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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.06.07[17:51]

 あまりのショックに一瞬頭が真っ白になった。
 六楼さんがあたしじゃなくてルイさんを受け止めた。
 あたしは、その現実を激しく受け止めたくありませんが……。
 ……間違ってないよね?
 あたしの思考、比較的正常よね?
 六楼さんがお客様であるあたしをアッサリ見捨てて、ルイさんをガッシリ抱き締めているなんて、何かの事故よね? 夢よね、きっと……。
 恐る恐る横に視線を流すが、やっぱり愛しの六楼さんはルイさんの細腰にしっかりと片手を回している。
 ……お願い。誰か夢だと言って!

「オイ――パンツ、バッチリ見えてますけど?」
 あたしの硝子の心に追い打ちをかけたのは、曽父江家の四男坊の脳天気な声だった。
「零治、女の子に対して失礼だよ! もっと婉曲な言い方出来ないの?」
 これは有馬何某の声ね……。
「いや、でもさ、言ってやった方がいいだろ? あのままじゃ、いつまでもモロ見えだぞ?」
「そうだよ、ヨッくん。あのまま《山梨くんパンツ》を晒してるなんて、ボクだったら耐えられないよ! 死んじゃうよっ!」
 コレは、曽父江家の五男――いや、クソガキだな。
 ……死んでもいいですかね?
 何? あたし、今、そんな恥ずかしいパンツをみんなの前に晒してるワケですか?
 選りに選って、何でそんな凄すぎるパンツをはいちゃってるの、あたし……。
 死にたい……かも。
 それは、きっとパンツの前と後ろに極上スマイルを浮かべた山梨くんのアップがプリントされている、超恥ずかしい代物だ。
 山梨くんのことは嫌いじゃないけれど――断じて、あたしは山梨くんファンじゃない!
 南海からプレゼントされたから、仕方なくはいてるのよ!
 渋々南海とお揃いにしたのよっ!
 まさか、それがこんなところでモロ出しだなんて……。
「沙羅っ! 大丈夫っ!?」
 南海が慌ててあたしに片手を差し伸べる。
 一応心配してくれてるみたいだけど、パンツの山梨くんに熱い視線が注がれてるのは気のせいですかね、南海さん……?
「止めとけ。沙羅ちゃん、山梨はやめとけ。アイツは変態だ。そんなパンツ、今すぐ脱ぎ捨てろ」
 頭上からルイさんの声が降ってくる。
 あたしの頬は一気に紅潮した。
 信じられない。
 ルイさんまで何見てるんですか!?
 今すぐパンツを脱ぎ捨てろ――って、あたしを『《WALTZ》出禁』に追い込む気ですかっ!?
 いや、それより、あたしのパンツ、六楼さんにも完全に見られてるわよね……。
 死にたい――けど、起きなきゃ……。
 こんなパンツを六楼さんにガン見されてるなんて、もう一秒たりとも我慢できないわ。
「あたしは――山梨くんファンじゃありませんっ!」
 あたしは南海の手を掴むと、ありったけの気力を振り絞って起き上がった。
 派手に打った後頭部がズキズキと痛む。
 痛みを堪えてルイさんに抗議すると――彼と六楼さんはまだ抱き合った状態のままだった……。
 何やってんですかね、あなたたち。
「う、うん……ソレ、完璧に南海ちゃんの趣味だよね」
 六楼さんが微かに目を逸らし、ボソッと応える。やっぱ思いっ切り目撃されちゃったのね……。
 山梨くんのド阿呆!
 何で、こんなパンツ作るのよっ!?
 こんな恥ずかしいデザインでも南海みたいに購入しちゃう美少年ヲタがいるんだから、ちょっとは考えてよね! 
 山梨めっ! ファンレターに見せかけて、抗議の手紙を送りつけてやる!
 あたしは密やかに山梨くんに対する仄暗い殺意と憎悪を抱きつつ、みなを冷ややかな眼差しで見回した。
 レージとロータさえ下らない兄弟喧嘩を《WALTZ》に持ち込まなければ、こんな事態は勃発しなかったはずなのに……!
