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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.11[00:15]
 レギオンが一つ頷き、改めて口を開く。
「マデンリアには、ローレン、そなたを遣わす」
「――はい」
 レギオンに応えたのは、玉座に最も近い位置に座る金髪の青年だった。
 ミロに似た眼差しの持ち主は、イタール王太子ローレン・レイクールン。
 レギオンの第一子である。
「グレスティ将軍、ローレンの補佐を頼むぞ」
 レギオンに命じられて、ローレンの隣に座る白髪混じりの男が寡黙に頷いた。
 レギオンとローレンの信頼が篤いイタールの老将グレスティだ。
「そなたたち二人は、早急に兵を整え、明日にでもキールへ向けて出発せよ」
「はっ……」
 レギオンの命令に、グレスティが再度頭を垂れる。
「畏まりました。必ず、キールをカシミアの魔手から救ってみせます」
 ローレンは穏やかに、だが確固たる意志をもって断言した。
「よし。頼んだぞ」
「――お待ち下さい、陛下」
 頼もしげに二人に言葉を掛けるレギオンの声に、若い女性の声が重なった。
 アーナスは、その声に導かれるようにして、立ち上がった女性に視線を流した。
 珍しい銀灰色の髪が、一際目立つ女性。
 アーナスと大差ない年頃の少女だった。
「どうしたのだ、アリシュア?」
 レギオンが意外そうに少女を見遣る。
「わたくしも、カシミア討伐軍の一員としてキールへ参ります」
 真摯な光を宿した黒緑の双眸が、レギオンに向けられた。
「――アリシュア」
 彼女を嗜めるように、隣の青年が静かに口を挟む。
 白金髪に紫色の瞳を持つ悠然とした青年の名は、リオン・レイクールン。
 イタールの第二王子である。
 そして、少女は彼の妻――アリシュア・レイクールンだった。
「……マデンリアでは、王妃リネミリア様が、魔法でカシミアの攻撃を防いでいると聞きます。わたくしがマデンリアへ赴けば、王妃様の手助けになりましょう」
 アリシュアは夫の制止を振り切って話を進める。
「確かに……そなたは数少ない《銀灰の守り》だ。魔法に関しては、他の魔術師を遙かに凌駕する力を備えておる。リネミリア殿に力添えもできるだろう」
 レギオンが、思案するような面持ちでアリシュアを見つめた。
《銀灰の守り》――太古の昔、大陸で唯一、神から直接魔術を授けられた貴き一族。
 その血と神から伝えられた秘術を守るために、血族結婚を繰り返してきた。
 皮肉にも、それらの秘密主義が悲劇を生んだ。
 度重なる同じ血と血の交配が、子供を授かりにくくしてしまったのである。
 外からの血を混ぜなくては種の存続ができなくなり、生粋の《銀灰の守り》は激減した。
 滅多にお目にかかることの出来ない稀有な存在。
 アリシュアは、その末裔だった。
 彼女の珍華な銀灰色の髪が、《銀灰の守り》である確かな証しなのだ。
「父上、あまりアリシュアをその気にさせないで下さい」
 リオンが溜め息混じりに発言する。
「カシミアはアリシュアの故国ですよ。敵とはいえ、故国と相対させるなんて」
「リオン様……それは、わたくしがイタールとキールを裏切り、カシミア側に寝返る恐れがある、ということですか?」
 リオンの言葉に、アリシュアは哀しそうな眼差しを彼へと向けた。
「そうは言ってないだろ。私はただ、カシミアと戦うのは精神的に辛いのではないかと思って……」
 リオンの手がそっとアリシュアの手に添えられた。
 アリシュアの顔がフッと和む。
「わたくしは大丈夫です。わたくしは……誰よりも、何よりも、リオン様を愛しています。わたくしがリオン様を裏切ることは、生涯ありませんわ」
「愛の語らいなら、後でゆっくりとやってくれ、アリシュア」
 レギオンが、見つめ合う息子夫婦に苦笑を浮かべる。
 それは、ほんの一瞬のことで、レギオンの顔はすぐに王者の厳格な表情に取って変わった。
「余は、リオンの言い分にも一理あると思うぞ。生まれ育ったカシミアを相手に、そなたが充分な魔力を発揮できるとは言い切れないだろう。心が痛まないはずがない」
「それは有り得ませんわ」
 アリシュアがすかさずレギオンの言葉を否定した。
 眼差しに憎しみの光が宿る。
「わたくしの兄は、ラパスに殺されているのですよ! わたくしがカシミアで生まれ育ったのは、変えようのない事実です。……半年前、わたくしは望んでカシミアからリオン様の元へ嫁いで参りました。その直後――兄、ロシェル公爵ラギは、ラパスの謀叛によって殺害されたのです。兄は……先王サマリ陛下の腹心でしたから……」
 アリシュアの黒緑の双眸が何度か揺らいだ。
 瞳に溜まった涙が、痛切な哀しみを訴えている。
「兄は、ラパスに殺されました。わたくしは……わたくしは、心底ラパスが憎いのです。どうか陛下、わたくしをキールへ遣わして下さい」
 哀願するように告げて、アリシュアは涙を堪えるように唇をきつく引き結んだ。
 レギオンが、神妙な顔でアリシュアとリオンを見比べる。
 リオンがきっぱりと首を横に振ったところで、レギオンの決断は下された。
「アリシュア。やはり、そなたはレイ城へ残った方がよい。今回は、ローレンとグレスティに任せておけ」
「……畏まりました」
 アリシュアは、それ以上食い下がることはせずに、残念そうな表情を浮かべただけだった。
 消沈した様子で席に着く。
 いつ如何なる時でも、国王の命令は絶対なのだ。
 無闇な反撥は赦されない。



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