ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 南海はイイ子だ。
 色白で小柄で可愛い。
 愛想のないあたしと違って、笑顔もキュートだし、他校生からも幾度となく告白されていたりする。
 成績優秀、気配り上手、お洒落で清楚な美少女。

 南海はイイ子だ。

「やっぱり――店長とルイさんはデキてると思うのよね」

 ……南海はイイ子だ。
 コレさえなければ。
 南海は――ホントに、とってもイイ子だ。

 あたしは、脱いだコートを隣の椅子にかけ、苦笑いを南海に向けた。
《WALTZ》の前に並ぶこと三十分――ようやく、あたしたちは店内へと足を踏み入れることができた。
 たくさんのお客さんで賑わう店内を奥へと案内され、行き着いた先は短い階段を昇ったところに位置する中二階だ。
 中二階といっても天井は高いし、席もゆったり設けられているので狭苦しさは全く感じない。
 広い一階フロアを全て見渡すことが出来るので、ある意味特等席だったりする。お気に入りの店員さんの姿を思う存分目で追いかけることができるから……。
《SHIO店》の店長っていうのはね…………あれ?
 名前思い出せないや……。
 まあ、いいわ。
 ロン毛で端整な顔立ちのおにーさん。推定年齢二十八歳。
 しなやかな獣を思わせる体つきと、昏い光を湛えた野性的な瞳が印象的だ。でも、お客さんに対する接客は頗る柔軟で、隙がない。
 あたしの勝手な見解だけれど、アレはオーナーの伊緒氏がどこぞのホストクラブから引き抜いてきたんじゃないかと思う。
 ケーキがズラリと並べられたショーケースの隣にあるカウンターが、店長の定位置。
 ケーキ屋にバーのようなカウンターなんて絶対変だと思うけど、二十代後半から三十代OLのおねーさま方には人気があるみたい。
《WALTZ》に入店する前の経歴は謎に包まれているし、あたしは彼の名前すら思い出せないけれど――悪い人じゃない。
 この人は、カウンターで接客しながら、入店してきた客の好みのタイプを素早く判断し、色男店員たちに電光石火の如く指示を飛ばす。
 彼の推測が外れることは滅多にない。
 あたしが六楼さんに惚れたのも、あの凄腕店長があたしの好みをガッツリ把握していたからだろう……。やっぱり元ホストなんだと思う。

「――でね、六楼さんは実はルイさんに惚れてるの。ルイさんもホントは六楼さんのことが好きなんだけど、店長に弱みを握られていて――嫌々店長にアレやコレやと奉仕させられてる、ってワケ。だから、いつかきっと起こるわよ。殺傷事件。フフフフッ」
「ちょっと、そこに六楼さんを入れるの、止めてくれる?」
 あたしは南海の妄想を聞いて、更に頬を引きつらせた。
 家族やクラスメイトたちにはひた隠しにしているけれど、南海は美少年や美青年――とにかく美形男子を見ると、男の子同士の恋愛を妄想する悪癖がある。
 ネットで美青年と美少年が恋をする漫画を公開しているほどだ。
 何だか知らないけれど、春と夏と冬には大きなキャリーバッグを引いて東京ビッグサイトへ向かう……。
 美形限定殿方同士の妖しいアレコレを妄想することが、至上の幸せであるらしい。
 南海は、まあ、つまり――ヲタク。
 腐女子だ。
 ……イイ子なんだけどさ。
 漫画やアニメや小説のキャラで妄想してた南海だけど、《WALTZ》にハマッてからは三次元で妄想するという新しい技も習得したみたい。
 多分ね、そのうち絶対創るわよ。
 山梨くん×ルイさんの同人誌……。