 あたしが曽父江家の下二人を一睨みすると、こんな時は喧嘩を忘れて結託するのか、二人はあたしの視線に気づかない振りをして何やら会話を交わしていた。
「ゴメン、沙羅ちゃん……。決して悪意があったワケじゃないんだ。いや、その……ルイに怪我させると店の売上が下がって、俺たちの給与も容赦なくカットされるから……。そんな理由でもなければ、ルイを助けたりなんかしない」
 六楼さんが焦燥混じりに言い訳を口にする。
《WALTZ》の現状を考えると、その理由は物凄く理解できる。
 ……解るけれど、やっぱりまだショックから立ち直れないわ。
「じゃ、早く放せよ、イサヤ。この体勢、結構ツライんだけど?」
 ルイさんが剣呑な口調で指摘する。
 そうよ! いい加減、離れてくれませんかね、二人とも!
「あっ、そーだよな――」
 六楼さんが素直にルイさんから身を離そうとした瞬間、
「ストップ! 全員、そのまま動くなっ!」
 鋭い叫びが店内に響いた。


「絶対に動かないでよっ!」
 再度、女性の声が空を裂く。
 あたしたちがビックリして固まっていると、「トウッ!」というかけ声とともに一人の女性が階下から飛んできた。
 アレ? 目の錯覚!? 
 今、この人、ホントに物凄い跳躍見せなかった!?
 ……いや、気のせいよね。女の子が一階から中二階まで跳べるはずないわ。
 長い髪を華麗に翻して、何者かが中二階の床に着地する。
 銀縁眼鏡をかけた美女だ。
 艶やかな長い黒髪と純和風の楚々とした雰囲気の佳人だ。
 何となく有馬くんに似ている――
「わっ! 姉さん!?」
 と思ったら、ホントに血族ですかっ!?
 有馬くんだけじゃなくレージとロータも驚いている。
「――げっ! 咲耶(さくや)、てめー何しにきたんだよっ!?」
 ルイさんが心底嫌そうに叫ぶ。
「出たわね、有馬咲耶! ルイさんファンの天敵! この世で唯一ルイさんのことを『ルイルイ』と親しげに呼ぶ幼なじみ! ルイさんファンなら誰でも一度は味わってみたい、そのポジション!」
 南海が羨望の眼差しを有馬姉に向ける。
 ああ、そうよね。有馬家の人間ならもれなく曽父江家の人間とは幼なじみになるワケよね……。
「ルイルイ、五分――いえ、十分、その体勢を維持するのよ!」
 有馬姉が眼鏡をキラッと輝かせて、片手に持っていたスケッチブックを開く。もう片方の手には何処から取り出したのか、しっかりと鉛筆が握られていた。
「馬鹿いうなよっ! おまえの妄想の糧にされてたまるかっ!」
「こんな美味しいシチュエーション、私が見逃すわけないでしょ! 美形同士の抱擁――ああ、何て美しいの!」
 有馬姉の頬が歓喜を表すように薔薇色に染まってゆく。
 ……何か、また変な人が増えたわね。
 まっ、山梨くんパンツが有耶無耶になってるから、しばらく静観しておくわ。
「美しくねーよっ! イサヤと十分もこの状態なんてジンマシンが出るだろーがっ!」
「それはコッチの台詞だ。咲耶さん、悪いけど、俺もルイと密着してるなんて耐えられない。――それ以前に俺たち勤務中なんですけど?」 
 ルイさんと六楼さんから同時に非難の声があがる。
 けれど、有馬姉は全く動じなかった。
「アラ、そんなコト言っていいの? ねえ、ルイルイ、私知ってるのよ。フフフッ、アレは高校一年のお正月、ルイルイがウチの書家の先生と離れで――」
「うわーっ! てめーっ、それは公衆の面前で言っちゃマズイだろっ! 絶対にバラすなよっ!」
 ルイさんが顔面を引きつらせて、有馬姉の言葉を遮る。
 高一の正月……何があったんですか、ルイさん?
 書家の先生って?
「フフッ……イケナイ書き初めね、きっと」
 ……ホラ、約一名、妖しい妄想に耽って、悦んでる人が出ちゃったじゃない!
