ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 六楼諫耶。
 W大学文学部二年生。
《WALTZ》の中で最も仲が良いのは、ルイさん。これは、もう南海の妄想で大体予測はついていたわよね。
 六楼さんの方が一つ年上だけど、この二人は入店時期が重なっていたらしく今でも仲良しこよしだ。その上、二人とも美形なので、南海がイケナイ妄想を炸裂させるのも頷ける……ような気がするけど、やっぱりあたしには理解できない。
 何度でも言うけれど、あたしはフツーの女子高生だ。
 腐女子じゃない。
 ………………多分。
 最近、ちょっと自信がないのは、何故なんだろ……。

「今日はお休みじゃなかったんですか?」
 あたしは六楼さんの端整な顔を見上げ、率直な質問を繰り出した。
「今日は特別。ルイが出勤になったからね。いつもの人員じゃ捌けない」
 六楼さんが眼鏡の奥が瞳を細め、軽く微笑む。
 ――うっ……いつ見ても綺麗な笑顔だわ。
「そ、そうですよねっ! 外の行列も凄かったし……」
 あたしは心臓をバクバクさせながら辛うじて言葉を返した。
 ビターチョコを想起させる癖のない髪。
 切れ長の一重の双眸。
 両端が少しつり上がり気味の薄い唇。
 シャープな顎のラインもスーッと通った鼻梁――何もかもが大好きだ。
 どうして、この人はこんなにカッコよくて、あたしの心をこうもトキメかせるんだろう?
「沙羅ちゃんと南海ちゃんは運が良かったね。今、入場制限かけたところだから。とりあえず、あと一時間はこれ以上お客様を入れない予定です」
「――ってコトは、そろそろ来るんですね、ルイさん?」
 南海がキラッと双眸に鋭い光を走らせる。
「さっき更衣室で着替えてたよ。ココだけの話――すっげぇ機嫌悪いけど」
 六楼さんが声を潜め、愉快そうに唇をつり上げる。
「裏から入ってくる時に、入り待ちファンにかなり身体を触りまくられたらしいよ」
「何処のどいつですかね? わたしのルイさんの下半身を握った野郎はっ!?」
 南海が凄惨な表情を浮かべながら立ち上がる。
「いや、《下半身》とも《握った》とも言ってないし……」
「美少年と美青年以外の野郎だったら、わたしが天誅下してきます!」
「ちょっと南海ちゃん、俺、そもそも男だって限定してないし、美形なら許すのかよ? ――まあ、いいや。とりあえず、座ろうか。遠くから店長が睨んでるので、そろそろオーダーをとって戻らせて下さいな」
 六楼さんが困ったように微笑し、南海を宥める。
 南海の視線が一瞬、階下へと飛んだ。
「フッ……やるわね、店長。腐女子バージョンのわたしと目が合っても動じないなんて、流石だわ」
 大仰に溜息をつき、南海が腰を下ろす。
 何がどうなってるのかよく解らないけれど、南海と店長の間では僅か一瞬で激しい攻防が繰り広げられたみたいだ……。
 それ以前に《腐女子バージョン》って何なのよ?
 普段学校や家で演じてるのは《清楚系美少女バージョン》ってコト??
 落差が激しすぎるわよ、南海……!
「そうね。ルイさんが来る前にオーダーしておいた方がいいかもね。わたしはアップルパイとハワイコナでお願いします」
「了解。――沙羅ちゃんは?」
「んー、あたしはストロベリー・ファームとアッサムティー!」
 いつもより甲高い声が口から飛び出す。六楼さんがあたしに視線を向けている、というだけで、あたしは物凄く緊張してしまう。
 知り合って三ヶ月――それなりに打ち解けてきたのに、あたしは未だに六楼さんの顔をまともに見るのが恥ずかしいのよ。
 ……超オクテでスミマセン。
 ちなみに《ストロベリー・ファーム》っていうのは、直径十センチくらいの純白の陶器の中にイチゴのヨーグルトムースが詰まっていて、その上に真っ赤に輝くイチゴがこれでもかってくらいたっぷり敷き詰められているスイーツよ。店内で食べる時にだけ、生クリームをデコレーションしてくれることもあり、あたしのお気に入りナンバーワンだ。
「かしこまりました。それでは、今しばらくお待ち下さいませ――」
 サラリと注文を復誦した六楼さんが踵を返そうとした時、急激に店内の空気が変化した。
「きゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
 女性たちの歓喜の叫びが耳をつんざく。
 それに混じって、
「うおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」
 という男の人たちの低い唸り声のようなものが店内に轟いた。

