ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 アダーシャの城下――東の外れに位置する遊郭を、一人の少年が足早に歩いていた。
 歩を進める度に豪奢な金髪がフワフワと揺れる。
 冴え冴えとした蒼い双眸には、綺麗な光が宿っていた。
 手足のスラリと長い、細身の美少年だ。
「よお、クラリス! 遊んでいかないか?」
 不意に、少年の手を何者が後ろから掴んだ。
 振り返ると、肌の浅黒い男がニヤニヤと口の端を歪めて笑っていた。
 男が片手を差し出す。指先には白い粉の入った包みが抓まれていた――麻薬だ。
「今は止めとくよ」
 少年は曖昧な笑みを男へ向けた。
「何だよ、ツレないな。――ヤらせてくれるなら、只にしてやるよ」
 男の腕が素早く少年の腰を抱き、力強く抱き寄せた。少年を逃すつもりはないらしい。
 少年――クラリス。
 半年ほど前にふらりとこの秩序の乱れた世界へやってきた少年。
 誰もが『クラリス』というのが少年の本名ではないことを察してはいたが、それを口外するのは遊郭ではルール違反だ。
 遊郭では他人の素性を詮索するのは御法度。
 ゆえに遊郭内におけるクラリスの人物像も限られてくる。
 クラリス以上に美しく儚く、そして無力な少年はこの遊郭には存在していない。
 それがクラリスに対するこの世界の住人たちの見解だった。
 端麗な少年の姿を見かける度に男たちは声をかけ、あの手この手でクラリスを寝台へ引き込もうと画策しているのだ。
「ごめん。今日はホントに勘弁して――」
 クラリスはもう一度笑みを浮かべると、男の手から抜け出した。
 急いでいることを強調するように駆け出す。
 男が追ってくる気配はない。
 ――ったく、人がか弱く振る舞ってやったら、すぐこれだ。
 クラリスは心の中で激しく舌打ちを鳴らした。
 クラリスは本来、無力でも儚い人間でもない。
 しかし、この大国アダーシャでは、そのように振る舞わなければならないのだ。
 彼には大切な使命がある。
 誰にも明かすことのできない想いと意志を秘めているのだ。
 クラリスは蒼い双眸に強い光を湛え、人々でごった返す遊郭を迷いのない足取りで突き進んだ。



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2009.06.13 / Top↑
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