「イサヤ、オレのために十分くらい耐えやがれっ!」
「えーっ、俺、別におまえが書家のセンセと何処で何しててもどーでもいいし――」
「イサヤくんっ! あなたも大人しく私に従わないと、あの秘密をバラすわよ。あなたが《WALTZ》の他にしている、もう一つのバイト――」
「うわっ! 待って下さい、咲耶さまっ! それはマズイ! 非常にマズイです! 俺、市内を歩けなくなりますからっ!」
 今度は六楼さんが顔を青ざめさせて有馬姉の声を遮断する。
 六楼さんが《WALTZ》の他にバイトをしているなんて、初耳だわ。
 それにしても、街を歩けなくなるほどの秘密のバイトって……?
 六楼さんもルイさんも何をやってるんですか、一体!?
「フフフフッ……イケナイ美少年秘密倶楽部ね、きっと」
 ……もうすぐ鼻血ね、南海。
 いや、あたしにはちっとも理解できないけれど。
 そもそも美少年秘密倶楽部って、何するトコですか……?
 完全に南海の妄想の産物でしょ?
「しょうがない。十分だけこの体勢をキープだ、ルイ。――店長! 俺とルイ、十五分中抜けにして下さい」
 六楼さんが渋々階下の店長に声をかける。
 瞬時、店長のこめかみには恐ろしいくらいの青筋が浮かび上がった。
「あっ、スミマセン、店長! こちらと姉の支払いは僕がします。あと、一万円くらいテイクアウトを見繕って下さい」
 有馬弟が苦い表情で店長に告げる。
 店長が無言で親指を立てる。あっという間に機嫌が直ったらしい。
 有馬弟も色々と苦労してるんだろうな。周りが変な人ばかりだから……。
 さり気なく、あたしたちの支払いまでしてくれるなんて、神だわ。
「店長の許可も出たし、遠慮なくスケッチさせてもらうわよ」
 有馬姉が喜々としてスケッチブックに鉛筆を走らせ始める。
 この人も南海と同類なんだということは、あたしにも即座に理解できたわよ。
 南海と同じくらい美少年と美青年に目がないのね、きっと。
 実の弟に一万円+αを支払わせて、ルイさんと六楼さんの抱擁シーンを買うなんて相当腐れていると思うわ……。
 有馬姉は物凄い速さで紙面に鉛筆を滑らせている。
 やはり同類としての好奇心が疼くのか、南海がヒョイとそのスケッチを覗き込んだ。
 直後、南海の頬がパッと桃色に染まる。
「こ、このタッチッ!? この、紙面から滲み出るような色気を放つ神の構図っ!? まっ、まさか、あなたは美祥寺腐妄子(びっしょうじ ふもこ)様ではっ!?」
 南海が驚愕の眼差しで有馬姉を見遣る。
 誰よ、ビッショウジ フモコって……?
「この、ラフスケッチだけでソレを見抜くなんて、あなたもかなりのツワモノね」
「やっぱり、そうなんですかっ!? 神だ! 神がここにいるわっ! 私、ファンなんです! まさか、《WALTZ》でビッショウ様に出逢えるなんて!」
 南海の目が輝きを増す。
 頬を紅潮させて息を弾ませる南海の興奮振りは尋常ではなかった。
 もうルイさんがいることなんてお構いなしに、腐女子モード全開ね……。
「ねえ、南海、ビッショウ様って何よ?」
 あたしは冷ややかな声音で南海に問いかけた。
 南海はつい先刻、有馬姉のことを『ルイさんファンの天敵』だと言っていた。
 なのに、憧憬に目を潤ませる南海の豹変振りが、あたしにはどうしても理解しがたかった。
「知らないの、沙羅っ!? 美祥寺腐妄子様は『紅蓮の鏡月』の二次創作サイトを運営している神業絵師様よっ! 通称『ビッショウ様』。わたしの憧れ。『紅蓮の鏡月』二次創作界における神にも等しい存在なのよっ!!」
 南海が鼻息も荒く有馬姉についての説明を述べる。
 そう言われても、やっぱりあたしには微塵も状況が把握できないのだけれど……。
「いや、だから、その『紅蓮の鏡月』って――何だっけ?」
 あたしは困惑を隠しもせずに、渋面で南海と有馬姉を交互に見遣った。
