ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 何処かで見た顔だ。
 青年を一目見た瞬間、シンシリアはもどかしさに眉をひそめた。
 これほど美しい者をそう簡単に忘れるはずはないのだが、記憶は曖昧だ。思い出しそうで思い出せない。
 魔術でこの場に闖入してきた青年は、一度目にすれば忘れられないほどの美貌の持ち主なのだ。妖艶さと神秘さを同時に感じさせる不可思議な魅力を放っている。
「断りもなしに侵入したことをお許し下さい」
 青年が謝罪の意を示すようにゆるりと頭を垂れる。
 再び面を上げた時、青年は真っ向からシンシリアを見据えてきた。
「シンシリア殿の捕らえている少年を離してはいただけませんか? 彼を傷つけると隣国の王が黙ってはいませんよ。彼はセイリア王の甥であり、第五王位継承権を持つ貴き人物です」
「……私を謀ろうとしているのか、そなた?」
 青年の口調は穏やかだが、そこには威厳と誇り高さが織り交ぜられていた。青年が高貴な出自であることは明白だ。自然とシンシリアの言葉遣いも丁寧なものへと変じる。
「とんでもありません。真実を述べたまでです。彼は、私の大切な弟なのです。――あっ、言い忘れていましたね、私の名前を。マイトレイヤーと申します。皆は、サーデンライト公と呼びますが」
 青年――マイトレイヤーが柔和な笑みを湛える。
 名を聞いて、シンシリアは目の前にいる青年と王宮で見かけた肖像画の人物とを合致させた。肖像画よりも実物の方が遙かに美しくて中々気づかなかったのだ。
「サーデンライト公爵マイトレイヤー殿……。そなたが噂の――」
 シンシリアは、クラリスの存在をすっかり忘れてマイトレイヤーに驚嘆の眼差しを向けた。それを承けて、マイトレイヤーが苦笑する。
「ええ、どうも変な噂されているようですね。私がマイセの生け贄に選ばれたそうで……。まあ、この件は措いておくとして――私の大切な弟を返してくれませんか?」
 マイトレイヤーに問われて、シンシリアはしばし考えた末に大人しくクラリスから離れた。
 茫然としているクラリスを見下ろし、彼は困惑した。何故、こんな所にセイリアの王族が来なければならないのか、見当もつかなかったのだ。
「クラリス――サーデンライト・クリーエルディスか……」
 苦々しくシンシアは呟いた。
 現セイリア国王の甥といえば、サーデンライト公爵家のマイトレイヤーとクリーエルディスしか存在していない。魔術を操る青年がマイトレイヤー本人ならば、必然的にクラリスはクリーエルディスという結論に達した。
 道理で剣の腕も立つし、兄に似て美しいはずだ。ラータのことを敵と言ったのも頷ける。
「クリーエルディス――」
 マイトレイヤーが軽やかな足取りで寝台へ接近してくる。
「私の愛しいクラリス、一体半年もの間、何処で何をしていたんだい?」
 マイトレイヤーが優しく弟を抱き締める。
 クラリスは突然の兄の出現に驚きながらも、マイトレイヤーに逢えたことを心底喜んでいるようだ。双眸に活力が戻り、両腕がその存在を確かめるようにひしとマイトレイヤーの背を抱く。
 半年振りに感動の再会を果たしている兄弟を、シンシリアは複雑な想いで眺めていた――



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2009.06.13 / Top↑
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