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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.11[00:43]
「アーナス! ――アーナス!」
 先を行く眩い黄金の髪を、ミロは半ば駆けるようにして追いかけていた。
 アーナスは謁見の間を退出して近衛兵からローラを受け取るなり、一人でさっさと歩き出してしまったのだ。
 背筋の伸びた後ろ姿には裡なる葛藤と焦燥が滲み出ているように、ミロには感じられた。
「待てよ、アーナス!」
 ミロは振り向かないアーナスに大股で接近し、その腕を掴んだ。
 アーナスの足が止まり、不機嫌そうな顔がミロを軽く睨んだ。
「離せ!」
 短く鋭い声と共に、もう一方のアーナスの手が挙がる。
 ミロは力強く、その腕も押さえ込んだ。
「アーナス! 言いたいことがあるなら、俺に言えよ!」
「――――」
 ミロの言葉に、ふとアーナスの顔が歪んだ。
 苛立ちとも困惑ともとれる表情が、アーナスの美貌に浮かび上がる。
「……何故、いつも『私』なのだ?」
 自問するような囁き。
「おそらく、レギオン陛下の言っていることは、正しいのだ。エルロラは、この大陸の創造主だ。誰もが……敬意と崇拝の念を抱いている。陛下の述べた通り、エルロラの名は絶対的であり不可侵のものだ……。その名に、絶大な効果があるのも認める。だが――」
 アーナスはミロを見上げ、一旦言葉を切った。
 何かに怯えるような、揺れる眼差し。
「何故、『私』なのだ?」
 転瞬、その双眸が燃え上がった。
 熱く激しく――しかし、それでいて冷ややかな光を放っている。
 氷のように研ぎ澄まされた苛烈な眼光が、挑むようにミロを見つめている。
 吐き出した言葉の解答と、救いを求めるように……。
「たまたま――エルロラが気紛れで、私にローラを授けただけではないか!? 何故、私でなければならなかった? 何故、いつもいつも私なのだっ!?」
 胸中を暴露するような叫び。
 血のような心の叫びは、普段は決して他者に見せることのない本心。
 アーナスをエルロラの化身と勘違いし、彼女に『何か』を見出し、求める――そんな人々に晒け出してはならない、彼女の本当の姿だった……。
「アーナス――」
 ミロは、急に胸を締めつけられるような痛みに襲われた。
 目の前の美姫は、まだ二十歳にもならぬ少女なのだ。
 生まれた時より『エルロラ』の名を背負わされ、そうあるように周囲から望まれ、躾られ――その重責に耐えられなくなったしとても、誰が責められよう?
 彼女は、人々から望まれるままにずっと本当の『自分』を押し殺し、隠して生きてきたのだ。
 逃げ出したくなるのも当然のことだ……。
「私は私で――他の誰でも……エルロラなどではないっ!」
「アーナス!」
 ミロは、喚き出すアーナスを抱き寄せていた。
 まだ何か叫び出しそうな唇に、自分の唇を重ねる。
 一瞬アーナスの身体が強張り、ミロを突き放そうとしたが、ミロは強い力で彼女を抱き締め、離そうとはしなかった。
「アーナスは、アーナスだ。他の誰でもない」
 唇を離し、耳元でそっと囁く。
「ミロ……?」
「おまえには俺がいる」
 断言して、ミロは再び唇を重ねた。
 今度はアーナスも抗わなかった。
 二人は身を寄せ合い、長い間、口づけを交わしていた。



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