 この異様な興奮、おかしな熱狂は――

「ルイさん!」
 南海の顔が嬉しそうにパッと輝く。
 見ると、一階フロアにトレンチを持ったルイさんの姿があった。
「あー、やべっ……。戻り損ねた」
 六楼さんが苦々しく呟く。
 ルイさんがフロアに出てきた直後は、店内は一種独特の熱気に包まれるので、客も店員も中々動きづらいのよね……。
「うわっ、店長が中二階へ行け、ってサイン出した。えーっ、マジかよ。俺、ルイと同じフロアかよ……」
 六楼さんの不満そうな独白が続く。
 多分、中二階の方がお客さんを制限しているので、ルイさんに危険が及ぶ確率が低いからだろう。うっかりしていると、ホントに狂信的なファンがルイさんに抱き着いたりするのよ……。
 M市――特に《WALTZ》じゃ、ルイさんは山梨くん顔負けの超人気者だ。
 コツコツコツ……と階段を上がってくる靴音が響き、ルイさんが姿を現す。
 ルイさんは真っ先に六楼さんとあたしたちの姿を視野に認めて、ニッコリ微笑んだ。
 物凄く美しすぎる笑顔なんですけど!
 少し長めのサラサラの黒髪。
 大きな二重の澄んだ双眸。
 透き通るように白い肌。
 完璧な弧を描く桜色の唇。
 彫りの深い顔立ちは何処か異国めいていた。
 ブルーのカラーコンタクトを使用しているので、その整った容貌はますます神秘的だ。
 とても同じ人間とは思えない。
 何て言うの――神? 女神? 妖精? 天使?
 あたしの少ない語彙じゃ表現できないけれど、とにかく超美麗な佳人だ。
 ルイさんファンじゃなくても、やっぱりその綺麗な顔には無意識に目が行ってしまう。
 流石はミスター聖華!
 女も男も瞬く間に虜にする中性的な美貌は、今日も圧倒的に美しかった。