 有馬姉――ああ、もう面倒だからビッショウ様でいいわ――は、とにかく凄い存在であるらしいことは何となく解った。
 けれど、南海が激しく興味を示す『紅蓮の鏡月』というものが一体何ものなのか、申し訳ないけれど思い出すことができない。
「さざなみ文庫から出ている冬敷和魔(ふゆしき かずま)のファンタジー小説よ!」
 ……ああ、思い出した。
 何か、遙かな昔、南海に貸されたことがあるかも……。
 ファンタジーライトノベルだったような気がする。
 確か、学園にある開かずの扉をうっかり開けちゃった美少年主人公が、異世界に迷い込む話だったような気が……。
 主人公が召喚されたのは、魔王に支配された暗黒の世界。
 その暗く閉ざされた世界に突如として現れた主人公は、民の希望の光――《伝説の勇者》として崇められることになる。
 異世界の住人に持て囃された主人公は、勇者として世界を救う旅に出ることになっちゃうのよね。
 闇に包まれた世界を救うためには、魔王に封印された銀髪の王子を氷の柩から助け出し、王子と恋に堕ちなければならない。
 でも、魔王は王子に恋慕していて、王子もかつては魔王のことを憎からず想っていた過去があったりして、勇者と魔王の狭間で激しく揺れ動く。
 仲間たちと共に旅をするうちにどんどん王子に惹かれてゆく勇者。彼は、ちょっと魔王にフラついたりする王子を目の当たりにして動揺したり、切なさに胸を焦がしたり――以下略……。
 ……何よ、コレ?
 何処がファンタジーなの?
 どうして、登場人物に女の子が一人もいないの!?
 と、いうのが、『紅蓮の鏡月』を初めて読んだ時の正直な感想だった。
「フフッ、『紅蓮の鏡月』最新刊――もう読んだ?」
「待望の五巻出ましたね! もちろん読みましたわよ、ビッショウ様! 歴史の闇に葬り去れた影の王――境王がようやく姿を現しましたね! 王子、いつもの如くアッサリ拉致られたけど、やっぱりアッサリ境王に……キャーッ!」
 南海が弛緩した顔で顔を赤らめる。
 いや、あたし、もう彼女たちがどんな妄想してるのか考えたくもないんですけど……どうして、男の子同士の恋愛でそんなに興奮できるのか、あたしには不思議で不思議でしょうがない。
 それより何より――あの小説が五巻も続いているコトが驚きだわよ。
 アレ、一冊で終わりじゃなかったの?
 どうやったら五巻まで続くワケ?
 何だか、南海たちの目眩く妄想世界では、二次創作が作られるほど有名になっちゃってるみたいだけど……本当に理解できないわ。
「そういえば、沙羅、しばらく『紅蓮の鏡月』を読んでないんじゃない? 明日にでも全巻貸してあげるわね!」
「えっ? 要らないわよ。あたし、あの話、好きじゃないし――」
「ええっ、何でっ!?」
 あたしの嫌そうな声を激しく遮ったのは、あろう事か六楼さんだった。
 六楼さんに視線を転じると、彼は至極真摯な眼差しをあたしに注いでいた。
「沙羅ちゃん、もしかして『紅蓮の鏡月』を読んでないの!? アレ、結構面白いと思うんだけど!?」
「はぁ……でも、あたしにはついていけない世界なんで……」
 あたしは唖然と六楼さんを凝視した。
 どうして、そこで六楼さんが食いついてくるんですか?
 六楼さんが『紅蓮の鏡月』を読んでいるなんて意外すぎるわ。イメージじゃない。
 どうせなら、本格ミステリとか純愛モノを愛読書にしてほしかったわ……。
「そんなっ……! 嘘ですよね? 女の子でアレに食いつかないなんて、珍しいですね。繰り返し読むと、意外とハマりますよ。僕が貸しましょうか、五巻?」
 思いがけず有馬美人が話しに加わってきたので、あたしは再度仰天した。驚きに双眸を見開いた表情で、彼を振り返る。
 ――有馬弟、おまえもかっ!? 
 そんな綺麗な上に爽やかな顔で言われても、困るわよ! 違和感ありすぎなんですけど!
 何なの、この人たち?
 一体、何なの『紅蓮の鏡月』って……!?