「あとね、最近気がついたんだけど、パティシエの兜塚(かぶとづか)さんとモン様もつき合ってるわね。店が終わった後、新作発表ミーティングと称して、夜な夜な厨房でイケナイ試食会よ」
「い、いやっ……そ、そこは別に気づかなくても――」
 何ですかね、イケナイ試食会って……。
 解らん。
 あたしには、どうしてそうなるのか、ちっとも解らないわよっ!
 パティシエの兜塚さんは、滅多にホールで姿を見ることは出来ないけれど、髭が似合うダンディな男前だ。あの精悍な顔立ちから、あんなに繊細で煌びやかなスイーツが生まれるなんて――奇跡だわ。
 モン様は、聖華学園三年生。平黎文(たいら れいもん)さんのこと。
 レイモンなんて洒落た名前だけど、別にハーフでもクォーターでもないわよ。この人は、いつも涼しげな微笑を浮かべていることから《涼風の貴公子》と呼ばれている。
「沙羅は鈍すぎるのよ。わたしの推測ではね、ネムロックとトーリくんも妖しい関係に発展してるはずなのよ。二人が交わす、あの熱い視線――アレはもう高い壁を越えた証に間違いないわねっ!」
「違うんじゃない? あの二人、物凄く仲が悪いって噂だし……」
 うん。断じて違うと思う。
 視線を交わすのはどんな職業にでもあるアイコンタクトだろうし、あの二人は犬猿の仲で、ホントにガン飛ばし合ってるだけのような気がする……。
 ネムロックこと根室亮介さんは、都立工業に通うちょっと怖めの三年生。
 いや、《WALTZ》に入れるくらいだから当然カッコイイんだけど、三白眼に妙な迫力が籠もってるのよ! 接客業なのに、堂々と『俺に近寄るなオーラ』を発しているちょっと捻くれた人だ。
 制服の胸元をザックリと広げて許されるのは、この人だけ。おねーさまたちにウケがいいから店長が許してるらしい。
 で、トーリくんは、聖華学園の一年生――小沼透璃(こぬま とうり)。
 いつもニコニコ笑ってる、アイドル顔負けの童顔少年。これまた当然の如く年上のおねーさまと奥様方に超人気の店員さんだ。
 性格も接客の仕方も顔立ちも相反する二人は、何かにつけて店内でもよくぶつかり合っている。
 ああ、今、気がついたけれど《WALTZ》の店員さんって聖華の人が多いな。それだけ聖華は美形の宝庫ってコトね。
 いいなぁ。お金持ちの上に、美形がワンサカなんて。もう見飽きるくらい美少年に囲まれて、素敵学園ライフを送りた――
 ――ハッ! マズイ。
 南海に釣られて、今、何か変な妄想しようとしてたわ……! アブナイ、アブナイ。
「バカね。『俺たち仲悪いです』アピールをするのは店内だけよ。店の外に一歩足を踏み出したら、こっちが恥ずかしくなるくらい甘々のラブラブに決まってるじゃない! あんな可愛い顔して、かなりヤリ手だと思うわよ、トーリくん」
 南海が拳を握り締めて豪語する。
 また鼻血出すんじゃないかしら?
 ホントに……何をどうやったら、そんな考えに辿り着くのか、あしたにはサッパリ理解できないわ。
 聞いてるあたしの方が、物凄く恥ずかしいんですけれど、南海さん。
 美青年と美少年がいれば、そこに妄想と幻想をブレンドして薔薇色の花園を構築してしまう――それが南海だ。
 くどいようだけど……根はイイ子なのよ。

「それはスゴイな。そのストーリー展開だと、ウチの従業員の半数は貴重な体験をしていることになるね」
 突如として、落ち着いた声が響く。
 その声に聞き覚えがありすぎて、あたしの心臓をドキンッと跳ね上がった。驚きに、目の玉が飛び出しそうなほどギョッとした。
 いつの間にかトレンチに水の入ったグラスを載せた、制服姿の青年が傍に立っていた。
「そろそろオーダー取りたいんですけど、よろしいですか、お嬢様方?」
 長身でスタイル抜群のシルエット。
 フレームレスの奥で理知的に輝く黒曜石の双眸。
 少し薄目の唇には仄かな笑みが刻み込まれている。
「り、りっ、六楼さんっ!?」
 あたしは上擦った声で叫んでいた。
 それは、本来なら今日ここにはいるはずのない人――あたしの大好きな六楼諫耶さんその人だった。
 今までの会話を六楼さんに聞かれていたのかと思うと、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 南海の勝手な解釈だけれど、きっと――いや、間違いなくあたしも同類だと思われただろう……。
「いるなら、もっと早く声をかけて下さい」
 南美は平然としている。
 親やクラスメイトには知られたくないのに、妄想薔薇園に登場する本人にはバレても全然構わないらしい。
 凄すぎるわよ、南海!
 どーゆー神経してるの!?
 無敵だわ。
「いや、白熱してたし、面白かったから――ついつい聞き惚れてしまいました。ルイを巡る店長と俺の攻防に決着がついたら、また続きを聞かせてほしいな」
 六楼さんが悪戯っぽい眼差しで、南海とあたしに視線を配る。
 ルイさんを巡る――って、しっかり最初の方から聞いてるじゃん……。
 ……もう泣きたい。
 ってゆーか、帰りたい……かも……。
 そんなあたしのショックを知りもせずに、六楼さんはグラスをテーブルに置くと、流麗な仕種で一礼した。
「いらっしゃいませ。《WALTZ》へようこそ――」
 極上の笑顔があたしへ向けられる。
 その瞬間、あたしの胸にまた新たな恋心が芽生えた。
 もう、何度こうして六楼さんに恋をしているのか数え切れない。
 理屈抜きに、あたしは六楼さんが好きだ。
 やっぱり、意地でも帰りたくない。
 ケーキ一個で二時間粘ってやる!



     「4 レージとロータと……アレ??」


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2009.06.07 / Top↑
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