ。
 けれども、行列を見て解る通りルイさんのファンは熱くて粘り強くて執念深くて――そして異常なまでに嗅覚が鋭い。
 どういう情報網が発達しているのか、ルイさんが出勤する時間帯になるとこうして店の前にしっかり陣取っているのだ。
 私設親衛隊と称してもおかしくないほどルイさんのファンはマメでアクティブだ。
 彼らのルイさんに対する熱烈な想いとパワーは、時々あたしも『見習わなきゃ!』と思ってしまうほどに凄まじかった。
「ああ、ルイさんの綺麗な顔を見るの一ヶ月振りかも! 嬉しいな。――よかった、美神堂のポスター持ってきてっ!」
 南海が感極まった声で告げ、カバンの中から丸めたポスターを取り出す。
 それは、大手化粧品メーカー美神堂が一週間前に解禁したばかりのニューブランドの広告だ。
 現在、TVでガンガン流されているCMはどれも評判がいい。
 何てったって、OLさんに大人気の美形アイドル・山梨くんが主役だ。
 先月発売になったシングル曲『青春ボンゴレ』は未だにオリコンチャートの一位をキープし続け、主演連続ドラマも高視聴率を獲得している。
 これぞアイドル!
 って感じね。
 その山梨くんが女性向け化粧品のイメージキャラに初挑戦。
 前評判だけでもかなり騒がれていたのに、オンエアが開始された三パターンのCMは、山梨くんファンじゃないあたしから見ても『スゲェ!』としか言い様がなかった。
 中でも、青と水をモチーフにしたファンタジックな『口紅編』は秀逸だ。
 幻想世界で出逢った水の妖精だか精霊に、山梨くんが恋をする。
 で、何故だか上半身裸で水に濡れている二人が――間違いなく、山梨くんファンのためのサービスカットだと思うけれど――キスする寸前でコマーシャルはプッツリ途切れるの。
 この、山梨くんの相手というのがね――ルイさんなのよ。
 巷では『謎の美女』とか騒がれてるけれど、あたしを含め《WALTZ》の常連たちだけは知っている。
 アレが女性モデルではなく、ルイさんであることを!
 現に、《WALTZ》の前に並んでいる人たちは皆、片手に丸めたポスターを握っていた。中を開けば、山梨くんとルイさんが超至近距離で見つめ合っている姿が拝めるはずだ。
「おお、壮観壮観! 何か、どっかの聖地に来たみたいね」
「聖地よ! わたしにとって《WALTZ》は、アキバに次ぐ聖地よっ!! わたし、マッハで並ぶけど――沙羅はどうする?」
「もちろんつき合うわよ」
「ありがと。――ああっ、ルイさん! わたしの生きる源――妄想の糧! どうか、わたくしに愛と勇気と腐れた乙女力を分け与えて下さい」
 南海が頬を紅潮させ、キラキラと瞳を輝かせる。
「よし、並ぶわよ、沙羅っ!」
「わっ、ああああああっ、ちょっと待って、南海っ!」
 駆け出そうとした南海の腕を、あたしは慌てて掴んだ。
「何よ?」
 南海が渋々足を止め、怪訝そうに振り返る。
 あたしはコートのポケットからティッシュを取り出し、そっと南海に差し出した。
「出てるわよ、鼻血」



     「3 美青年×美少年+妄想×幻想=!?」へ続く



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2009.06.07 / Top↑
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