ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ロレーヌ三国の一つ――イタールは、北にカシミア、東にキール、南・西を広大なフレッザ海に囲まれた国である。
 沿岸沿いでは港町を中心に漁業・貿易業が栄え、内陸地では南方の暖かい気候を利用して農業が発達していた。
 また、カシミア・キールとの国境付近は、他国との交易が盛んなため、幾つもの商業都市が発展を遂げている。
 国の要である王都エカレシュは、キールとの国境から百キロほど離れた地点に位置していた。
 イタール最大最古の都市エカレシュ。
 王都の中央――緩やかな丘陵地帯に聳える白亜の建造物が、国王の住まうレイ城だった。


     *


 朝の陽光が、柔らかに降り注いでいる。
 静かな朝。
 陽の光に透けて輝く長い白金髪を乱しながら、青年は寝台の中で寝返りを打った。
 穏やかな目覚めを迎えようとした、その時――
 バタバタバタッ! と、廊下を慌ただしく走る複数の足音が聴覚を刺激した。
 ピクリと青年の瞼が微かに震える。
 次いで、
「――ミロ様っ! ミロ様はいずこにっ!?」
「殿下っ! 殿下、一大事でございますっ!」
 衛兵たちの騒々しい叫び声が耳をつんざいた。
「……お待ちを、兵士方!」
「ミロ様はまだお目覚めには――」
 部屋の前で、侍従達が衛兵を咎める声が聞こえる。
 その声さえも耳障りだった。
「ええいっ! では、叩き起すまでっ!」
「ミロ様! ミロ様っ!」
 苛立たしげな衛兵の声。
 ドンドンッ! と、忙しなく扉が叩き付けられる。
 ――うるさい……!
 青年の秀麗な眉根がグッと寄った。
 次の瞬間、勢いよく瞼が跳ね上がる。
 不機嫌さを湛えた翡翠色の双眸が、朝日をうけて美しく輝いた。
「ミロ様っ!」
「殿下っ!」
 衛兵たちの叫びは止まない。
 青年は鬱陶しげに片手で髪を掻き上げ、寝台から滑り降りた。
 無駄な肉など欠片もない筋肉の引き締まった上半身を裸のまま、青年は扉へと進んで行く。
「殿下っ! 失礼ながら、扉を強行突破させていただきまずぞっ!」
 興奮状態のような衛兵の声に、青年は苦々しげに口許を引きつらせた。
 冷静に扉の鍵を外し、事もなげに扉を引き開ける。
 すぐに、視界に剣を構えた衛兵の姿が飛び込んできた。
 どうやら、剣の柄で扉の鍵を叩き壊そうとした瞬間だったらしい……。
「――何の騒ぎだ?」
 青年は、不快も露にジロリと一同を見回した。
「もっ、申し訳ありません、殿下!」
 剣を手にしていた衛兵が、狼狽しきった仕種で剣を鞘に納め、畏まったようにその場に跪く。
「おはようございます、殿下」
「よいお目覚めを、ミロ様――」
 他の衛兵や侍従らも慌てて彼に倣った。
「何が『よい目覚めだ』……まったく……」
 青年は呆れたような呟きを洩らし、溜め息をついた。
 即座に、一同が青年を畏れるようにビクッと身体を震わせる。
 怖々と美貌の青年を見上げ――主人の顔に浮かぶ微かな怒気を察して、再び頭を垂れる。
 国中の誰もが敬い、傅く、高貴な存在。
 イタール第三王子――ミロ・レイクールン。
 三人の王子の中で最も武芸に秀で、人目を惹き付ける魅力を兼ね備えていると謳われているのが、この第三王子ミロなのだった。



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2009.06.08 / Top↑
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