ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「殿下の御身辺をお騒がせしたことは、平伏して謝罪致します」
 衛兵が、心から詫びるように深々と頭を下げる。
 穏やかな目覚めを妨げられたミロは、不機嫌に衛兵を見遣った。
「しかし、事が重大なだけに我らも急いでおりました。――陛下がお呼びです」
 衛兵は事の成り行きよりも先に結論を述べた。
「……父上が?」
 意外そうに眉を顰め、ミロは視線だけで衛兵に説明を求めた。
 こんな早朝から国王である父の呼び出しがかかるとは、余程の事件が起こったに違いない。
「先ほど、キールから瀕死の兵士が逃げ込んでまいりました。大変言い難いのですが……二日前の夜、王都マデンリアがカシミア軍によって奇襲をうけた、とのことです」
「――――!」
 ミロは大きく息を呑み込んだ。
 衛兵の報告は、不快指数の高かった目覚めを彼方へ吹き飛ばすほどに衝撃的なものだった。
「キールが、カシミアに……だと?」
 ミロの双眼に怜悧な輝きが浮かび上がる。
「はい。王都マデンリアは炎上――キール城では、国王を護るために籠城作戦が展開されている模様です」
「籠城、か……。苦し紛れの延命でしかないな。わざわざラパスが手を下さなくても、水と食料が絶えた瞬間、城内は自滅の道を辿る」
「そうなる前に、陛下はキールへ援軍を送りたいとお考えです。そのための協議をしたいので、至急謁見の間に――」
「解ってる」
 急くような衛兵の言葉を、ミロは軽く手で遮った。
「残虐非道……己れの野望の為なら、如何なる手段も問わない――そんなラパスのやり方に、業を煮やしていたところだ。キールに加勢するのなら大賛成だ。奴に、このロレーヌを好きにさせてたまるか! 『平和協定』を破ったことを後悔させてやる!」
 凄みを込めて、ミロは言葉を吐き出した。
 カシミアの玉座を簒奪しただけでは満足せず、ロレーヌ全土を乗っ取ろうとしている、ラパス。
 彼の身勝手な振る舞いを赦すわけにはいかなかった。
 平和だったロレーヌに火の粉を撒き散らし、人々を苦境に陥れるなど言語道断。
 どんな大義名分があろうとも、戦争は人の生命の浪費に過ぎない。
 罪もない人々が、一握りの野心家のせいで次々と生命を落としてゆくのだ。
 そんな惨劇を引き起こさないために、遥かな昔、ロレーヌ三国は『平和協定』を結んだというのに……。
 誓約を軽んじ、破棄したラパスを、ロレーヌの人々は赦さないだろう。
「では、殿下。お急ぎ――」
「ミロ様っ! ミロ様ぁ!」
 緊迫した声音でミロを促す衛兵の声は、別の衛兵の声によって遮断された。
 皆が『何事か?』と、走り寄ってくる衛兵に注目する。
「今度は何だ? 騒々しい朝だな……」
 ミロは、目の前で敬礼する若い衛兵に減なりとした表情を向けた。
「ミロ様、城下で怪しげな者どもを捕らえたのですが――」
「…………」
 てきぱきと述べる衛兵に、ミロは呆れたような一瞥を与えた。
 キールがカシミアに侵略されるかもしれないという火急の時に、そんな下らぬ報告をしてくる衛兵が妙に恨めしかった。
「そんなもの、近衛隊長にでも任せておけ!」
「し、しかし、捕らえた囚人どもが、直接ミロ様に会わせろ、と――」
「ふざけてるのか、そいつらは? 何故、王子である俺が、囚人に呼び出されなければならない?」
 ミロは厳しく衛兵を睨めつけた。
 衛兵が気圧されたように身体を硬直させる。
「そ、それが……殿下に会って直接お話したいことがある、と……。何でも、キールの王都マデンリアの状況について詳しいことを知っているとか――」
「――キール、だと?」
 ミロは衛兵の言葉を聞き留め、表情を改めた。
 真摯な眼差しが衛兵に向けられる。
「は、はい。しかしながら、その情報は殿下本人にしか伝えられない、と強情に言い張るのですよ」
 おどおどしながら若い衛兵は受け答えする。
「どんな奴らだ?」
「ええっと……小生意気な小僧と薄気味の悪い老人と血塗れの若造ですが……」
「そんな奴らに、知り合いはいないんだがな。ま、いいさ。――会いに行く」
 ミロは軽く承諾した。
 運よくキールの情報が得られるのならば、多少の時間を割いても不都合はない。
「殿下。陛下の方は……?」
 国王の遣いにやって来た衛兵が、不安そうに口を挟む。
「父上には、すくに行く、と伝えておいてくれ。じゃ、俺は行くぞ――」
 ミロは若い衛兵に案内するよう顎で合図しながら、白金髪を翻して身を転じる。
「で、殿下!」
 歩き出そうとしたミロを、不意に背後の衛兵が呼び止めた。
「何だ?」
 面倒臭そうに首だけを後ろに捻じ曲げて、ミロは問う。
「ご心配ではないのですか? 殿下の御婚約者――キールの王女……」
「ああ、アーナスのことか?」
 ミロは衛兵が何を言いたいのかようやく察し、何度か瞬きを繰り返した。
 僅か一瞬、何処か遠くを見つめ、すぐに衛兵に視線を戻す。
「そんなこと一々訊くな。あれが、そう簡単に死ぬもんか」
 端整な顔に、不敵で確信に満ちた微笑が刻まれる。
 唖然とする一同を尻目に、ミロは止めていた足を動かし始めた。
「――あっ、殿下!」
「まだ何かあるのか? 急げと言ったのは、おまえたちだろ?」
 再度呼び止められて、ミロはうんざりしたように振り向いた。
「恐れながら、殿下……」
 コホンと、わざとらしい咳払いを一つして、衛兵が神妙な顔付きで先を続ける。
「囚人に会いに行くだけとはいえ……どうかお召し替えを。そのような格好では、イタール王家の威厳が損なわれます故……」
「――――」
 衛兵に指摘され、ミロは自分が寝起きのままの、しかも上半身裸という事実に気が付いた。
 数秒全ての動きを停止させた後、彼は無言で踵を返した。
 自室へと向かって――



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2009.06.08 / Top↑
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