「うわっ……沙羅ちゃんが『紅蓮の鏡月』を嫌いだなんて、何か俺、ちょっとショックだな……」
 何故だか六楼さんがガックリと項垂れる。
 ショックなのは、あたしの方だと思いますが?
 抱腹絶倒の山梨くんパンツを見られた上に、意中の人が妖しいBLファンタジー小説の愛読者なんて……。
「いや、今のは忘れよう。うん、アレを読んでいない女の子だっているに決まってる。――っと、そうだ、ルイ。おまえ、あのCMで山梨とチューしてるの?」
 何だかよく解らないけどショックを受けたらしい六楼さんは、現実から逃避するかのようにルイさんへ視線を戻し、意地悪げに口の端をつり上げた。
「さあ? 忘れた」
「ちょっと、ルイルイ動かないで! イサヤくん、もっとしっかり支えてよっ! その密着加減が大事なのよ!」
 ルイさんが首を捻った瞬間、ビッショウ様からは空気が凍えるような厳しい声が飛んでくる。
 鬼だな、あの人……。
「うわーっ、マジ、キツイんだけど?」
「俺だって、これ以上こんな至近距離でルイの顔を拝みたくない。――零治くん、ちょっと俺の眼鏡外してくれるかな? 見えなきゃ耐えられるかも」
 六楼さんが引きつった顔でルイさんと向き合いながら、レージにお願い事をする。
 レージは無言で二人の傍まで来ると、従順に六楼さんの顔から眼鏡を取り外した。
 直後、悪魔の微笑みがレージの口許に閃く。
 ドンッ、とレージの片手が六楼さんの背中を押した。
「――――!?」
 不意を衝かれてバランスを崩した六楼さんの唇が、ルイさんのソレとピッタリ合致した。
 ……ちょっと、しっかりキスしちゃってるじゃないっ!
 いやーっ! あたし、もう泣いてもいいですか、ホントにっ!
「零治、てめーっ! 家に帰ったらブチのめしてやるからなっ!」
 物凄く乱暴に六楼さんの顔を押し退け、ルイさんが眉を跳ね上げる。
「でかしたわ、零ちゃん!」
 ビッショウ様が無駄にガッツポーズする。
 曽父江家の四男坊め、余計なコトをっ! 
 敵だ。
 今から、あたしとレージは敵だ。
 もう逢うこともないかもしれないけど――それでも敵だ。
 あたしの六楼さんに何てコトしてくれるのよっ!?
「指示には従った。だから咲姉、サイトからあの恥ずかしい『氷幻灯』って漫画、外してくれよ」
「イヤよ。アレ、そこそこ人気があるの」
 レージの懇願をビッショウ様はサックリとはね除ける。
『氷幻灯』が何なのか知らないけれど、やっぱり鬼だな、この人。
 自分の要求には何が何でも応じさせるくせに、他人からの要求はまったく受け付けないなんて……。
「――『氷幻灯』って……もしかしなくても、ビッショウ様のサイトで連作短編として掲載されている幼なじみモノのシリーズのことですかっ!? ま、まさか、アレって、四男坊と弟様がモデルなんですかっ!?」
 南海がカッと目を見開き、レージと有馬弟を凝視する。
 有馬弟は状況を理解できていないみたいだけれど、レージはあからさまに不機嫌な表情になった。
 まあ、南海が瞳を輝かせて喜ぶビッショウ様作品って言ったら……やっぱり、美形同士のアレコレよね……。
 ああ、ちょっと同情するわ、レージ。
 六楼さんの唇の恨みがあるから、あくまでもちょっとだけたけど……。
「リ、リアルモデルが存在している、って噂では聞いてたけど、まさかこんな近くにいるなんてっ!? ああ、妄想すると眩暈が――」
 全てを言い終えないうちに、南海の鼻腔からは血の華が噴き出していた。
 そのまま気絶したらしく、バタンッと仰向けに床に倒れる。
「南海っっっ!?」
 南海の脳内でどんなストーリーが展開され、どんな妄想が吹き荒れたのか知らないけれど、南海をここまで追い込むとは――ビッショウ様、恐るべしっ!
 アレ? ビッショウ様に感服してる場合じゃないわよね。
 あたし、何しに《WALTZ》へ来たんだろ?

 ……帰ってもいいかな?



     「6 青春ボンゴレ」へ続く


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