 ルイさんこと――曽父江瑠衣(そふえ るい)。十九歳。
 聖華学園大学部一年生。
《WALTZ》の人気ナンバーワン店員。

「南海ちゃん、沙羅ちゃん、こんにちは。いらっしゃいませ」
 ルイさんがあたしたちの席までやってきて、微笑みながら挨拶する。
 ――うっ、とても男とは思えない美しさだわ……。
「お久しぶりです、ルイさん! スミマセンけど、コレにサインお願いします」
 ちゃっかりものの南海は、早速美神堂のポスターをルイさんに差し出していた。
 ルイさんはスラリとした長い指でポスターとサインペンを受け取り、嫌がる様子もなくサインする。
 ルイさんは綺麗だ。
「南海ちゃんだけ特別な。ヤローにはぜってぇサインなんてしてやらねー!」
 ルイさんは……ホントに擦れ違う人たちが目を瞠るほどの美人だ。
「くそっ、あのマッチョ集団いつか必ずブン殴ってやるっ! 人のケツ、鷲掴みにしやがって! フザけんなっつーのっ! 金寄越せや、バカヤローッ!」
 ルイさんは…………神話に出てきそうなほど端麗な人だ。
 妖精か神の化身なんだと思う。
 ………………口さえ開かなければ。
「オレ、今日、働きたくねー。中二階フラフラしてるから、あとヨロシク、イサヤ」
 ルイさんが気怠げに言い放ち、南海の手にポスターを返す。
 南海の手に戻されたソレは、山梨くんの顔にヒゲと鼻血と丸眼鏡とアホ毛が描き加えられ、『るい。』という超テキトーなサインが入っていた。
 ……山梨くんにも相当嫌な目に遭わされたのね、ルイさん。
 だから、そんなにやさぐれてるのね。可哀想……。
「何しに来たんだ、おまえ?」
「ブラブラしに。店長が何もしなくてイイから出て来い、って。きっと、オレのいない間に売上落ちて――伊緒サマにドヤされたんだろ?」
 六楼さんが迷惑そうにルイさんを見遣る。
 だけど、ルイさんは悪びれた様子もなく肩を聳やかした。
「何もしなくていーつったって、出てきただけで既に髪からケツまで触られまくりなんだけど? でも、時給一〇五〇円だし――やる気なくすに決まってんだろ」
 忌々しげに吐き捨てるルイさん。
 ホントに顔だけ見てれば、超絶美形なんだけどな……。
 ……人間、やっぱり何かしらの欠点はあるものなのね。
 ふと、南海を見ると、彼女は何かに耐えるようにフルフルと全身を震わせていた。
 あたしの予測だけど、ルイさんが髪から臀部まで触られた詳細を訊きたくてウズウズしてるのよ、この子……。
 六楼さんとルイさんはまだ何かボソボソと話している。
 と、そこへ――
「ルーイッッッッ!!」
 物凄い勢いで入口のドアが開いた。
 入場制限されているにも拘わらず、一人の少年が店内に駆け込んできたのよ。
「ルイッッ! レージが殴ったっっ!!」
 聖華学園中等部の制服を纏った少年が、脇目も振らずにルイさん目指して階段を駆け上がってくる。騒然としてる店内の様子など、少年にはどうでもいいことらしい。
「こ、これは、もしや――」
 南海が何かに気づいたように、パッと立ち上がる。
「曽父江兄弟、夢の共演!?」
 南海の目が獲物を見つけたハンターのように爛々と輝く。
 南海の期待に応えるように、
「ロータ、おまえ、《WALTZ》に逃げ込むなんて卑怯だぞ、コラッ!」
 今度は金髪の少年が飛び込んできた。
 やたらとゴールドが似合う派手な少年だ。
「ちょっと零治! 朗太! 瑠衣さんに迷惑がかかるから止めなよ!」
 更にその後ろを純和風の顔立ちをした美少年が追いかけてくる。
 何なの、コレ?
 まだ幼さの残る少年が、勢いよくルイさんに抱き着く。
 途端、ルイさんの口許が神経質に引きつった。
 抱き着いたのは、曽父江家の五男――朗太(ろうた)。中学二年生。
 ルイさんの実家はM市でも有名な不動産会社で、ルイさんは五人兄弟の三男坊。
 上二人はちょっと歳が離れているのであたしは見たことがないけれど、下二人の姿は何度か目撃したことがある。
 金髪を揺らして登場したのが四男――零治(れいじ)。聖華学園高等部二年生。
 レージとロータ――そして、もう一人着いてきた美少年は…………アレ?
 誰だっけ?
 レージとロータと……アレ??
 ……思い出せない。
 こんな美少年、一度見たら忘れるはずはないんだけど。
「有馬美人(ありま よしひと)――聖華学園高等部二年。有馬家の御曹司よ」
 あたしの困惑を察したのか、南海がサラサラと告げる。
 流石、南海!
 M市の美少年は全て網羅してるのね!
 腐女子の鑑よ!
 そうそう、思い出したわ。
 超資産家――有馬家の御曹司で、ルイさんたちの幼なじみだったはず。
「朗太、瑠衣から離れろっ!」
 レージがロータの襟首を掴み、強引にルイさんから引き剥がす。
 ルイさんのこめかみがピクッと痙攣した。
「てめーら人の職場に何しにきやがった?」
「レージが殴ったっ!」
「朗太がビジンに抱き着いて離れないからだろっ!」
「ボク、ヨッくんと結婚するんだもん!」
「出来ないから諦めろっ!」
「ルーイー、レージが子供の夢を壊すよ! 酷いよね!」
 曽父江家の四男と五男は激しい小競り合いを始める。
 ……兄弟喧嘩しにココまできたワケ、この人たち?
「くっだらねーっ! クソガキども、さっさと帰りやがれっ!」
 今やルイさんの額の青筋は最高潮に達していた。
 菩薩のように美しかった顔が、徐々に般若化してきている。
「す、すみません、瑠衣さん」
「ホントにな。頼むから、コイツら連れて今すぐ消えてくれ、ヨシヒト」
 ルイさんがギロリと有馬くんを睨めつける。
 それから彼はそれ以上の凄まじい眼力で、二人の弟を見据えた。
「てめーらいい加減にしないと、ヨッくんはオニーサマが嫁に貰うぞっ!!」
「あっ、瑠衣さん! 今の発言は、選択ミスです――」
 ルイさんが意味不明の脅しを発した直後、レージとロータの攻撃が一斉にルイさんへと転じた。
 弟たちの思わぬ反撃にルイさんの身体が弾け飛ぶ。
 アレ? 何でか、あたしの身体も浮いてるみたい。
 ――えっ?
 浮いてるのっ!?
「沙羅っ!?」
 南海の驚愕の叫び。
 えーっ、あたしも一緒に攻撃されたんですか?
 もしかして、思いっ切り余波を喰らってるんですかっ!?
「危ないっっっ!」
 六楼さんの切羽詰まった叫び。
 大好きな六楼さんが駆け寄って来てくる。
 こんな時になんだけど、必死の形相で駆けてくる六楼さんはカッコよかった。
 六楼さんがこちらへ向かって手を伸ばす。
 刹那、あたしは後頭部をまともに床に打ち付けていた。


 ……ええっ、どーしてよっ!?
 茫然と目だけで六楼さんの姿を求めると、彼はひしとルイさんを抱き留めていた。
 ルイさんの背中と細い腰には、しっかりと六楼さんの両手が回っている。
 何でよっ!?
 そこは、あたしでしょ?
 最低限のマナーとして、女の子であるあたしを助けるべきじゃないですかっ!?
 どうして、ルイさんなワケよっ!?
 あたしは後頭部にズキズキとした痛みを感じて泣きたくなった。
 いや、いっそこのま気絶してしまいたかった……。



     「5 ビッショウ様、見参!」へ続く


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2009.06.07 / Top↑
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