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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.11[00:36]
「――では、私はカシミアとの国境付近に一軍を構えて、待機します。手薄になったイタールをカシミア軍の別動隊に狙われてはたまりませんからね」
 アリシュアが大人しくなったのを見届けてから、リオンが言葉を発する。
「うむ。頼んだぞ、リオン」
 深く頷くレギオン。
「――レギオン陛下」
 不意に、アーナスは立ち上がった。
 論議を客観的に見守っていたアーナスだが、今まで自分の名が出てこないのに、内心苛立っていたところなのだ。
 祖国キールを救うためなのだから、自分もカシミア討伐軍に加わって当然だ。
 それなのに、レギオンはアーナスに何の指示も与えない。
 存在を忘れられていたのならば腹立たしいし、何か裏があるのならば知っておきたい。
「私はローレン殿下とグレスティ将軍の一軍に加わってよろしてのですね?」
 確認の問いを発する。
「いや、アーナス殿にはミロとともにレイ城に逗留していただく」
 レギオンの返答は極めて簡潔で、意外なものだった。
「何故です? キールを救うのに、王女たる私が戦に出陣しなくて何になります?」
 アーナスは険しい表情でレギオンを見据えた。
 レギオンが真っ向からアーナスの視線を受け止める。
「万が一のためなのだよ、アーナス殿」
「……『万が一』とは、どういう意味です?」
 きつく眉根を寄せるアーナス。
 レギオンの言いたいことはすぐに悟った。
 だが、感情がそれを否定したがった。
 レギオンの次の言葉を受け入れたくなかった……。
「戦では、常に最悪の事態に陥った時のことも考えねばならない。もしも……ローレンらがカシミアに敗北し、キールがカシミアの支配下に置かれた場合、このロレーヌ全土が戦場となる。その時――」
 レギオンの視線は、アーナスに注がれたまま動かない。
「アーナス殿には、対カシミア戦の象徴となっていただく」
「――――!」
 告げられた刹那、アーナスは強張った表情でレギオンを見返していた。
「そなたの意にそぐわぬのは、重々承知だ。だが――大きな戦になる。兵を募るにも、軍の士気を鼓舞するのにも、一つの熱狂的な対象が必要となるのだよ」
「それが……私、だと?」
 アーナスは叫びだしたいのを懸命に堪えて、低い声音で言葉を紡いだ。
 我知らず、両の拳に力が籠る。
「そうだ。アーナス殿の名は、このロレーヌをはじめ大陸全土に広まっておる。『エルロラの寵愛を賜った神童』を知らぬ者はいない。加えて、その美貌だ。神剣ローラを持つ烈光の女神――アーナス殿が戦場でローラを掲げるだけで、そなたを崇拝する一千一万の兵が狂喜するだろう。エルロラとローラの名は、それだけ偉大なのだよ。そなたが否定しようとも、それは紛うことなき事実なのだ」
 レギオンの言葉が妙に遠くに聞こえた。
 ――どうして……?
 何故、いつもいつも『エルロラ』なのだろう?
 名前ばかりが先行する。
 本物の自分とは――『ギルバード・アーナス』とは、一体何者なのだろう?
 間違いなく、確かに、神ではなく、ただの人間なのに……。
「私を『飾り』として祭り上げるのですね?」
 アーナスは限り無く感情のない口調で告げ、グッと奥歯を噛み締めた。
「万が一の場合だ、アーナス殿。だが、もし、そうなった場合『エルロラ』の名を最大限に利用させてもらうことだけは、覚悟していただきたい。そなたには『ギルバード・アーナス・エルロラ』という名の女神になっていただく」
 レギオンの酷な宣告が、また遠くに聞こえた。
「……私は……私は――」
 アーナスは震える声で呟いた。
 心が破裂しそうだ。
 自分が――『ギルバード・アーナス』という個人が、抹消されゆく。
 自分の意志とは無関係の、その他大勢の人々の手によって……。
「……私は……」
「アーナス」
 立ち竦むアーナスの腕をミロがそっと掴み、引き寄せる。
 アーナスは力なく椅子に崩れ落ちた――



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