ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 よく磨かれた白雲母の回廊を、ルークとアガシャは並んで歩いていた。
 二人の前には案内の侍従が歩いている。
 イタール国王レギオンとの会見のため、アーナスとは引き離されている。
 国王との謁見はアーナスしか赦されなかった。
 他のイタール王族たちも集まっているということで、今回ルークとアガシャの同行は見送られたのである。
「ここは、平和ですね」
 ガラス張りの回廊から外を眺め、ルークは呟いた。
 中庭には春の花が咲き乱れ、小鳥たちが光り溢れる朝を祝い、囀っている。
 二日前に直面した、炎上するマデンリアとは大違いだった。
「だが……姫様がイタールに援軍を要請に来たからには、その平和も長くは続くまい。ここも、いずれ戦場になる」
 対するアガシャの返答は、憂いに満ちたものだった。
「でも、アガシャ様。キールでカシミア軍を打ち倒せば、イタールにまで戦火は及びませんよ」
 楽観的にルークが切り返す。
「果たして、そう上手くゆくかな……」
 アガシャは杞憂たっぷりの声音で告げ、未来を案じるように瞼を閉ざすのだった。
「ラパス王を軽んじてはいかん……。多少強引なところはあったが、『勇猛果敢の獅子王』『公正名大な賢王』と民に称賛されていた、兄王サマリ陛下の首を斬り落とした男じゃ。……油断はできん」
「解ってますよ。それでもって、そんな悪どい奴からアーナス様を護るのが、僕たちの使命だってこともね!」
 ルークは、少年らしいスラリと伸びた長い足を闊達に動かしながら、横目でアガシャを見遣った。
「そうじゃ。……わしらは、姫様を御護りすることを陛下や王妃様からお願いされたのじゃ。生命に替えても、姫様を護り通さねばならぬ」
 アガシャの双眸が静かに開かれる。
 迷いのない眼差しが、ルークに注がれた。
「肝に銘じておきますよ、アガシャ様」
 珍しく真顔で答えて、ルークは口を噤んだ。
 いつもは陽気な少年も、アーナスのこととなると真剣にならざるをえない。
 それは、アガシャとて同じことだ。
 二人にとってアーナスは、愛すべき――かけがえのない存在なのだ。
 どんな美しい宝石も、その足元にも及ばない、至高の輝きを放つアーナス。
 彼女を失った世界など、二人には想像もできなかった。
 二人は、しばらく無言のまま廊下を進み続けた。
「――あっ……」
 ふと、ルークが小さな驚嘆の声をあげて、立ち止まる。
 視線は、ガラスの向こう側――花々が咲き乱れる中庭に釘付けにされていた。
「……《月光の美姫》」
 ルークの表情がパッと明るくなる。
「アガシャ様、先に行ってて下さい!」
 早口に告げ、ルークは軽やかな足取りで、今通ったばかりの廊下を引き返してしまう。
 アガシャはルークを引き止めることはせずに、ゆっくりと中庭へ視線を馳せんじた。
「《月姫》か……」
 アガシャの視線の先――中庭では、銀の髪の美しい少女が花と戯れていた。


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2009.06.09 / Top↑
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