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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.06.10[21:31]
     *


 綺璃は夢を見ていた。


 暗闇の中を歩き続けている。ただひたすらに。
 クスクス、クスクス……。
 不意に、闇の中に笑い声が響く――綺璃の背後から聞こえてくるようだ。
 ハッとして振り返ると、一人の愛くるしい少女が立っていた。
 ――水鏡……!?
 碧い髪と瞳の美しい少女。
 幼き頃の水鏡の姿だった。
 綺璃は反射的に彼女に触れようと手を伸ばした。
 しかし、彼女は綺璃の身体をスッと通り抜けたのだ。
『兄者! 兄者!』
 水鏡が無邪気に笑いながら闇の中を駆けてゆく。
 彼女の進む先には、銀髪の少年が佇んでいた。
 ――彩雅……!
 綺璃は少年の名を呼んだ。
 だが、やはり声は双子には届かない。
 幼い水鏡は、自分と同じ顔をした兄の手を取ると、闇に紛れるようにして何処かへ姿を消した。
 ――彩雅! 水鏡!
 綺璃の叫びは虚しく闇に吸い込まれてゆく。
『綺璃――』
 ふと、また別の誰かが現れる。
 綺璃の眼前を気丈そうな女性が通り過ぎて行った。
 ――鞍馬っ!
 愛しい妻だった。
 綺璃は咄嗟に彼女を追っていた。
 妻の後ろ姿を見失わないように、必死に闇に覆われた世界を駆け続ける。
 時という感覚は、既になかった。
 ――どれくらい、こうして走り続けたのだろう?
 そんな疑問が脳裏をよぎった瞬間、前方に白い光が見えた。
 鞍馬が躊躇わずに光の中へと身を投じる。
 ――あそこへ行けば、この闇から抜け出せるのかもしれない。
 単純にそんな結論に達して、綺璃は鞍馬に続いて光の中へ飛び込もうとした。
『いけません――』
 決然とした声が耳を打つ。背後から力強く腕を掴まれた。
 驚いて後ろへ首を巡らせると、見知った少年の姿があった。
 ――雪……!?
 それは、紫姫魅によって生命を奪われたはずの雪だった。
『ここで何をしているのです、炎天様? 早くお戻り下さい』
 雪の真摯な眼差しがひたと綺璃に向けられる。
 ――戻る? 何処へ? ここは一体何処なんだ!?
 綺璃は己の措かれている状況が把握できずに、矢継ぎ早に疑問を口にした。
 雪は――答えてはくれなかった。
 少年の姿は、いつの間にか女性へと変じていたのだ。
 薄紫の髪に紅玉の瞳を持つ、艶麗な少女。
 綺璃もよく知っている人物だった。
『綺璃、ここはおまえのいるべき世界ではない。おまえが死んだら、鞍馬天はどうなる? 彩雅は? ……おまえを助けるために身を擲った雪は?』
 ほんの僅かだが、少女の顔が哀しげに歪んだ。
『おまえは――生きなくてはならないのだよ』
 諭すように少女は言葉を紡ぐ。
 ――しかし、どうすればいい? どうやったら、ここから脱出できる?
 綺璃は渋面で少女を見返した。どれだけ進んでも世界は闇に包まれているのだ。綺璃には突破口があるようには思えなかった……。
『私についてくるだけでいい』
 少女は簡素に告げると、綺璃の有無を問わずに手を引いて歩き始めるのだ。
 漆黒の闇の中を少女に導かれながら彷徨う。

 再び、時という感覚が失われた刹那、綺璃の意識は急激に夢の世界から離脱した――



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