ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 翌日、あたしは雪の降る中をまたしても《WALTZ》へと向かっていた。
 ただし、今日は一人だ。
 南海は一時間目が終わると同時に仮病を使って早退し、意気揚々と学校を後にした。今もまだ駅の反対側にある公園で気合いを入れて張り込んでいるはずだ。
 張り込んでるというか――入待ち・出待ち・ロケ待ち?
 何を――って、美形男子に決まってるじゃない、南海なんだから。
 M市にある『Mの杜公園』はドラマのロケなどで頻用されるほど、都内では珍しく雄大な緑に包まれた巨大公園だ。
 今日は、そこで超人気アイドル山梨和久くん主演の新ドラマ『ペスカトーレ・アモーレ』の撮影が行われるらしいのよ。
 山梨くん大好き南海としては、近所で行われるロケを逃すわけもなく――とても具合が悪そうには見えないルンルン顔でさっさと早退していった。
 一時間だけ授業に出るくらいなら、いっそ休めばいいのに……。
 あたしは、昨日《WALTZ》で起こった屈辱の『パンツ事件』があるから、山梨くんの顔なんて当然目にしたくもない。
 なので、『生山梨くんを観に行こうよ』という南海のお誘いも鄭重にお断りした。
 顔はね、好みなのよ。
 ちょっと生意気そうな目元や口元は、妙に挑発的で尚かつ無駄にセクシーで、思わずハッとさせられる。
 芸能界の中でもかなりカッコイイ部類に入ると思うのよ。
 でも、六楼さんの眼前に山梨パンツを晒してしまった恨みは、山梨くんの整った顔を吹き飛ばすほど強いのよっ!
 おのれ、山梨めっ!
 思い返すと、また怒りが沸々と込み上げてきて、こめかみに青筋を浮かべてしまう。
 自然と足取りも荒々しくなった。
 雪で薄化粧された歩行者天国――《WALTZ》の淡いグリーンのライトが視界に飛び込んで来た時、更に神経を逆撫でするものが耳を掠めた。

『せ~い~しゅ~ん~は~ か・が・や・く――ボンゴレ♪』

 この哀愁漂う歌い出し――山梨和久の持ち歌『青春ボンゴレ』だ。
 それが、歩行者天国のスピーカーから忌々しくも流れ出しているのよ。
 ヒット曲だから仕方がない。
 売れまくっているから頻繁に耳に入ってくるのも当然だ。
 だけど、今は山梨くんに纏わる全てが鬱陶しくて、あたしは無意識に舌打ちを鳴らしていた。
 大体、ボンゴレで青春が語れるワケがないのよ。
 ボンゴレが輝いて、どうするのよ?
 そもそも『青春ボンゴレ』って、曲としてメチャクチャだわよ。

 哀しげでメロディアスな歌い出しから、急にラテン調になるAメロ――更に急にダンサブルなものへと転調するBメロ――演歌とヴィジュアル系を融合させたような小節とファルセットが織り成す妙に迫力のある奇怪なサビ――そして、間奏の意味不明なラップ――アカペラの終幕。

 ……物凄いごった煮なんですけど?
 でも、イケメン山梨が華麗に踊って歌うと曲として成立するから不思議だわ。
 一応、伊達にスーパーアイドルをやってるワケじゃないのよね、ヤツも。
 トップアイドル山梨和久は、純粋に凄いと思う。
 素晴らしい才能の持ち主であることも認める。
 でも、今のあたしは山梨くんを手放しで褒めてあげられるほどの広い心をとてもじゃないけれど持てない。
 次のドラマ『ペスカトーレ・アモーレ』も――そのタイトルからして気に食わない。
 何よ、そのタイトルッ!?
 マグロの一本釣りに生命を懸ける美青年と超強気で我が儘な人魚とミステリアスな海女さんと呪われたロン毛サーファーのスクウェア恋物語なんて、一体誰が観るのよ?
 ――アレ? 海の物語なのに、何で『Mの杜公園』でロケなんてしてるのよ……?
 ……よく解んないわ。
 イタリア気取りたいなら地中海でロケしてくればいいのに。
 しかも、主題歌は山梨くんが歌う『ジョウネツーナ』だって……。
『情熱』とマグロの英名『ツナ』をミックスしているらしいわよ。
 曲名を聞いた瞬間、あたしは一人だけでこっそり不買運動をすることに決めたわ。
 でも、まあ、あたしが買わなくても南海が二十枚くらい余裕でCDゲットしちゃうんだけどね……。

 九割方八つ当たりの山梨くんに対する憤懣を胸中でつらつらと連ねているうちに、いつの間にか《WALTZ》へ辿り着いていた。
 近くにあるスピーカーから『ボンゴーレ』という、山梨くんの無駄にセクシーな低音ボイスが聞こえてくる。
『青春ボンゴレ』のフィニッシュを飾る超絶エロスな声なんだけど、選りに選ってボンゴレって囁かれてもね……。
 萌えるどころか萎えるわよ。
 ああ、最近、あたしまで南海化してきたような気がするわ……。
 ――ん? 待てよ、フィニッシュ?
 うわっ、あたし、丸々一曲分、山梨くんに対する不満を綴っちゃったじゃない!
 山梨くんを脳裏に思い浮かべる時間があったら、六楼さんの理知的な美形を反芻していた方がよっぽど心の栄養になったのに……。
「あたし、もう二度とボンゴレは食べないわ」
 ひっそりと呟き、あたしは《WALTZ》の扉を開いた。



     「7.六楼さんとあたし」へ続く


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2009.06.07 / Top↑
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